話題沸騰! 下村敦史さん『サハラの薔薇』が発売たちまち重版決定!
絶賛の声が止まらない本作の重版を記念して、カドブンでは「6人のカドブンレビュアーによる6日間連続レビュー」企画を行います。6人のカドブンレビュアーは本作をどのように読み解いたのか? ぜひ連続レビュー企画をお楽しみください。
迷っている時間はない。極限状態で何度も突きつけられる究極の選択。そして最後に待ち受けるものとは――。
考古学者の峰は、エジプトで発掘調査中に、王家の墓に埋葬された石棺を発見する。そこに眠っていたのは、死後数か月の何者かのミイラだった。その後、峰は滞在先のホテルで何者かに襲われるが危うく難を逃れる。どうやらミイラを発見したことと関係しているらしい。数日後、招聘されたパリへ飛行機で向かうことに。しかし、その飛行機が墜落。そこは、サハラ砂漠だった。
生存者は、老若男女合わせて13人。その中の1人が、飛行機の中からオアシスを見たと言い出す。墜落現場に残るのか、オアシスを目指すのか。生存者のうちオアシスの存在に賭けたのは、峰、飛行機オタクのエリック、何かを思いつめている技術者の永井、粗暴で残酷なアフマド、美しく妖艶なベリーダンサーのシャリファ、不気味な呪術師の6人だ。この6人を中心に物語は進んでいく。
大自然の砂漠、見渡す限り、砂、砂、砂。歩いても、歩いても、オアシスに辿り着けず苛立つ一行。写真で見たら綺麗であろう砂漠の景色も、一行には何の慰めにもならない。飲食物はわずかで、容赦なく照らし続ける太陽と夜の寒さが、6人の気力、体力を奪っていく。
そんな中、一行に追い打ちをかける出来事が襲う。唯一オアシスを見たと言ったエリックが、砂漠に潜む生物に噛まれ瀕死の状態になってしまうのだ。苦しみ助けを求めるエリックを見捨てるのか、見捨てないのかで意見が分かれ一触即発の事態に。元々、同行者が1人減れば、わずかな飲食物の取り分が増えると考える人物もいる。とてもキナ臭い。一行は砂漠の脅威だけでなく、同行者にも注意しなければならない。そしてその後も一行に、何度も究極の選択が突きつけられることとなる。
少し驚いたことがある。読書中、究極の選択にぶつかる度、どちらを選ぶのか? と悩み楽しんでいた。読後振り返ってみると、自分の選択には、思った以上に意外なものが多かったのだ。是非、究極の選択に触れて欲しいと思う。
そしてサバイバルだけでなく、謎めいたキャラクターたちにも注目してもらいたい。例えば、紅一点のシャリファは、砂漠行中に荷物を持ってもらいたい等と、何故だか色々と永井に任せたがる。つまりこの過酷な状況で、永井に負担をかけたがるのだ。いったい何が目的なのかと興味を抱かずにはいられない。そして少しずつキャラクターたちの正体が判明していく度、胸につかえていたモヤモヤが解消され気持ちがいい。今まで不自然だった会話や行動が、全て腑に落ちるのだ。だが、なかなか永井の正体が掴めない。何か大きなものを抱えているようなのだが――。
終始ハラハラとしてしまうこの作品。絶望と希望の狭間で生きのびたいと願う人間の執念、ずるさ、脆さが繊細に描かれており、極限状態に追い込まれた人間の本性を何度も間近に感じられる。そして結末に向けて大きな謎がちらつく度に、サバイバルとは違うスリルも感じられるはずだ。
サハラの薔薇とは? 峰の発掘したミイラの正体は? 13人の生存は? 永井の抱えているものとは? スリル、臨場感を味わいながら数々の謎に迫り、そして最後に待ち受ける驚愕の真相に辿り着いて欲しい。