2017年に発売された作品の中からカドブンレビュアーが選んだ「2017年ベスト3」をご紹介いたします。年末年始のブックガイドにお役立てください。
>>カドブンレビュアー・森隆志が選ぶ「2017年ベスト3」
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室町時代後期の京都で創業、現在まで和菓子屋を営む虎屋。そのホームページで、歴史上の人物にまつわるお菓子の逸話が連載されています。これまで紹介されたなかから100人を厳選。加筆・修正されて誕生したのが本書です。
紫式部「源氏物語」若菜上に見える椿餅に始まり、谷崎潤一郎が“瞑想的”とその色を記した羊羹、徳川吉宗の好物であったという安倍川餅、来日したペリーやハリスをもてなした数々の菓子、森鷗外の長女茉莉の思い出の有平糖まで、登場人物とエピソードはさまざま。
長い歴史のなか、日本人の人生の喜び悲しみのときに、常に寄り添ってきた和菓子について綴る文章は口あたり優しく、丹精込めて炊きあげ練られた上質の餡のよう。
そして装幀。やわらかな手触りのカバーとしおりは桜餅のような薄桃色、花布は若草色。目で見て季節の彩りを、指先で触れてその感触を楽しむ。この本には和菓子を作るような心配りが込められています。
虎屋だからこそ作ることができた一冊と言え、さらに版元は歴史出版物の雄、山川出版社。さすがと言うほかありません。
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コクトー、サルトル、ヘミングウェイ。シャネル、キャパ、ゲーリング……。
目次のあとの主要登場人物のリストには、第二次世界大戦末期、ドイツ軍占領時代の終わりの日々を、パリ、ヴァンドーム広場に面したホテル・リッツで暮らした錚々たる著名人たちが名を連ねている。
著者であるマッツェオ氏は、近年公開された戦時中の機密文書と丹念なインタビューを元に、あの戦争のあいだにホテル・リッツで続いた、あるいは終わった、数百におよぶ彼らの生と死を鮮やかに再現する。
その焦点の多くは著名人たちではなく、創業者一族や総支配人、シェフやバーテンダーなど、ホテルで働くスタッフに向けられている。
戦時下であっても変わることのなかった、壮麗で豪奢な名門ホテル。おそらく明日にはパリが燃えるという日。市の三分の二がドイツ軍部隊に包囲され、空が砲火で明るくなっても、すべてをいつもどおりに整えた人々。
『歴史の証人』とは、ホテル・リッツの窓越しに世界を見つめていた、ほかならぬ彼らを指しているのかもしれない。
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銀色の血と超能力を持ち、支配者として君臨するシルバー。彼らの奴隷である、赤い血を持つレッド。
その世界で、シルバーだけが持ち得るはずの力を顕現させたレッドの少女メアは、王家に囚われ偽の王女としての生を与えられる。
一夜にして奴隷から王女へと転身するメアはまるでシンデレラ。ただしこのシンデレラは、ガラスの靴で運命の薄氷を踏みぬいていくタイプだ。
レッド・クイーン。赤の女王といえば、『鏡の国のアリス』に登場するその人を連想する。
彼女の世界では、同じ場所にとどまるには全速力で走り続けるしかない。別の場所に行きたいなら、全速力の二倍の速さで走らなければならない。
メアはこの不条理な世界の赤の女王だ。
シルバーの力を持つレッドの少女は、同時にレッドでもシルバーでもない。ふたつの血を巻き込んで、変化の先へと世界を推し進めるしか生き残るすべはない。
その愚かさで多くの犠牲を払いながらも、立ち止まることはできない。赤の女王は走り続ける運命にあるのだから。
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