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レビュー

噛みしめるほどに味わい深い、鶏肉は人生だ!

 やっぱり肉ですよ、肉!
 ……すみません。でも、肉が嫌いな人なんているんですかね。体質的に食べられない人はいましたけど、それ以外で会ったことないですよ、肉ぎらいの人。
 つまり、肉を題材にした小説も、みんなに好かれるに決まってると。もう「肉文芸」ってだけで、愛される宿命にあるってことですよね。というわけで、いまは角川文庫から出ている坂木司さんの『肉小説集』は、読む前から面白さ確定だったのです。
 そして、このたび発売された坂木さんの新作が『(とり)小説集』! 豚肉を扱っていた『肉小説集』に続いて、今度は鶏肉ですよ!
 何といっても、肉の御三家「牛、豚、鶏」の中で、一番は鶏肉だと思うのです。だって肉の三大調理法「ソテー、フライ、からあげ」を全部メジャー級にこなしてくれるのは、やっぱり鶏肉じゃないですか。それなのに値段は安いというね。コスパもポテンシャルも最高ですよ、鶏肉!
 ……すみません、作品の話をそろそろしなきゃですね。前の『肉小説集』がみんなに支持されたのは、美味しそうな肉料理がいろいろ出てくるから、だけではもちろんなくて、坂木さんならではの「等身大小説」の傑作だからなのでした。当たり前の日常で、誰もが抱えているような不安や不満を、登場人物たちもやっぱり持っていて、それが肉料理を通した他人とのかかわりで、なんとなく浄化されていく。生きることの苦みと喜びを、ふんわりと味わわせてくれる短編集でした。
『鶏小説集』でも、その味わいは受けつがれているのですが、今回は短編の一つ一つが、同じ時期、同じ町の話で、それが連作短編というのとは違う、ゆる〜いつながりになっているところが面白いです。短編それぞれの味わい深さだけではなく、話がお互いにどうつながっているのかな、という興味が加わっています。
 中でもワタクシが好きなのは、第一話の「トリとチキン」、第二話の「地鶏のひよこ」です。『鶏小説集』には、五つの話が収められていますが、第一話はある家族の息子、第二話はその父親の話で、表裏一体となっています。作中と同じ、高校生の息子をもつ父親であるワタクシにとって、めちゃめちゃ刺さってくるストーリーでした。思春期の男子がなんとなく感じている孤独感と、父親になりきれない男の苦しみ。息子側と父親側、両方からリアリティと説得力のある話が描かれているところに、坂木さんの非凡さが発揮されています。とくに、第一話の子供から見た父親と、第二話の父親本人の心情にすごく落差があるところは、ウームとうならされました。
 以前、ある男性タレントがインタビューで語っていたのですが、テレビの収録で連日疲れているため、家ではずっとブスッと不機嫌だったそうです。すると幼い息子に「パパはテレビだとニコニコしてるのに、何で家では怖いの?」と言われたとか。それでその方は、「ああ、テレビの中のように、父親というのも〝演じる〟ものなんだな、息子のためには父親を演じていかなければいけないんだな」と覚悟を決めたのだそうです。
 第二話の父親も、親であることの難しさに苦しんでいますが、かの男性タレントが覚悟を決めたのとは、またひと味違った形で、自身の気持ちに決着をつけていて、その姿が何とも胸に沁みました。アラフィフのおっさんなのにちょっと泣いてしまいましたよワタクシ。
 そのほか、いちばんエンタメ要素の強い第三話、王道ボーイミーツガールの第四話、えっ?と驚かされる変化球の第五話も、それぞれ面白くて、要するにぜんぶ面白いです。さっきも言いましたが、それぞれの話のつながりを見つけるのも楽しくて、鶏肉みたいなコスパとポテンシャルの一冊ですよ。ぎゅぎゅっと噛みしめてお読みください!


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