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レビュー

応えるべきは 「なぜ人を殺してはいけないのか?」ではなく 「なぜ自分を殺してはいけないのか?」乙一『サマーゴースト』

物語は。

これから“来る”のはこんな作品。
物語を愛するすべての読者へ
ブレイク必至の要チェック作をご紹介する、
熱烈応援レビュー!

『サマーゴースト』乙一(集英社)



 弱冠一七歳で新人賞を受賞し一九九六年一〇月にデビュー、別名義の作家活動でも文学賞受賞歴があり、脚本家・映画監督としても活躍する、乙一。作家生活二五周年を迎えるこの秋発表された『サマーゴースト』は、同名短編アニメーション映画のノベライズ作品だ。『君の膵臓をたべたい』の装画を手がけ、「光」の表現に定評があるイラストレーターのloundrawが原案・監督を務めた同作に、乙一は本名名義で脚本家として参加。お題として「線香花火と幽霊」といった断片的なイメージを得て脚本は執筆されたそうだが、小説を読んでみると、驚くほど乙一らしさが充満していることに気付く。なにしろ『サマーゴースト』の内容を一言で紹介するならば、乙一のデビュー作のタイトルを読み上げればいいのだ。すなわち──「夏と花火と私の死体」。
 夏休みのある日、地方都市に暮らす高校三年生の友也(「僕」)は、インターネットの掲示板で知り合った同学年の小林涼と一学年下の春川あおいを誘い、郊外の飛行場跡地に出るという幽霊を探しに行く。三年前から若者たちの間で囁かれている都市伝説によれば、「夏にこの場所で花火をすると、【そいつ】が出てくるらしい」。それは二十歳前後の「自殺した女の霊」で、ネット上では【サマーゴースト】と呼ばれている。実は、友也たちは幽霊に聞いてみたいことがあった。〈死ぬって、どんな気持ちですか?〉。三人の少年少女は、自殺志願者だった。
 飛行場跡地に忍び込んだ三人は、さまざまなタイプの花火を試していく。学力優秀な優等生である主人公の知識や五感を通して描写される、花火を巡る一連の文章が面白い。燃焼の化学反応について解説するなど、手品の種明かしをされているかのような味気なさが最初はあるのだが、読み進めていくうちに、美しい光が目に映る奇跡を感覚ではなく論理で体感できるようになる。
 やがて三人は、最後に残った線香花火に火を灯す。すると時間の流れが止まり、〈線香花火が空中に固定されていた〉。そこに突如現れたのは、ネットの噂通りの容姿をした女性の幽霊だ。その後も主人公たちは飛行場跡地で線香花火を灯し、驚くほどフランクな彼女と時間制限付きの会話をするようになる。「私、自殺なんかしてないよ」。彼女は、殺されたのだ。行方不明になった自分を捜している母のため、地中に埋められた私の死体を捜してほしい──。通常のミステリーであれば「犯人捜し」も同時に行われるところだが、あくまで「死体捜し」に主眼を置いて物語は進む。
 二五年前のデビュー作「夏と花火と私の死体」は、「殺す」側の少年少女の心情にフォーカスを合わせた物語だった。二五年後の本作は「死ぬ」あるいは「自死」について、とことん深掘りされている。それはなぜか。振り返ってみれば乙一がデビューした翌年の夏、テレビの報道番組で一〇代の少年が「なぜ人を殺してはいけないのか?」と問題提起した。大人たちはうまく答えられず、それ以後長らくその問題設定に物語の作り手たちもまた少なからず振り回された感があった。しかし、四半世紀たった今思うのは、その問いに向き合うことはさほど有益であるとは思えないということだ。コロナ禍も相まって悲鳴を飲み込んで生きる無数の少年少女たちが発し、大人たちが応答しなければいけないもっと大事な問いがある。それは、「なぜ自分を殺してはいけないのか?」。
 二〇二一年秋、乙一はその問いに物語で応えてみせた。大人たちをも勇気付ける物語だった。

あわせて読みたい

『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一(集英社)

 線香花火を灯すと、俺にしか見えない彼女が姿を現す──。『サマーゴースト』の脚本執筆の際、最終候補となっていたもう一つの「線香花火と幽霊」の物語をノベライズ。平成から令和に至るさまざまなカルチャーを背景に取り込みながら、17歳で事故死した少女と、彼女に片想いしていた少年の特別な関係性を綴る。


『一ノ瀬ユウナが浮いている』乙一(集英社)


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