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特集

《『西郷どん!』スペシャル対談》林真理子×鈴木亮平 話題沸騰の『西郷どん!』を著者と大河ドラマ主演俳優が縦横に語り合う。

撮影:高木 亜麗  取材・文:高倉 優子 / スタイリング:徳永 貴士  ヘアメイク:宮田 靖士(THYMON Inc.) 

大河ドラマ「西郷どん」も好評放送中の今、原作者の林真理子さんと西郷隆盛を演じる鈴木亮平さんの対談が実現! ドラマについてはもちろん、作家と役者というそれぞれの視点から見た西郷隆盛について、たっぷり語っていただきました。

心の準備はすでにできていた

林: 大河の初主演、プレッシャーを感じてらっしゃるのでは?

鈴木: それがそうでもないんです。「え、もう演じさせていただけるんですか?」ということは思いましたが、でも心の準備はすでにできていた気がしました。脚本を読んだらすごく面白くて、とにかく楽しみで仕方なかったですね。

林: 中園ミホさんの脚本のいいところは「ハッタリ力である」といったことを、以前NHKの方がおっしゃっていたんですが、私もテレビを観ていて実感しています。小説ではできないことを大胆にやってらっしゃる。たとえば、西郷と三番目の妻の糸には十六歳の年齢差があるけれど、ドラマでは幼馴染みになっていますよね。

鈴木: 確かに「ハッタリ力」というのはわかる気がします。史実よりもドラマティックに描かれている部分もありますし、「これが成立するなら素晴らしい。どうやって演じようか」といつも楽しく悩んでいます。

林: 藩主の座を賭けたロシアンルーレットなんて、下手な役者がやると「あるわけないじゃん」と思うけれど、渡辺謙さんと鹿賀丈史さんという名優の演技には吸い寄せられました。

鈴木: 信じ込み、熱量を持って演じることが、僕ら役者に求められる台本です。今のところうまくできているのではないかと自負しています。

女性が話す鹿児島弁のかわいらしさ

林: 先日、鈴木さんがクイズ番組で世界遺産に関する難問すべてに答えてらっしゃるのを観ました。すごいですね。勉強熱心でいらっしゃるから、今回の大河に関してあまり調べすぎないようにとお達しが出ているとか。

鈴木: そうなんですよ。役者は知ることより感じることが大切だということで、勉強しすぎるのも良し悪しということらしく。林さんが書かれた原作も連載の途中までは楽しく読ませていただいたのですが、あえて最後まで読まず撮影に入りました。

林: 原作と脚本とは違うものですからね。ところで鈴木さんは撮影前に鹿児島にひとりで下見に行ったそうですね。面白い方と出会えましたか?

鈴木: 鹿児島出身の沢村一樹さんに同級生の方を紹介していただきました。沢村さんといえば「エロ男爵」のニックネームでおなじみですが、友達もやっぱりエロ男爵でしたね(笑)。その方が鹿児島弁オンリーの飲み会を開いてくださったんですが、どうにか方言のお墨付きをいただくことができました。

林: 中園さんとも、「さすが外大(東京外国語大学)卒の人は違うわね」と話していたんですよ。大河ドラマが始まった当初は、方言が難しすぎる、字幕がほしいなんて声もありましたよね?

鈴木: これでも標準語にかなり寄せたものになっているそうです。鹿児島弁のイントネーションは残しつつも、わかりやすい言葉を意識しているみたいです。

——現場では「〜もす」など鹿児島弁で会話するのが流行ったとか。

鈴木: 使っていますね。ただ西郷さんが江戸に出てからは、周りに鹿児島人がいないので僕だけがしゃべっている状況ですけど(笑)。

林: 渡辺謙さんが演じる島津斉彬はなぜ方言を使わないの? という声もあるみたいですが、藩主の嫡男は江戸住まいが定められていて、ずっと江戸暮らしをしていたわけだから当然なんですよね。謙さんが鹿児島弁をしゃべる姿はまったく想像できません(笑)。鹿児島弁って外の人間にはわからないようにあえて複雑にしているという説がありますけど、鈴木さんはどう思いますか?

鈴木: 本を読んでいて知ったんですが、言語学的に根拠はないそうですよ。純粋な地域性で、自然と複雑なものに変化していった言葉らしいです。

林 : すごい。やっぱり外大卒! いろんな方から「鈴木さんは四ヶ国語話せる」と聞くんですが、真相は?

鈴木: いえいえ、実際にしゃべれるのは英語だけです。学生時代、ドイツ語のスピーチコンテストで優勝したことがネットの記事になって、そういう噂が広まったようです。あとは、関西弁。標準語と鹿児島弁を入れたら確かに四ヶ国語ですけどね(笑)。

林: ふふふ。方言っていいですよね。特に女性が話す鹿児島弁はかわいい。「ありがとうございもす」とか。

鈴木: かわいいですよね。僕は「そうかもしれないね」という意味の「じゃっかも」という言葉が好きです。これから「島編」の撮影に入りますが、脚本を読んだら奄美大島弁は鹿児島弁よりも、もっとわかりづらかったです。でもこちらもよりわかりやすく変換していくようです。

林: いよいよ「島編」の撮影なんですね。私も「島編」は力を入れて書いたので楽しみです。奄美大島には取材にも行き、鶏飯を食べたり大島(つむぎ)を仕立てたりしたんです。鈴木さんも奥様に大島紬をお土産に買って帰られましたか?

鈴木: お土産には買わなかったのですが、自分用には採寸して作っていただきました。「西郷柄」と呼ばれる茶色に水色の(かすり)が入っている生地です。先日、九州新幹線のイベントで着ました。

林: (写真を見て)わあ、かっこいい! 髪型も昔っぽくて素敵ですね。絵ハガキになりそう。いや、ぜひクリアファイルにしてほしいです。

鈴木: ありがとうございます(笑)。

島から日本を見た経験が西郷を作った

林: 私は大河ドラマが大好きで、いくつもの印象的なシーンを覚えています。たとえば、尾上菊之助さん主演の「源義経」(一九六六年)。壇ノ浦で平家が入水するシーンは、十二単衣を着た女官を水中から撮ったりして非常にエロティックでしたね。渡辺謙さん主演の「独眼竜政宗(どくがんりゅうまさむね)」は、「梵天丸(ぼんてんまる)もかくありたい」という言葉が大流行したんですよ。「西郷どん」も、「今宵はここらでよかろかい」という西田さんのナレーションが流行りそうですね。

鈴木: その部分は、史実としての西郷さんが最期を迎えるときに言った「(しん)どん、もうここらでよか」という言葉に掛けていると聞きました。そう思うと切なくもありますが、素敵なナレーションですよね。

林: 西田さん、そのときの吉之助の心情に添って声色を変えていらっしゃいますよね。

鈴木: 感情を乗せたナレーションを聴くたび、ただただすごいなと感動しています。

林: 大河ドラマの主人公って青年期は生き生きしているけれど、中年以降は狡猾になっていくじゃない? 鈴木さんはこれから、どのように演じようと思っていますか?

鈴木: 西郷さんに関しては、結果的に悪いことをしたように見えても、哲学はブレていないと思うんです。戦国武将のように領土を広げるために戦うというのではなく、自分の信じた正しい道のために手を尽くしているので。

林: 青年時代は年上の人にかわいがられているけれど、年齢が上がるにつれ、慕われたり、頼りにされたりするキャラになっていく。そのあたりの変化も見どころでしょうね。

鈴木: そうですね。それを意識して若い頃の吉之助さんは、かなり動きも大きく演じています。そのひとつが歩き方。晩年の西郷さんは巨体なのに足音がしなかったらしいんです。だから青年時代は元気よくバタバタ歩くようにしてみたり。少しずつ責任が増していき、足音も立てない落ち着いて洗練された人間になっていったのだと思います。

林: 彼を変えた原因はいろいろありますが、二度の島での影響が強いでしょうね。特に沖永良部島(おきのえらぶじま)で入れられた牢は波や砂が吹きすさび、壺のトイレひとつが置かれている劣悪な環境。そこを生き延びた経験が彼を生まれ変わらせたんじゃないかと思います。

鈴木: そうですよね。西郷さんが天を敬い、人を愛すという「敬天愛人」という思想に、どのようにしてたどりついたか。その過程をいかに演じるかは今後の課題でもあります。島流しにあった当初は天を恨んでいたかもしれないのに、それが敬う気持ちへと変わっていく。そこを観ている方に共感していただけるように演じたいですね。

林: 小説を書く上で、私もその部分にはかなり力を注ぎました。西郷が沖永良部の牢で生死の境をさまよったとき、生まれたばかりの柔らかく甘やかな娘の手を思い出し、生きたいと願ったと書いた。つまり西郷は「国家というのは死にたくない者たちの集合体である」という考えにこのとき行きついたと思ったんです。

鈴木: それはとても面白い視点ですね。そしてすごく納得できます。僕は世界遺産について勉強するのが好きなのですが、歴史をひもといても人が集まるのは食べ物が豊富にあるところなんです。そして国家ができ上がっていく。集団で作物を育てて暮らしていけば死なずに済みますから、国家=死にたくない者たちの集合体という考えは腑に落ちます。

林: 西郷は島の暮らしの中で人を愛し、愛されることを知り、幸せとはなんだろうと考えたはずです。慕っていた斉彬の西洋文化への憧れが、島民たちの血のにじむような労働によって支えられていることを見て衝撃も受けたでしょうから。

鈴木: 奄美大島も沖永良部島も、当時の感覚で言えば、言葉や文化が違ういわば異国ですよね。そこから日本を見たという経験が西郷さんにとって大きかったのだと思いますね。

主人公は鈍感な生き物?

——描かれる恋愛模様もドラマの見どころのひとつですよね。

林: 男の子たちの間を女の子がうろちょろしていて、恋愛感情があることが知られると関係が崩れてしまうので伝えられない……。幕末の青春ドラマみたいでキュンとしました。糸は子どもの頃男装したりしていた割に、大人になったらずいぶん慎ましくなったという印象を受けましたけれど。

鈴木: 行動だけで見ると、西郷さんのもとに走って行って叫んだり、告白したりと、当時としてはかなりアクティブなんですけどね。

林: その点、西郷はちょっと鈍感すぎる(笑)。

鈴木: 主人公というのは鈍感なものなのでお許しください(笑)。糸さんに関しては、自分みたいな男に思いを寄せてくれる女の人がいるなんて思ってもみなかったんだと思います。実は僕、似たような経験があるんですよ。中学時代、隣の席の女の子からある日、告白されたんです。僕はモテるタイプじゃなかったので「えっ?」と。すごく驚いた。そのときの気持ちを思い出しながら演じました。

林: 素敵な思い出ですね。その方、残念がっているんじゃないかしら。だって鈴木さん、今やもう国民の恋人ですからね(笑)。今後、私も思い入れの強い「島編」になっていくと思います。島妻・愛加那(あいかな)との恋愛模様も含め、成長していく西郷の姿をしっかり見届けますね。

鈴木: ありがとうございます。先は長いですが楽しく頑張ります!


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