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特集

『怪盗不思議紳士』刊行記念!我孫子武丸×関智一対談

撮影:首藤 幹夫  取材・文:おーちようこ 

我孫子武丸がこのほど上梓した、心躍る活劇ミステリ小説『怪盗不思議紳士』に深く関わっていたのは、人気声優の関智一だった──!?
改めてふたりの縁と本作誕生までの秘話を語り尽くす、愉快な対談をここにお届けします。

【注】対談中、本書の内容に触れている記述があります。

キッカケは舞台の脚本でした

──もともとは関智一さんが主宰されている「劇団ヘロヘロQカムパニー」第31回公演で上演されていたとのことです。

関: もっと言うと旗揚げ当時……20年前くらい前かなあ……第4回公演で『怪盗不思議紳士』という演目があったんです。本当は横溝正史や江戸川乱歩のような世界を演りたかったんですが、まだ若くて知識もお金もなかったから、仲間と喫茶店に集まって探偵の名前から考えて作った思い出深い作品です。  怪盗と探偵ものをやりたくて、当時、ワトソンがホームズを操っているといった構図の海外のコメディ映画を観て、おもしろいと思ってその要素を取り入れたりしてお話を作りました。ただ、同じ頃に『名探偵コナン』が始まったので、上演したときに影響を受けたんじゃないかと言われたこともありましたが、実はちがいます!と声を大にしてお伝えします(笑)。

──では、ここに記しておきます。

関: はい(笑)。それで、いつか再演したかったんですが映像記録もなにも残っていなくて。でも、再演するならきちんと謎解きも盛り込みたくて、そこで我孫子先生にご相談しました。もともとご縁があって、第27回公演『獄門島』の脚本協力もお願いしたところ、新たな謎解きとかいろいろ盛り込んでくださったことがあって、とても助けていただきました。

我孫子: ただ、『獄門島』では横溝正史の作品に手を加えてしまったような罪悪感が……(笑)。

関: でも、本当に時間がないところで謎解きだけでなく、同じ横溝正史の『本陣殺人事件』を彷彿させるような場面も織り込んでくださって……だから『怪盗不思議紳士』を再演するにあたり、お願いできるのは我孫子先生しかいない、と思っていたんです。

──実際に脚本を執筆されていかがでしたか?

我孫子: 最初はわりとすぐにできるかな、と思っていたんですが、いざ書いてみると舞台の制約がいろいろとあって……小説のように場面転換ができないとか、内面の想いを明かすことが難しいといったことに手間取りました。  さらに僕は終戦後の昭和を舞台にしていたんですが、衣装での撮影がすでに進んでいて……。

関: ちょっと連絡がすれちがってしまって、大正時代のテイストで用意してしまっていたんです。

我孫子: なので、ひとまず書き上げたものを渡してアレンジはお任せしたんですが……実際に舞台を観たら驚いたんですね。

──どう、驚かれたのでしょう。

我孫子: 目の前で体温を持った役者が演じる熱というかエネルギーに興奮しました。僕が書いたお話ではありますが、観客としてひとつの空間をリアルタイムで共有する体験はやはり舞台ならではの迫力で、文字で書いたキャラクターに息を吹き込んでもらうことを肌で感じたというか……。  だから、もっとラフに書いてもよかったとも思ったし、そもそもが舞台化にあたりいろいろと変更されていてラストが大スペクタクルな展開になっていて、びっくりしたし、それがまた楽しくて。さらに笑いをすごく盛り込んでいて、おもしろかったんです。

──笑いとは?

我孫子: 小説に笑いを入れるのって難しくて、一度、そういう空気を入れちゃうと戻すのが難しいんです。でも舞台だとシリアスななかにほんの一瞬、笑いを入れてもすぐに戻すことができる。関さんはその緩急自在な感じをたくさん取り入れていて、さすがだなと思いました。

関: そこは役者としての本領発揮というか……もちろん怖さでもあるんですが。もともと劇団の傾向として笑いも織り込んできているので、どシリアスのなかでもギャグを託せる立場の役柄を増やしたりして。そこは毎回、悩むし苦しみますがやり甲斐でもあるので、お客さんが笑ってくれるとほっとします。

我孫子: さらに不思議紳士と同じ仮面と衣装の役者が次々と舞台上のいろいろな場所に登場することで、その変幻自在さが表現されていて、舞台だとこんなことができるんだ……という発見もありました

関: 小さな劇団なので限られた予算でいかに工夫して舞台の上で表現するか?といったことすべてが血と汗と涙の賜物で、醍醐味なんですよね。

舞台の熱を小説で越えたかった

──そこで生まれた物語を新たに小説として書き下ろされましたが、そのキッカケを伺います。

我孫子: ずっと小説だったらもっとこういうことも書けるのに……とか思っていたところに新作執筆のお話をいただいて『怪盗不思議紳士』を提案したところ、おもしろいと言っていただき決まりました。僕自身も九条響太郎を書くことが楽しかったし、関さんからも快諾いただいて書き始めたのが2年ほど前のことです。

関: お話をいただいたときには、まさか脚本だけでなく、小説にまでしてもらえるなんてこんなうれしいことはないと思って、ぜひ、読みたいです!とお伝えしました。

──実際に小説を読まれていかがでしたか?

関: なるほど……!と思うことがたくさんあってものすごくおもしろくて、二転三転する展開にワクワクしながら、あっという間に読み終わりました。  なにより舞台は2時間程度で収めなければならないから、あえて削る部分も多くて、描くことに限界があるんです。でも小説ではいろいろと盛り込まれていて、僕のなかで「ああ、実はこういう会話があったんだろうな……」と作品世界が補完されていくような喜びがありました。

我孫子: そう言っていただいて、なによりです。そこはやはり小説として書くなら、小説でしかできないことをやりたかったし、あの舞台を見てしまった以上、超えるものを書きたいと思っていたのでものすごく考えました。  実は一度、書いているからさほど苦労しないだろうと思っていたんですが、結局、ゼロから組み立てるような感じになりました。

関: 僕、九条響太郎の替え玉として登場するある人物が、彼に頼まれて温泉宿に逗留していたくだりとか好きなんです。  こういうのって、金田一耕助シリーズだと刑事たちが「あの事件のときか……!」ってなったりするでしょう。なので、果たして九条はどんな事件に巻き込まれていたんだろう……って妄想がふくらんじゃって。だから今回、こうして小説として創り上げていただいたことで、さらにスケールアップした形でもう少し広い劇場で演りたいという思いも生まれてきてしまいました……。

我孫子: それはまた、新たな作品として観てみたいですね。

関: ね! こうして本も出ることですし、実現したいです!! 前に上演したときも先生と、実はアイツの正体はこれで続きはこうなっていて……みたいな妄想で盛り上がっていたので、いつか続編を演(や)りたいと思っていましたが、その前に我孫子先生版を上演したいです!

──舞台と小説、それぞれの表現方法で世界が育まれ、幸せな作品だと感じます。

関: とても贅沢なことで本当に感慨深いです。九条響太郎はつたないながらも自分たちで一応は完成させたものの、すごく心残りがあった思い入れ深いキャラクターなんです。だから、こうしてミステリ作家の先生に形にしてもらえるなんて……当時の自分が聞いたらびっくりするだろうな。ああっ、教えてあげたいっ。

──それは劇団を続けてこられたからこその賜物ではないでしょうか。

関: だとしたらうれしいです。やっぱり僕らは声優という仕事もしているので、始めたころはどこか、その……役や作品の人気にあやかっているみたいに思われていたところもあるので……でも、続けることで、ようやくですが、最近、ほんの少し、劇団として認めてもらえて仲間入りできたかな、と思っていて。  だから旗揚げ当初の演目をこんなに立派な小説にしていただいて、さらに一冊の本になることは僕らにとっても大きなことです。

──もとよりお忙しい方々が、時間を割いて定期的に公演されていることがすごいと思います。

関: まあ、結局、僕らがやりたいから、ですね(笑)。それに道具や衣装を置く場所も自分たちで借りているので、その家賃や光熱費もかかるから公演を打たなければ費用もでませんし、そもそも定期的に上演しないと劇団じゃないですから。

──演劇と真摯に向き合っておられます。

我孫子: だからこそ僕自身も小説としての表現で、舞台の熱を越えたいと思って書きました。久々にキャラクターが自在に動き回ってくれた作品で、僕にとってもちょっと珍しい本になりました。

──最後に読者への一言を、お願いします。

我孫子: 舞台と小説、どちらも楽しさの種類が違うと思っていて、小説は空想の世界で遊ばせるみたいなところがあるけど、舞台は肉体そのものが演じることですべてを感じとるといった高まりがあるから、両方に触れて、そのどちらも楽しんでもらえたらうれしいな、と思います。

関: かつての自分の妄想をこうして本にしていただいたことに興奮を覚えます。叶うことなら舞台化だけでなく、アニメ化とか、ラジオドラマとか、そういった形で広がってほしい。

我孫子: それこそぜひ、関さんに演じていただいて。

関: いいですねえ……夢は広がるばかりです!


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