デビュー作『君の膵臓をたべたい』で一躍、新時代のベストセラー作家となった、住野よる。
第五作となる『青くて痛くて脆い』は、初めて大学生を主人公に据えた青春小説だ。
自ら「現時点での最高傑作」と言い切る本作は発売後3週間で20万部を突破し、既に大きな反響を呼んでいる。
本作ではBLUE ENCOUNTの「もっと光を」がテーマソングとして使われている。
今回、ともに新作を出した住野よるとBLUE ENCOUNTに、作品についての思いを語ってもらった。
江口 雄也(BLUE ENCOUNT/G): 住野さんの作品はすべて読ませてもらっているんですよ。こうやって対談させていただけるのも、すごく光栄です。
住野 よる: ありがとうございます。
江口: 最初に読んだのは『君の膵臓をたべたい』だったんですが、友達に「すごくいいよ」と勧めてもらって、僕もすぐにハマりました。その後の作品も発売日に読ませてもらっているんですけど、あるときTwitterで感想を伝えさせてもらったら、返事が返ってきたんですよね。こちらとしては自分の気持ちを伝えられたらいいというだけだったのに、まさか返事をもらえるとは思ってなくて。嬉しかったですね。
田邊 駿一(BLUE ENCOUNT/V&G): おまえ、そんなに密な関係だったのか! 僕も読ませてもらってるんですけど、父親から「すごくいいから、読め」と言われたのがきっかけなんです。うちの父親は小説が大好きで、いまも小説家になりたいと思ってるくらいだし(笑)、その父親が言うんだからまちがいないだろうと。実際、僕も一気に引き込まれましたね。
住野: ありがたいですね、そう言っていただけると。
田邊: 最初に読ませてもらったとき「何だろう、この気持ちは?」と思ったんです。すごくキュンキュンするのに、最後の最後で言葉が突き刺さってきて。
江口: わかる。しかも住野さんは、以前から僕らのライブに来てくださっていて。
田邊: ビックリだよね。初めて住野さんとお話させてもらったのは、新木場STUDIO COASTのワンマンライブ(2018年1月に行われた「BLUE ENCOUNT TOUR2017-2018~VS~リクエストワンマン」)だったんですが、最初に僕らのライブに来てくれたのはいつ頃なんですか?
住野: 初めてBLUE ENCOUNTのライブを拝見したのは、2014年の「RADIO CRAZY」(FM802主催の年末イベント)でした。
田邊: 「RADIO CRAZY」に初めて出演した年ですね!
住野: その年に出たアルバム「BAND OF DESTINATION」で初めてブルエンの音楽を聴いて、「これはすごい!」と思ったんですよ。
江口: 4年前ですね。その時期から知ってくれているのはすごく嬉しいです。
住野: だから江口さんからDMが届いたときは「ブルエンの人だ!」と感激しましたね。ファン気分で申し訳ないんですが…。双葉社の担当者さんも元バンドキッズなので、「ブルエンの江口さんから連絡が来たよ」と伝えたら「マジっすか?!」と喜んでました(笑)。
――住野さんがBLUE ENCOUNTの音楽に惹かれている理由を教えてもらえますか?
田邊: うわ、緊張する。
住野: まずは単純に「カッコいい!」と思ったんです。ブルエンの音楽性はまさに直撃という感じだったんですよね。歌詞も本当に素晴らしくて。これは僕が小説家として目指しているところでもあるのですが、「大人になってもこんなに真っ直ぐなことが言える」という。
――真っ直ぐさ、熱さはブルエンが一貫して表現してきたことですよね。
田邊: そうかもしれないですね。ただ、それは僕らがやりたかったことではないんですよ。確かにみなさんに「熱いですね」と言ってもらうんだけど、僕らにとっては当たり前というか「僕らを見て“熱い”と感じるって、あなた、ふだんはどんな生活しているんですか?」って。
江口: うん。
田邊: 自分たちは熱いことを言ってるつもりはないんです。ただ、高校の頃からずっと価値観が変わってないんですよね。「死ぬ気でがんばればなんとかなる」「生半可な気持ちだったら、やらないほうがいい」とか。
江口: それが「熱い」ってことなんだろうね。不器用だから、それをわかりやすく押し出すしかないので。
田邊: うん。それは自分たちにとっては当たり前のことなんだけど、以前はなかなか思いが伝わらないと感じることも確かにあって。それを受け入れてくれているのが、音楽の世界、ライブの世界だと思うんです。自分たちの感情や思いを肯定してくれる場所というか。僕は住野さんの作品を読んでいるときも「めちゃくちゃ熱いな」と思っているんですよ。小説と音楽の違いはありますが、表現の方法が異なるだけで、人として通じ合うところもあるんじゃないかなと。今回の新作『青くて痛くて脆い』を読んで、さらに「一緒にお酒を飲みたい」と思いました(笑)。
江口: (笑)それくらいリンクしたってこと?
住野: 嬉しいです。
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田邊: 住野さんのTwitterもフォローしてるんですけど、最近、ショートカクテルにハマってるんですよね? 俺もそうなんですよ。
江口: その話はもういいよ(笑)。
田邊: (笑)『青くて痛くて脆い』は、すごく現実感のあるストーリーだなと思って。舞台が大学なんですけど、とにかく描写が素晴らしい。僕らは高専出身で大学には行ってないんですけど、「大学ってこういう場所なんだ。もしかしたら自分たちは、すごく尊いものを見なかったのかもな」と思って。
江口: 確かに今回の作品は、いままで以上にリアルですよね。これまでの作品はファンタジーの要素があったし、「現実的ではないんだけど、限りなく近い」という世界観だったと思うんですが、『青くて痛くて脆い』は大学が舞台だし、登場人物もすごく身近に感じました。日常生活でも起こり得るストーリーだし、読んでいると情景が広がるんですよね。“あるある感”というか、「この感じ、めっちゃわかる」というところもたくさんあって。
――大学を舞台にした作品は今回が初めてですよね。当然、登場人物もこれまでの作品よりも年上ですが、こういう設定にしたのはどうしてなんですか?
住野: “最後の青春”の話にしたかったんです。社会に出る少し前、タイムリミットがある状況を描きたかったので、大学を舞台にして。担当編集者さんから「“ふたりきりの秘密結社”という設定はどうでしょうか?」と提案されたときは「え?」と思ったんですが(笑)、話し合って、書き進めていくうちに上手く物語が広がって。
――主人公の楓が大学で秋好寿乃に出会い、「秘密結社を作ろう」と持ちかけられるところから物語が始まります。
田邊: 秘密結社、いいですよね。子供のときに作ってた秘密基地みたいな雰囲気もあるし、サスペンスみたいなドキドキ感もあって。
江口: そうそう。大学生くらいの頃ってまだ幼い部分もあるし、「自分にもこういう時期があったかも」と思い出して、グッと小説の世界に引き込まれて。
田邊: 楓は最初、秘密結社を作ることをちょっと恥ずかしがるじゃないですか。あれもリアルに感じました。
――秋好は自分の意見を堂々と言える女の子で、楓はなるべく人と距離を置こうとする男の子。ふたりの性格の違いも印象的でした。
住野: 違う視点を持ったキャラクターを組み合わせることで、より明確に伝えられると思うんですよね。
江口: なるほど。秋好さん、楓以外のキャラクターもすごく魅力的ですよね。楓のバイト先の川原さんは「年上だからという理由で敬語を使う必要はない。自分の距離感で決めればいいんじゃないか」みたいなことを言うんですけど、読んだときに「その通り!」って思って。サイドストーリーもすごくいいし、「納得!」というシーンが多いんですよね。
田邊: “川原さん”、俺もすごく好き(笑)。関西出身という設定ですが、もともとどういうキャラクターにしようと思っていたんですか?
住野: “川原さん”は最初の構想段階では存在していなかったんです。“ポンちゃん”という女性も出て来るのですが、書いている途中で担当編集者さんから「作者の好みを反映させ過ぎないでください」と言われまして(笑)。だったら、違うタイプの女性を出そうという意図で登場させたのが“川原さん”だったんですよ。
田邊: なるほど! 確かに“川原さん”と“ポンちゃん”では、キュンとくるポイントも違いますからね。 それぞれの理想がぶつかり合うところもすごくグッと来ました。どんな未来を選択するか?というのも大きなテーマになっていると思うんですけど、いまの状況を守るのが理想と考えている人もいるし、さらなる目標を達成するためなら犠牲を払ってもいいと思っている人もいる。登場人物たちの思いが渦巻きながら、最後にはそのすべてが自分自身の心の穴を埋めるてくれるっていう。エンディングに向かうにつれて周りに対して「俺のジャマをするんじゃないぞ!」と思うくらい、どんどんのめり込みましたね。言葉が突き刺さってきて、一つ一つのフレーズが自分の胸をこじ開けようとする感じもあって…。これは『青くて痛くて脆い』だけではなくて、住野さんのどの作品にも共通している感覚だと思います。
江口: 最後の一文が楽しみでしょうがないよね。
田邊: そうそう。俺、最後のページを読むときは、別の紙を用意して、一行ずつズラしながら読むからね。
江口: わかる! パッと開いたときに最後の文を見ちゃったらイヤなんでしょ?
田邊: そう。そんな感覚は初めてでしたね。
住野: ありがとうございます。
田邊: ストーリー展開もすごいからね。第1章で描かれていた秋好さんと楓の関係が、第2章では大きく変わっていて。「なるほど、そういうことか」と思っていたら、次の章では「え、そうだったの?」ということになって。ミステリーみたいですよね。
住野: ミステリーと言えるほど緻密に考えているわけではないんですが、ちょっと変わったことをやってみたくなるんですよね。小説家の有川浩さんを尊敬しているんですが、有川さんの小説は一文ですべてをひっくり返してしまうんです。そういう作品を目指しているところはありますね。
田邊: なるほど。住野さんの文章は景色がすぐに浮かんでくるし、スッと入ってくるフレーズもたくさんあって、読んでいると「住野さん、歌詞も書けそうだな」と思うんですよ。
江口: うん。言葉の組み合わせがすごく良くて、リズムがあるんですよ。読んでいてテンションが上がるのは、そのせいじゃないかなって。
住野: そこまで感じ取ってもらえているとは。僕は「文章力とはリズム感である」と思っているんですよ。
田邊: やっぱりそうなんですね! どんどん読み進めたくなるのは、文章のリズムも関係しているのか。
住野: はい。カスタネットでたとえると「タンタン・ウン・タン」みたいなリズムがあるじゃないですか。その“ウン”の部分も大事かなと。
田邊: 休符ですね。
住野: そうです。意味だけではなくて、響きやリズムを重視して言葉を選ぶことも多いので。
田邊: 僕も歌詞を書く人間として、言葉とリズム、メロディの絡ませ方はいつも意識しているので、すごく勉強になります。住野さんの描く世界って、音楽的ですからね。情景とともに音楽が流れてくるような感じがあって…。そういえば『青くて痛くて脆い』には、“アジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)”が出てきますね。
住野: そうですね。具体的なバンド名を入れるかどうかはすごく考えたんですが…。アジカンは僕らの世代にとって絶大な影響力のあったバンドだと思っていて。他のバンドさんの話をすみません(苦笑)。
田邊: そんな(笑)。大丈夫です、アジカンは偉大な先輩なので。
――『青くて痛くて脆い』のテーマ曲としてBLUE ENCOUNTの「もっと光を」が使われています。住野さんがこの曲を選んだのはどうしてですか?
住野: 理由はいくつかあるんです。歌詞が小説の内容にピッタリだったことだったり、江口さんにDMをいただいたことだったり。いちばん大きいのはライブで「もっと光を」を聴いているときの感情ですね。「自分に投げかけてくれている」と思うと同時に、自分の読者さんのことを思い出すんですよ。「読者に対して、おまえが光を届けろよ」と言われている気がするというか。
江口: すごいですね。
住野: 去年は「君の膵臓をたべたい」が映画化されたこともあり、僕のことを知ってくれた方がすごく増えたと思っていて。『青くて痛くて脆い』を書いていたときは「その人たちにもっと光を届けたい」と思っていたんですよね。そんなときに「小説のPVを作りたいんですが、バンドの曲では何がいいですか?」と聞かれて、「もっと光を」を選ばせてもらったんです。ブルエンにとって代表曲の一つなので、ムリかもしれないと思っていたんですが、快く承諾していただいて、嬉しかったですね。
江口: いえいえ、こちらこそありがとうございます。
田邊: 光栄でしかないですよ。「良かったな、おまえ」っていう感じです。
江口: そうだよね。「もっと光を」はもともとタイアップが付いてなくて、ライブで育ててきた曲なんです。そういう曲を選んでいただいたのも嬉しいし、『青くて痛くて脆い』とリンクしていたこともすごいなって。僕も小説を読んでいるとき「確かに合う!」と思いましたから。
住野: 去年の3月に行われた幕張メッセのワンマンライブのときも「もっと光を」がすごく印象的で。以前からライブハウスのフロアで号泣しながら聴いていたんですが、あの日のライブを観させてもらったことで、元々大好きな曲だった「もっと光を」の価値が更に自分のなかでグンと上がった気がしたんです。「この場所にいる全員がブルエンでありうる」という気持ちになれたんですよね。『青くて痛くて脆い』を読んでくれた方にもそうなってほしいし、大切な誰かに対して「この思いを伝えたい」という気持ちになってもらえたらなと。
田邊: めちゃくちゃ嬉しいです。僕らとしても「もっと光を」をこういう形で取り上げてもらえたのは自信になりました。
――BLUE ENCOUNTは3月21日にニューアルバム『VECTOR』をリリース。住野さんはどんな印象を持たれましたか?
住野: まず、すごくヤンチャだなと感じました。1曲目の「灯せ」から、いきなり先頭打者ホームランみたいだし、「WaaaaKe!!!!」「VS」などの勢いのある曲があって、「…FEEL?」からさらに暴れ出すというか。「グッバイ。」「coffee, sugar, instant love」あたりの流れも絶妙だと思います。「こういうタイプのブルエンの曲は聴いたことがない」という驚きがあるし、そういう曲が入っているからこそ、最後の「さよなら」「こたえ」がさらにグッとは来るという構成になっていて。いままでのブルエンをしっかり見せつけながらも、僕らファンに対して「おまえらの考えている枠には収まらないからな」と言われている気がしましたね。
田邊: いや、いまのは貴重な意見ですよ。実際、そう思いながら作っていたフシもあるので。
住野: 前作の『THE END』を聴かせていただいたときに「ブルエンの塊のようなアルバムだな」と感じたんです。もちろんそれは大好物で。それを経て「次はどんなアルバムになるんだろう?」と思っていたら、こちらの想像を超えるような暴れっぷりだったというか。自分がファンであるバンドがまったく止まらず、どんどん先に進んでいることが嬉しくてしょうがないですね。
――住野さんもブルエンも、新たな一歩を踏み出そうとしているのかもしれないですね。
田邊: そうですね。『THE END』のあとは「次はどうしたらいいんだろう?」と悩んだ時期もあったんですが、「いま感じていることをウソなく伝えたい」と思って作ったのが『VECTOR』なので。
住野: 僕にとっても、『青くて痛くて脆い』から第2章だと思っています。本の帯に“青春が終わる”とあるんですが、まさにそうだなと。「住野よるって、少年少女の小説を書いているんでしょ?」と思っている大人にも読んでもらいたいんですよね。『君の膵臓をたべたい』を発表したのは3年近く前だったので、当時学生だった人はそろそろ社会人になる時期なので。この作品を読んで「一歩上がった」「突破した」と感じてもらえたら嬉しいですね。いまはすごく怖いですが。
田邊: 大丈夫だと僕は思います。『青くて痛くて脆い』はとても突き抜けた作品ですから。