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特集

発売直後に続々重版! 話題沸騰中の『六人の噓つきな大学生』浅倉秋成氏インタビュー(前編)

撮影:小林川ペイジ  取材・文:瀧井朝世 

3月2日に刊行された新作の長篇小説『六人の噓つきな大学生』が発売1週間で3刷がかかるなど、スマッシュヒット中の浅倉秋成さん。作品の裏側や「伏線の狙撃手」という異名の由来など、浅倉さんにたっぷりと語っていただいたお話を2部構成でお届けいたします。前編では『六人の噓つきな大学生』が生まれたきっかけなど、本作の創作の秘密を伺いました。


――新作『六人の噓つきな大学生』が大変評判ですね。成長株のIT企業の初の新卒採用試験を通して親しくなった六人の大学生が、最終面接で、ディスカッションで六人の中から一人の内定者を決めよ、という課題を出される。仲間が突如ライバルとなり、密室での心理戦が展開されていく。もともとどのような発想があったのですか。


浅倉:正直なお話をすると、編集者から「就職活動について書きませんか」と提案があったんです。大学生の話は書いたことがなかったので、意義のあるチャレンジだと思いました。


――浅倉さんは若くしてデビューされていますが、就職活動はしたのですか。


浅倉: しました。大卒で就職して2年間勤めていました。なので今回の話は、当時の実体験や疑問と不可分なところがあります。

それとは別に、いつか密室の会話劇をやりたいと思っていたんです。それで足し算して、採用試験でのグループディスカッションがどうかな、と考えました。


――ディスカッションの途中で見つかるのが、謎めいた六通の封筒です。一通開けると、ある人物について「過去に彼のいじめによって後輩が自殺した」と書かれている。どうやら彼らの過去の罪が書かれてあると分かり、他の封筒を開けるかで揉めるうえ、用意した犯人は誰かという疑惑も生じる。


浅倉:バトルのアイテムとして何が一番面白いかを考えました。極限までいい子に振る舞わなくてはいけない就活で、悪い子にならなければいけない瞬間が生まれてしまう、そのスパイスとして告発文をしのばせました。


――面白いのが、三十分ごとに誰が内定者としてふさわしいか投票するんですよね。告発文や議論の流れをうけて、毎回、投票結果が大きく変わるのがスリリング。


浅倉:投票結果が出ることで、六人の反応も変わっていくし、読者にも今誰が優勢で誰が劣勢か分かる利点があるので、ふた粒おいしいかなと考えました。


――心理戦の合間に、その後のインタビューが挿入されます。参加者たちが当時何を思っていたのか、その後どうなったのかが語られていく。それによって「この人は犯人じゃなかったんだな」「この人は選考で落ちたんだな」と読者は思う。この情報の小出しが絶妙ですね。


浅倉:どうやったら結論まで引っ張れるか、慎重に考えて設計図を作りました。「ダウンタウンのごっつええ感じ」で、「世紀末戦隊ゴレンジャイ」というコントがあったんです。ゴレンジャーのような戦隊ものですね。

悪者が浜ちゃんで、YOUさんが襲われて「助けてー」というと「待てー!」といってゴレンジャイが一人ずつ「アカレンジャイ!」「キレンジャイ!」と登場してポーズをきめるんですけれど、毎回コスチュームがおかしい、というコントです。初回はアカレンジャイが現れてキレンジャイが現れるまではいいんですが、次も赤、その次も赤で、最後に黄色が出てきて大笑いとなる。あれがもし赤、赤、赤、黄、黄だったら面白くないんです。あのゴレンジャイを思い出しながら、どの順番が面白いかを考えていきました。


――ゴレンジャイだったとは(笑)。書く前にかなり設計図は決めておくんですか。


浅倉:僕の場合、下書きに近い状態のプロットを作っておかないと不安でしょうがないんです。最初に折れ線グラフを作って、ここで頂点を迎えてここで一回落ちて、また上がって…と決めて、それに沿って何が起きるのかあてはめていく。それぞれの行動や台詞もエクセルに書いて、全体を把握してから書き始めます。細かいところで遊ぶためには、大枠が見えていないと迷子になるので、マクロからミクロに落とし込んでいく感じです。



――本作は二部構成。第一部のディスカッションは一応決着がつきますが、八年後が舞台となる第二部は内定を勝ち取った人物が、当時何があったのかを改めて検証していく。またその人物が、今度は自分が新卒採用の面接官になりますね。


浅倉:実は就職活動というテーマを提案された時に一番書きたいと思ったのは、採用側の話だったんです。自分が就職活動をした時に一番違和感があったのは、「あなたたちちゃんと選べますか」ということでした。

就活というイベントに対しては、間違いなく「絶対にうまくいってるわけがない」という気持ちがあります。社会人になってからも「どうしてこんな人間が入社できたんだろう」「どうしてあんな優秀な人が落ちたんだろう」と思っていました。たまたま試験の瞬間だけが切り取られその後何十年かが決まってしまう。代替案のアイデアがあるわけではないですけれど、まかり通っている理不尽に何かしら提言したい気持ちがあったかもしれません。


――六人の学生もどんどん印象が変わっていって、わずかな情報だけでその人を判断なんてできない、と強烈に感じます。


浅倉:他人に対するイメージや思い込みを裏切ることは考えていました。

その人のどこをピックアップされるかで印象って変わりますよね。僕はネットで炎上した人の、それだけでは見えてこない部分や悪くない側面を見ようとする作業がわりと好きで。悪いことを擁護する気はないですけれど、人間っていい部分も悪い部分も複雑に折り重なっていると思うんです。でも、「この人はいい人だから何があろうとついていく」「こいつは嫌いだから何をしようと否定する」というのは僕も含めてやりがちだなって。

就職活動の面接も一面だけで評価しているものだし、しかもそれが見た目とか性別とか、本質じゃないところが根拠になっている場合もありますし。

後編へつづく

作品紹介



六人の嘘つきな大学生

著者 浅倉 秋成
定価: 1,760円(本体1,600円+税)

「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。

成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を
得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。

教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/
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浅倉秋成

1989年生まれ、小説家。関東在住。第13回講談社BOX新人賞Powersを『ノワール・レヴナント』で受賞しデビュー。2019年に刊行した『教室が、ひとりになるまで』で第20回本格ミステリ大賞と、第73回日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門にWノミネート。その他の著書に『フラッガーの方程式』『失恋の準備をお願いします』『九度目の十八歳を迎えた君と』など。

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