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圧倒的共感を集めた青春ミステリが文庫化!――『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成 文庫巻末解説【解説:瀧井朝世】

怒濤の伏線回収に驚嘆の声続出!
『六人の嘘つきな大学生』浅倉秋成

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

六人の嘘つきな大学生』著者:浅倉秋成



『六人の嘘つきな大学生』文庫巻末解説

解説
たき あさ

「たぶん、嫌になるくらい理屈っぽいと思います」
 あさくらあきなりは自身のことをそう語る。作品を読めば「そうだろうな」と思う。『六人の噓つきな大学生』は、そのロジカルモンスターっぷりが存分に発揮されたミステリーだ。二〇二一年に単行本が刊行され、第十二回山田風太郎賞の候補となり、年末にはTBS系の情報番組「王様のブランチ」の「ブランチBOOK大賞2021」を受賞。翌年には第四十三回吉川英治文学新人賞、第二十二回本格ミステリ大賞小説部門の候補となり、第十九回本屋大賞では五位にランクイン。二〇一九年刊行の前作『教室が、ひとりになるまで』で注目度が高まってきた著者が、ここで大ブレイクを果たした。

 本書は著者にとってはじめて超常現象を使わない小説であり、はじめて大学生を主人公とした小説でもある。きっかけは編集者からの「就職活動の話を書かないか」という提案だったという。ちなみに自身も大学生時代に就活を経験済みである。
 第一部の主軸は、とある就職試験。二〇一一年、成長株のIT企業スピラリンクスの新卒採用の最終選考に残ったのは、六人の大学生。当初はグループディスカッションを実施し、内容次第で全員内定もあると告げられていたため、六人は定期的に集まって対策を練っていた。しかし直前になって採用枠が「一つ」になり、ディスカッションでは「六人の中で誰が最も内定に相応ふさわしいか」を議論してほしいとの通達が。選考当日、主人公・の提案で三十分毎に投票を行うことにして二時間半のディスカッションが始まるが、早々に部屋で不審な六通の封筒が見つかる。そこにはそれぞれの「罪」がつづられていた。内容や状況をかんがみると会社の人間が用意したとは思えない。つまり、この封筒を用意した〝犯人〟は六人の中にいる──。
 選考過程の間に挿入されていくのが、のちに行われた、当時の人事部長や学生たちへのインタビューだ。名前は名言されないがインタビュアーは内定を勝ち取った人物である。つまりインタビュイーとして登場するのは選考に落ちた人物で、彼らがその後どんな人生を歩んだのかも見えてくる。
 八年後が舞台となる第二部では、スピラリンクスに入社した人物が関係者にインタビューすることになった経緯、そして最終選考の真相が明かされていく。また、その人物が社内で新卒採用試験の面接官を打診され悩む様子も盛り込まれる。単行本刊行当時にインタビューした際、著者は「実は就職活動というテーマを提案された時に一番書きたいと思ったのは、採用側の話だったんです。自分が就職活動をした時に一番違和感があったのは、『あなたたちちゃんと選べますか』ということでした」と語ってくれた(WEBサイト「カドブン」二〇二一年四月八日掲載のインタビューより)。作中のインタビューパートでは、個々人の就活に対する思いも語られるが、おそらくそこには自身の実感も反映されているのだろう。

 会話劇の中であっという間に状況が変化するスピード感、さりげない言動に潜む伏線、そして構成の妙に圧倒される本作。前述のインタビューで情報を小出しするテンポが絶妙だと伝えると、著者は突然「『ダウンタウンのごっつええ感じ』の「世紀末戦隊ゴレンジャイ」というコントが……」と言い出した。
「悪者がはまちゃんで、YOUさんが襲われて『助けてー』というと『待てー!』といってゴレンジャイが一人ずつ『アカレンジャイ!』『キレンジャイ!』と登場してポーズをきめるんですけれど、毎回コスチュームがおかしい、というコントです。初回はアカレンジャイが現れてキレンジャイが現れるまではいいんですが、次も赤、その次も赤で、最後に黄色が出てきて大笑いとなる。あれがもし赤、赤、赤、黄、黄だったら面白くないんです。あのゴレンジャイを思い出しながら、どの順番が面白いかを考えていきました」
 まさか『六人~』のインタビューでゴレンジャイの話になるとは思っていなかったが、つまりは順番が非常に大事、ということ。では、具体的にどのように話を組み立てているのか。くだんのインタビューと、『俺ではない炎上』刊行時のインタビュー(「別冊文藝春秋」二〇二二年七月号掲載。ネット転載あり)で印象に残った点をまとめてみる。
■メリハリを設定:まず最初に、冒頭からラストまでの折れ線グラフを作るという。事件発生、新事実の発覚など、話の盛り上がりポイントをグラフの高低で表すのである。全体を見てへいたんに思えたら、新たな高低差を作って調整するという。
■読者の心理をコントロール:(作品にもよると思うが)犯人が謎のゾーン、犯人A説ゾーン、犯人B説ゾーンなどと話のどの段階で誰が疑わしいかを決め、最後に種明かしゾーンを設定する。
■プロットは長め:プロットは原稿用紙百枚程度になるという。これはかなり長い。ご本人いわく「文章を整えていない下書きみたいな感じ」。
■重要エッセンスはエクセルで管理:小説内に絶対に出さなければならないエッセンスをエクセルの一覧にして、書き終えたらセルの色を変える。そうすれば一目で「これを書き忘れている」とわかる。「このシーンではまだこれは要らない」と思ったらセルを移動できるので、ラクなんだそうだ。
 こうした準備があるからこそ、読者を飽きさせず、驚かせる物語が生み出せるのだ。ただ、伏線回収の鮮やかさで高評価を得る著者だが、それで満足しているわけではないようだ。それについては以前訪れたという、つけめん店での経験で説明してくれた。その店ではつけ汁をポケットコンロに載せて汁が冷めないよう配慮がなされており感心したという。しかし……。
「『これはいい発想だわ』『このコンロいいよね』って言われ続けたら、きっとお店の人は『確かにコンロを用意したのは俺だけれど、もうコンロはいいからつけ麵の味の感想を教えてくれ』って思うだろうな、っていう。僕もたぶん、若干そう思う気がします。伏線って、張らないですむなら張らなくていいと思いますし。とはいえ、『ちょっといいコンロ用意しときます』っていう気持ちもあるんですよ。理想は全パラメーター100点ですよね。ミステリーとして読みたい人も満足して、物語として読みたい人も満足して、総合点が高いものが書けたらいいなと、つねづね思っています」
 その流れで、どんでん返しについてもいてみた。
「どんでん返すのは大変じゃないんですよね。『男だと思っていたでしょ? 女でした!』とかって、いくらでも書きようがあるので。ただ、それによって付随する何かの味が変わらなきゃいけないとは思います。『これ、コンロで温める必要ありましたか?』みたいなどんでん返しはどうなのか、と」「サトウでもタナカでもどっちでもいい、というところを、『えっ、タナカだったの!』と言ってもらうために頑張るのが小説なんだろうと思います」「だからトリックやオチって、テーマから遠ざけちゃいけない気がします。そうでないと、驚かせるだけのパズルドッキリにはなるけれども、小説にはならないんだろうな、って」

 実際、『六人の噓つきな大学生』では強烈に浮かび上がってくるテーマがある。おそらく、読者の中では話が進むほどに、登場人物一人一人に対する印象が二転三転したはずだ。他者の言動のひとつをピックアップして、その表面だけを見てジャッジすることなんてできない、ということを体感したのではないか。翻って考えてみると、私たちは日々、たとえばSNSで偶然見かけた人に対し、じっくりと検証することなく「どう評価するか」、もっというならば、「その人を信頼するか」「その人を否定するか」を決めてはいないだろうか。しかし人間は、すべてが善良で正しい人とすべてが極悪で間違っている人に振り分けられるわけではないのだ。本作の終盤、完全に善良に思えた人物のほの暗い一面が描かれるのは、著者にもそういう思いがあり、一人だけ善人のまま物語を終わらせたくなかったからではないか。断片的な情報(偽情報を含む)で判断され否定される怖さは現時点での最新作『俺ではない炎上』でも描かれている。これはSNS炎上から始まる逃亡劇で、スリルと驚きを味わわせながらも、訴えてくる内容は非常にしんで誠実だ。
 著者のロジカルモンスターっぷりは小説作品だけでなく、原作を手掛けているばたたけしの漫画『ショーハショーテン!』でもたんのうできる。こちらは少年二人がお笑い芸人を目指す話で、作中でも笑わせるだけでなく、「この状況はこうするとこういう笑いが起きる」といった分析が明快に語られていてはっとさせられる。浅倉氏は小学生の頃から同級生とお笑いをはじめ、大会に出たこともあるという。どうしたらウケるのか理屈でずっと考えてきたそうで、それが結実した作品だといえるだろう。謎であれ笑いであれ、現代社会に対する疑問であれ、とことん理屈を突き詰めた思いを、極上のエンターテインメントに昇華できる作家なのである。

作品紹介・あらすじ



六人の嘘つきな大学生
著者 浅倉 秋成
定価: 814円 (本体740円+税)
発売日:2023年06月13日

映画化決定! 圧倒的共感を集めた青春ミステリが文庫化!
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『このミステリーがすごい! 2022年版』(宝島社)国内編 8位
週刊文春ミステリーベスト 10(週刊文春 2021年 12月 9日号)国内部門 6位
「ミステリが読みたい! 2022年版」(ハヤカワミステリマガジン 2022年 1月号)国内篇 8位
『2022本格ミステリ・ベスト10』(原書房)国内ランキング 4位


成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

怒濤の伏線回収に驚嘆の声続出! 青春ミステリの傑作が、ついに文庫化!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322210000678/
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