【カドブンレビュー】
絶望的なサハラ砂漠決死行の果てに主人公が見た戦慄の真実とは。
考古学者の峰が率いる発掘調査グループが、エジプトで調査中に石棺から不可解なミイラを発見したことから物語は始まる。
発見直後から峰の周りで起こる不穏な出来事の数々。エジプト考古省に預けたミイラが武装グループに強奪され、ホテルの部屋では賊に襲撃される。そんな騒動の中、フランスの博物館館長から招聘を受けた峰は空路フランスへ向かうこととなる。そしてその飛行機は、あろうことかサハラ砂漠の真ん中に墜落するのだ。
峰を含め、墜落から九死に一生を得た人々は、その場で助けを待つべきだというグループと、水や食料が尽きる前に歩いて砂漠を脱出するべきだというグループに分かれる。
そして「墜落直前に少し先にオアシスがあるのを見た」という情報を頼りに、峰をはじめとする6名が砂漠への決死行を選択する。正義感が強い永井、粗暴なアラビア系の男アフマド、オアシスの存在を主張し案内をするエリック、怪しい老呪術師、謎めいた美女シャリファ。それぞれの思惑を秘めた個性的なメンバーと共に出発した峰だったが…。
場面転換もなく、時系列に沿ってひたすらにこの砂漠行を描いているため、次第に読み手は自分もメンバーの一人となり灼熱の砂漠を歩いているような錯覚を覚え始める。次々に襲いかかる自然の脅威、そして人間の悪意と暴力。そんな極限状態の中で打算や保身、虚栄心や利己的な考えに囚われ揺れ動く峰。そう、主人公は決して英雄的な正義の味方でも、スーパーマンでもないのだ。自らの生死を分ける究極の決断を幾度も迫られる峰の葛藤はそのまま読み手の葛藤となり、都度下される峰の判断に「それは仕方ないよ。お前は悪くない。」「いや、それはちょっと酷いんじゃないか。」と共感や憤慨を繰り返すことになる。
灼熱の太陽に削り取られる体力、ゲリラの襲撃、砂漠の民との出会い、深まる謎の数々。極限状態の中、疑心暗鬼に陥るメンバー。果たして無事灼熱の砂漠を生きて出られるのか。そしてミイラの謎は。「サハラの薔薇」とは。
物語の終盤、二転三転しながら徐々にその全貌を露わにする真実に戦慄する。そして、手に余る秘密を預けられ自らの正義を試される峰の姿に、読み手は自分の姿を重ねることになる。目の前の現実から目を背けるな、お前ならどうする。作者はそう問いかけているのだ。
手に汗握るサバイバルアドベンチャーと、現代社会に警鐘を鳴らす社会派ミステリを見事に融合させ、
強烈なメッセージを訴えかける本作は、作者らしい気概と覚悟に満ちた読み応え抜群の傑作だ。