文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
(解説:
わたし関智一は声優です。
なぜ声優である私が我孫子先生の小説の解説を書いているのか。その経緯からお話しさせて頂きましょう。
わたし関智一は声優でありながら一方で劇団の主宰もしております。「劇団ヘロヘロQカムパニー」これが、わが劇団の名前です。
その劇団の第27回公演「獄門島」を上演した時の事です。この作品はご存知、
そして3年後。第31回公演の演目として白羽の矢が立ったのが「怪盗不思議紳士」でありました。そもそも「怪盗不思議紳士」とは、劇団ヘロヘロQカムパニーの第4回公演の演目で、その初期作を19年振りにリニューアル上演しようという話になったのです。
19年前の私は「迷探偵シャーロック・ホームズ/最後の冒険」というイギリスの映画に夢中でした。この映画のシャーロック・ホームズは実はワトソンが雇った売れない俳優で、コミュ障のワトソンが自身の名推理を披露するための
大正時代の日本に舞台を置き換え、不思議な発明品で財宝を次々せしめる怪盗・不思議紳士を創作。その好敵手として登場させたのが
確かに19年前の「怪盗不思議紳士」は、わが劇団にとって思い出深い大切な作品に違いありません。しかしリニューアルするからには更なるスケールアップを図りたい。何倍も面白い作品に育てたい。そのためには前作に深い思い入れのある自分が書き直すよりも、信頼できる方にお任せして自由に書いてもらった方が良いのではないか……考えがそこに至った時、フッと頭に過ったのが……そう、お分かりですね。再び登場、我孫子武丸先生その人だったのです。思い立ったが吉日。直ぐに電話をかけました。半ば断られる覚悟です。「獄門島」の時に比べて、その労力は何十倍にもなるであろう事は、想像に難くなかったからです。ガチャ。
「はい、我孫子です」
先生は直ぐに電話に出てくださいました。恐る恐る事情を説明する私。
「はい……はい」
静かに話を聞いてくださる先生。
「そこで、我孫子先生に執筆を……」
ついに本題を切り出す私。ほんの僅かな時間、先生はお考えになってお答えになりました。
「……やりましょう」
自分の耳を疑いました。
「あの……今何と?」
「やってみましょう」
聞き間違いではありませんでした。我孫子先生は確かに引き受けるとおっしゃってくださったのです。
「ありがとうございます!」
私はあまりの喜びに泣いてしまいました。やがて落ち着きを取り戻した私は、先生と様々な事項を確認していきます。名探偵と少年探偵の関係性、怪盗不思議紳士の存在、それさえ踏襲して頂ければ他は自由に書いてくださって構わない事、舞台に出演する役者の人数、第一稿の締め切り等々。
「関さん、私から一つ提案が」
「はい、何でしょう」
「今、依頼の来ている小説の題材として、この「怪盗不思議紳士」を提案しても良いでしょうか」
私は驚きました。上手く事が運べば、我孫子武丸先生の小説として「怪盗不思議紳士」が世に出版されるかもしれないのですから。
「寧ろこちらからお願いしたいくらいです。是非お願い致します」
このような経緯で話は噓のようにまとまり、劇団ヘロヘロQカムパニー第31回公演「怪盗不思議紳士twice」として上演されるに至りました。
本書と舞台版とでは、事情と都合によって様々な違いがあります。舞台版をご覧になっていない方も居られると思いますのでネタバレは避けたいところですが、大きな相違点を一つ挙げますと……時代背景が違います。舞台版は大正時代が舞台となっており、それに伴って登場人物にも多少変化があります。
ラストにはトンデモないモノも登場します。
舞台版のDVDは2020年現在、劇団ホームページで購入可能ですので、小説版との相違点も含めてお楽しみ頂けましたら幸いです。
本書をご覧になったみなさんもお感じになっていると思いますが、これは始まりの物語。
本当の冒険はここから始まるのです。
実は、観劇にいらっしゃった先生とこの先の構想についてもお話ししました。九条は本当に死んでしまったのか。不思議紳士の本当の狙いは何なのか。もしかすると近いうちに、続編という形でみなさんにお披露目する機会があるかもしれません。あくまで私の妄想ですが……我孫子先生、楽しみにしてて良いですか?
「やってみましょう」
そう言ってくださる事に期待しつつ、我々も舞台の準備を進めて待つ事に致します。
▼我孫子武丸『怪盗不思議紳士』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000414/
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