策謀と銃弾飛び交う香港で“負け犬たち”は世界に牙を剥く!
『アンダードッグス』長浦 京
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『アンダードッグス』著者:長浦 京
『アンダードッグス』文庫巻末解説
解説
血と銃弾の雨が降る中、大国の
しかし、長浦京『アンダードッグス』(『小説 野性時代』二○一九年二月号~二○二○年一月号に連載された「ルーザーズ1997」を改題・改稿、二○二○年八月にKADOKAWAから刊行)の主人公は元官僚である。しかも、治安を預かる警察庁や、外国との駆け引きを専門とする外務省などではなく、農林水産省だ。国際アクション小説の主人公として、これほど似つかわしくない職業設定も珍しい。同じ著者の小説の主人公でも、腕利きの諜報員だった『リボルバー・リリー』(二○一六年)の
もちろん、主人公をそのように設定したことには、何らかの著者の意図があるに違いない。では、その意図とは何だろうか。
あらすじの紹介に入る前に、物語の背景となる「
その返還を目前に控えた一九九六年の十二月二十四日からこの物語はスタートする。主人公の
そんな
間もなく年が明ける十二月三十一日の夜、古葉はマッシモが雇った他の四人と顔を合わせることになったが、一人は待ち合わせの場に現れず、しかもまだ何もしていないうちから正体不明の男たちに銃で狙撃される。ここからはひたすら逃避行の連続となるが、古葉以外の三人──イギリス人の元銀行員ジャービス・マクギリス、フィンランド人の元IT技術者イラリ・ロンカイネン、香港政府の公務員の
『オール讀物』二○二一年一月号掲載のインタヴューによると、「編集者と話して”最近コンゲームの味わいがある暴力小説がないよね”と盛りあがり、ジェフリー・アーチャーの『百万ドルを取り返せ!』をもう少しハードにしたような冒険ものを書いてみようと思いついたんです」というのが本書の着想の源だったようだ。主人公の古葉を元農水官僚に設定したことについては、「一番それっぽくない人を活躍させるのが面白いと思って、農水官僚を主人公にしました。ドメスティックに日本の農業問題を考えていて、国際的な謀略になんて絶対かかわりたくないと思ってる人が、むりやり海外に連れて行かれる展開が楽しいかなと(笑)」と述べている。
もちろん、主人公が官僚であることにはそれだけではない理由がある。マッシモは奪取計画を明かした際、古葉の人間性を「弱い者だからこそ、死に物狂いで知恵を出し、時には途方もない力を見せる。考えてみてくれ。君はある意味で私と似ている。高い先見性と計画性、決断力を持ち、しかも復讐心に裏打ちされた強い動機も兼ね備えている。ぼんやり今を生きているようで、自分を陥れた政治家や官僚に対する怒りも憤りも完全には消えていない。君は確かに一度失敗した。でも、その失敗は、君をより強く慎重に、そして
古葉を含め、この物語の主要登場人物は負け犬である。しかし、彼らには彼らなりに、ささやかながらも
古葉慶太の戦いは一九九六年の年末に始まり、一九九七年の春節である二月七日に終わるが、それと並行して、二○一八年を背景とするパートが進行する。こちらの主人公は古葉
著者の長浦京は一九六七年、埼玉県生まれ。二○一一年に『
作品紹介・あらすじ
アンダードッグス
著者 :長浦 京
発売日:2023年09月22日
世界に、牙を剥け。超弩級ミステリー巨編!
1996年、元官僚で証券マンの古葉慶太は顧客の大富豪・マッシモにある計画を強要される。
それは中国返還直前の香港から運び出される機密情報を奪取するというものだった。
かつて政争に巻き込まれ失脚した古葉は、自分を陥れた者たちへの復讐の機会と考え現地へ飛ぶ。
待っていたのは4人のチームメンバーと、計画を狙う米露英中の諜報機関だった。
策謀と銃弾飛び交う香港で“負け犬たち”は世界に牙を剥く!
直木賞候補作にもなった究極のエンタテインメント小説。
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