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特集

『青くて痛くて脆い』刊行記念対談 住野よる×乙一「無敵の青春エンタメ作家、憧れのひとに会いにゆく」

撮影:高木 亜麗  取材・文:吉田 大助 

デビュー作『君の膵臓をたべたい』で一躍、新時代のベストセラー作家となった、住野よる。第五作となる『青くて痛くて脆い』は、初めて大学生を主人公に据えた青春小説だ。自ら「現時点での最高傑作」と言い切る本作の刊行を機に、会って話したい人として乙一の名前が挙がった。ミステリーの面白さを教えてもらい、作風に影響を受けたのみならず、乙一のある言葉が、デビュー前の何者でもなかった自分を支えていたと言う。

——住野さんの緊張が、隣にいてもびりびり伝わってきます(笑)。

住野: 小説家になりたいって漠然と思い始めた、中高生の頃に拝読していたのが乙一さんの作品なんです。取材で「影響を受けた作家さんは?」と聞かれた時、いつも乙一さんの名前を挙げていました。だから今、ハンパじゃなく緊張しています。

乙一: 僕が住野先生のお名前を知ったきっかけは、『君の膵臓をたべたい』でした。このタイトルだけどすごく感動する青春小説で、しかもネット発の作品だという噂を聞いていて。本を読みましたが、こんなに清々しい作品を書かれる方は、乙一の名前とか知らないだろうと思っていました。

住野: 人生で初めて、本に心を傷付けられたのが乙一さんの作品なんですよ。自分でも書きたいと思う雰囲気で、心の中に残り続けているものは「失はれる物語」とか『きみにしか聞こえない』とかなんですね。でも、トラウマになった作品は『ZOO』に収録されている「SEVEN ROOMS」とか、『GOTH』とか。僕は自分の小説を読んだ人に毒を感じてもらいたいんですけど、それは乙一さんの作品を読んでいなかったら持っていなかった感覚じゃないかなと思うんです。

乙一: 僕は今回、住野先生の『青くて痛くて脆い』を読んで、トラウマ級の心の揺さぶられ方をしましたよ。

住野: 嬉しいです……。

乙一: 清々しい青春小説かと思いきや、ミヒャエル・ハネケの映画だった、みたいな。先に『君の膵臓をたべたい』を読んでから『青くて痛くて脆い』を読んだのも良かったですね。「あぁ、やられた」と。「こう来たか!」と。

住野: 新鮮な驚きのある話を書こうとずっと狙っていたので、感無量です。

乙一: 住野先生の作品は、ミステリー的な仕掛けが凝っているというか、ミステリーっぽくない話でも必ずひとネタを入れてくるところが面白いです。『か「」く「」し「」ご「」と「』の叙述的な仕掛けとか、手慣れている感があって。

住野: ありがとうございます。それこそ僕が初めて出会ったミステリーは、乙一さんのものだと思います。叙述トリックを初めて知ったのも、乙一さんの作品です。その乙一さんに、自分の書いたものを読んでもらえる日が来るなんて思ってもいなかったので……今ちょっと不思議な気持ちです。

住野さん、「本体」

モアイとは「何」か自分は何と戦っているか

——『青くて痛くて脆い』は、住野さんが初めて大学生を主人公に据えた、青春小説です。ドライで現実主義的な大学一年生の田端楓(「僕」)は、入学早々の講義で理想論を突然ふりかざし、周囲をぎょっとさせた同級生の女の子・秋好寿乃と仲良くなり、二人きりでサークルを作ることになる。「モアイ」という名のそのサークルは二年半後、発足当時の理想からは大きく掛け離れた、巨大な就活サークルになっていた。なぜならば……と、物語は進んでいきます。

乙一: どういった発想で、こういう内容のものを書こうと思われたんですか?

住野: この小説は初めて、「どんな話にするか?」という段階から担当さんと作っていったものなんです。担当さんは二人いるんですけど、まず最初に「二人だけの秘密結社が読みたい」というリクエストがあって。なんだそれと思ったんですけど(笑)、そこから三人で話し合っていくうちに「誰かの嘘を本当にする」というキーワードが出ました。そこからまたいろいろ雑談をしている時に、担当さんのひとりが大学時代に、巨大化したモアイみたいな団体のリーダーをやっていたことを知りまして。

乙一: なんと。

住野: その実態を聞いていくうちに「なんだその面白い団体は」と思い、書いてみることになりました。大きくなった後のモアイというサークル自体は、実在する団体がモデルなんです。

乙一: 主人公の楓が、大きくなったモアイの執行部に戦いを仕掛けて、昔の理想を取り戻させようとするじゃないですか。楓と秋好が初めて会ったのは「平和構築論」という授業だったことの印象も重なって、楓がテロリストみたいに見えたんです。モアイが、宗教とか政治団体の暗喩としても捉えられる。夫婦の話としても読める気がします。多角的な読み方ができる、懐の深さを感じました。

住野: ありがとうございます。「自分は何と戦っているか」によって、読者の方たちがモアイにいろんなものを投影してくれたらいいなと思います。僕自身の話でいうと、この小説を書き始めたのは去年の一月ぐらいだったんですね。『君の膵臓をたべたい』の単行本が何十万部かになって実写化も進んでいて、自分の想像を超えて大きなものになり始めた時期だったんです。

乙一: 住野さんにとってモアイは、『膵臓』の暗喩だったんですね。

住野: そうなんです。文庫化されてまたどんどん大きくなっていった時期には、「住野よるをやめよう」と思ったこともありました。そういった気持ちの反動で、『膵臓』という作品を、好きだと言ってくれている人たち込みで殴り倒してやろうと思ったんですよ。

乙一: 人との距離感のことがすごく繊細に描かれているからこそ、終盤はひとつひとつの言葉が突き刺さって、痛くて。そのビターな感じがとても良いですし、最後にはちゃんと希望がありました。

住野: 基本的に、主人公は幸せになってほしいという気持ちがあるので……そんなに怖がらずに読んでほしいです(笑)。

才能がないと決めつけるのはまだ早い、まだ早い

——読んでいて、大学生という特殊な時間、大学という空間の奇妙さを再認識させられる感覚がありました。

住野: 担当さんとずっと話していたのは、「大学って最後の青春だな」と。社会人になる前の、自分がやりたいことを長い時間かけてやれる猶予のある最後の時間。そこで何かを覆そうとする主人公を書きたかったんです。

乙一: いろいろな記憶が掘り返されましたね。大学時代に知り合いとメールでトラブった時のトラウマとか。

住野: 連載中はお酒を飲みながら、担当さんたちと自らの大学時代に負った傷やトラウマを暴露し合ったんです。「打ち合わせ」ではなく「自傷行為」と言っていました(笑)。「こんな辛いことがあった」という三人分のエピソードを、小説の中に盛り込んでいます。

乙一: 主人公に感情移入しながら読んでいたんですけど、彼が戦うモアイ側の登場人物の気持ちも書かれているじゃないですか。どっちもかわいそうっていうか、どっちの理屈も分かる、みたいな感覚になりました。

住野: そう言っていただけるのは嬉しいです。僕自身は大学時代、モアイみたいな人たちがキャンパスで徒党を組んでいるのを見ると、「リア充団体、けっ」と思っていました。でも、彼らの視点に立つということを小説の中でやってみたら、楽しさだけじゃなくて彼らの苦悩も見えてきたんですよね。

乙一: あと、就職活動している時の雰囲気がよく出ていて、住野先生は大人だなって思いました。僕は就職活動から逃げちゃったんですよ。社会に出てももたないだろう、会社勤めは自分には無理だなと思って。同級生がスーツを着て大学に現れるのを見て、みんなすごいなと思った記憶があります。いまだに社会人になれていない感覚がどこかにありますね。

住野: 僕は一応、普通に就活をして、就職をして。でも、いつか自分の興味があることだけで生きていけないかなぁとぼんやり思いながら、ダラダラしていました。なので僕も全然、ちゃんとしていないんです。

——そんな時に小説投稿サイト「小説家になろう」に『君の膵臓をたべたい』の原稿をアップしたところ、編集者に声をかけられデビューすることになったんですよね。

住野: 『膵臓』は五つぐらいの新人賞に送ったんですけど、全部一次選考で落とされたんです。自分としてもすごく思い入れのある作品だったし、誰か一人でも読んでくれないかなという気持ちで「なろう」にアップしました。それを読んで広めてくれた人のおかげで今があるので、基本的に他力本願なんですよ。

乙一: 内容の勝利ですよね。

住野: でも、かわいいだけだった我が子が、成長するにつれていろんな悲喜こもごもの感情を連れてくるっていう……。

乙一: その結果、まさか自分にとって倒すべき「仮想敵」にまでなるとは(笑)。

住野: 新人賞には前から何度も落ちていたんですけど、諦めずに書き続けることができたのは、乙一さんのおかげなんです。乙一さんが雑誌のインタビューか何かで、小説を一回書いて自分には才能がないと言う人が多いけれども、「一回書いて分かるものではない。何回でも書きなさい」とおっしゃっていたんですよね。

乙一: マジですか。いいことを言っていますね(笑)。

住野: その言葉を支えに、「自分に才能がないと決めつけるのはまだ早い、まだ早い」と思いながら書き続けていました。乙一さんの言葉に出合っていなければ、途中でやめてしまっていたかもしれません。

先輩からのアドバイスは?

乙一: 『青くて痛くて脆い』だけでなく、住野先生の本は人との距離感にぐるぐる思い悩む、十代の子たちの心理が書かれていますよね。最近友人の山白朝子さんと、だんだんそういうものが書けなくなってきているという話をしていて。どうやったら書けるんですか?

住野: いや、書かれているじゃないですか! 山白さんの新刊『私の頭が正常であったなら』を読ませていただきましたが、自分が作家だってことを忘れたいちファンとしての感想は、「やっぱすげぇな!!」。

乙一: (笑)

住野: 作家としては、「まだ大好きだった頃のあの人でいること」に感動しました。登場人物たちの年齢は大人でも、きっと中高生の頃にいろんなことで真剣に悩んできた、その延長線上に生きているんだなって感じがするんです。僕も作家歴が長くなっていって、中高生の頃の気持ちを忘れてしまったらどうしようかという不安があるんですけど、希望をいただきました。

——そろそろ時間が来てしまいました。最後に、乙一さんから先輩作家として、何かアドバイスはありますか?

乙一: できるだけ仕事の依頼は断ったほうがいい。

住野: えっ!?(笑)

乙一: 「小説を書くのが楽しい」と感じられる環境を、自分でも意識して作ったほうがいいと思いますね。

住野: 胸に刻みます。今日は本当にありがとうございました!


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