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レビュー

怖くて震えていた自分を、変えたかったんだ――これはサンタがくれた、贈り物『君にささやかな奇蹟を』

【カドブンレビュー】

 この物語が届けてくれるもの。それは少しの勇気とあたたかな気持ち。

 百貨店のおもちゃ売り場で働く阿部伊吹26歳。伊吹には夢を諦めた過去がある。ある日、伊吹の勤める百貨店の社長に呼び出され、「――サンタクロースと結婚してみないか?」と持ちかけられる。最初は理解不能だったが、事情もわかりサンタクロースに会うことに。

 そのサンタクロースとは、サンタクロース家108代目当主、明日真・ニコラオス・聖也27歳。とある事情で引きこもっている。1年以内に結婚相手を見つけないと当主の座から降ろされてしまうという。今まで何度も花嫁候補に会ったのだが、相手をすぐに怒らせてしまうため会話もままならなかった。伊吹のことも怒らせてしまうのだが、亡き母の面影を見て一目惚れ。聖也は諦めきれず、情けない自分を変えようと決意する。

 二人の最初の印象は、伊吹にとっては最悪で、聖也にとっては今までにない気持ちを抱かせるものだった。物語は、伊吹と聖也の視点で交互に進んでいく。

 なんだか、ぶっ飛んだ話なのかなと思っていたら、人間味溢れるキャラクターたちばかりで自然とこの世界観に引き込まれてしまう。サンタクロース家の存在もすんなりと受け入れてしまえるのだから不思議だ。聖也の感情の振れ幅、思ったことを口にしてしまうところ、執事たちとの掛け合いには爆笑しっぱなしだった。伊吹の前ではカッコいいところを見せようと頑張る聖也だが、執事たちの前では、まるで駄々っ子のようなのだ。

 そんな聖也は伊吹に認められたい一心で懸命に変わろうとする。聖也の行動は空回りしてしまうが、どこか憎めない。ある日、聖也は伊吹の願いを知り、それを叶えるために執事たちと奮闘しはじめる。一方で伊吹もだんだんと、聖也の懸命な姿に影響されていく。恋や人生から逃げてしまう自分を変えたいと思うようになる。二人共とても怖がりなのだ。立ちはだかる壁は違えど、誰もが抱いたことのある不安に親近感すら覚えてしまう。

 1つ、2つと二人にとって騒動はあるが、それを乗り越えていく度、互いの想いが近づいていく。それぞれの場所で変わろうとする二人。怖くて震えてしまうような最初の一歩は、自分のためであり、相手のためでもあった。そして伊吹と聖也のそれぞれの幸せを願う、家族や友人、執事たちの支えが心にしみる。

サンタクロースとは、大切な人を幸せにしたいと願う、その真心なんだと僕は思う。

 なにも特別なことではなく、誰もがサンタクロースになれるという。この想いに辿り着いた聖也の姿に涙が出てしまう。人と触れ合い一歩踏み出したことで、大切なことに気づき少しずつ変わることができたのだ。そんな聖也を見て、伊吹も力が湧き大きな壁に立ち向かっていく。

 この物語は、まるでサンタクロースからのプレゼントのよう。誰かを喜ばせたくてウズウズしていたかのようだ。なぜなら、沢山の笑いと人を想う優しさがギュッと詰まっており自然と顔がほころんでしまうのだ。それと同時に、時間の経過と共に忘れていた小さな喜びや大切な思い出が呼び起こされ、心がとてもあたたまる。

 是非、あたたかい気持ちに包まれながら、二人の想いを見届けてほしい。


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