【カドブンレビュー】
日が沈み始め、どこか物寂しさを感じさせるような閉園前の動物園。そこを舞台に、母親のジョーンと息子のリンカーンは、閉園で閉じ込められないように急ぎ足で出口を目指して歩いて行く。
リンカーンは、様々な物事に興味を示す年頃で、気になったことがあればすぐにジョーンにたずねて、自分の頭の中の世界を広げていくのである。凝り固まった常識には囚われていない子供ならではの世界観で問答を繰り返すそのやりとりは、ジョーンにとってもかけがえのない時間になっているのであった。
そのような微笑ましいやりとりを繰り返しながら、動物園の出口に近づいたとき、物語は一変する。出口へ続く道中に複数の死体が転がっていた。その先にはライフルを持った男性が佇んでいるのである。
ここから物語は、静かに急展開を迎える。
犯人から逃れるために、ジョーンは多感な子供を抱え息をこらしながら動物園内を逃げ回る。逃げながらも、無邪気に身の回りの世界について疑問を持つ少年と、そのやりとりに愛おしさを感じながらも、息をひそめなければならないことに苦悩する母親は、窮地を脱することができるのか。
情景がありありとイメージできる描写に、読んでいて思わず息が止まるかのような感覚を抱きながら一気に読んでしまった。まるで映画を見ているかのように、逃げ回る情景や物音一つ立てないように息をひそめる様子のイメージが浮かび、どんどん読み進めてしまった。
また、純粋なリンカーンとジョーンのやりとりに穏やかな気持ちになりつつも、犯人の動向は常に気になり落ち着かないという、読みながらジョーンの視点や感覚を自然と持ち、ずっと緊張しっぱなしであった。
物語は、親子と犯人だけではなく、取り残された赤ん坊、犯人を知る者であったりと、様々な人物が登場する。場面も次々と展開されていくため単調さを感じることなく、読み進めるごとにまた新たな緩和と緊張を感じることができた。新たな人物の登場や場所の変化によって起こる一定の緩和と、犯人の気配による緊張の交互の切り替えは、読者が手に汗を握るように仕向けたとしか思えない構成であるのだ!
犯人から逃げ続けることで、どんどん疲弊していく親子の様子を読んでいて、また口数が減っていくリンカーンの様子に心を痛めながらも、最後まで一気に読み切った。いや、読み切ったというより、走り抜けたという方が正しいような動悸を自分の心臓にありありと感じながら、本を置いたのであった。