2017年に発売された作品の中からカドブンレビュアーが選んだ「2017年ベスト3」をご紹介いたします。年末年始のブックガイドにお役立てください。
個人的に2017年面白かった本3冊。
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木下 昌輝『敵の名は、宮本武蔵』(KADOKAWA)
無敵の剣豪・宮本武蔵。彼に挑んだ7人の剣豪たちの生き様を描いた連作短編集。
武蔵に挑むのだから、当然負ける。しかし「男には、負けると分かっていても戦わなければならない時がある」のだ!
中でも切ないのが第二話「クサリ鎌のシシド」。
幼くして孤児となった少年シシドは千春という少女に命を救われる。そのまま離れ離れになって20年。千春は売られて遊女となり、シシドは生きるためにクサリ鎌を極めた。ある村の用心棒となって、千春を買い戻すための金を必死に貯めるシシド。しかし、彼の強さと無垢な心を利用しようと集まって来た取り巻きたちが陰で悪事を働き、村人に疎まれるようになる。遂にシシド討伐のため、宮本武蔵が雇われた。大事な金を守るため、千春の恩に報いるため、二人の避けられない戦いが始まる!
自らの技を磨き武蔵に挑んでいく男たちには、それぞれに陰があり、色気がある。女性が読んでもきっとお気に入りのキャラクターが見つかるはずだ。
更に、彼らとの死闘を通して、武蔵の成長も描かれていく構成は見事だ。
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原作:吉野 源三郎 漫画:羽賀 翔一『漫画 君たちはどう生きるか』(マガジンハウス)
80年前に刊行された名作小説を漫画化した話題のベストセラー。原作は、宮崎駿の次の長編アニメの題材にもなる予定だ。
主人公は、優しくまっすぐな心を持つ少年、潤一。あだ名はコペルくん。彼の日常を描いた物語だ。
クラスのいじめっ子に独り戦いを挑もうと立ち上がった北見くんの勇気。気弱ないじめられっ子だと思っていた浦川くんが、家業の豆腐店を立派に手伝っていることを知った時の驚き。
友だちを守りたいと思いながらも、暴力への恐怖から一歩が踏みだせなかったコペルくん。何か事件が起こる度に、コペルくんは近所に住む仲良しの叔父さんに報告をする。叔父さんは時に寄り添い、時に導きながらコペルくんと一緒に成長していく。
「立派な人間とは何なのか、立派な人間になるにはどうすればいいのか」を、決して説教臭くなく、まっすぐに問いかけてくる。様々な気づきと、感動にあふれた一冊。
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山本 龍彦『おそろしいビッグデータ』(朝日新聞出版)
ビッグデータとAIの発展によって多大な恩恵がある一方、リスクも高まることを分かりやすく書いた新書。
ビッグデータを解析することで、個人の趣味趣向だけでなく、行動すらも予測や誘導が可能な時代になりつつあるという。果たしてその中で、人間はどこまで自らの意志で生き方を決められるのだろうか。
先に紹介した『君たちはどう生きるか』は、「自分の生き方を決定できるのは、自分だけだ」という信念に裏打ちされた本だった。
ある意味、対をなすような本であり、これから多くの小説家が挑むべきテーマが詰まっている。
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