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特集

この作家、いま来てます! 浅倉秋成の3作品(若林踏・選)

「いま、自分は息苦しい青春を送っている」と思っているあなたへ。
「かつて、自分は息苦しい青春を送っていた」と思っているあなたへ。
浅倉秋成の小説を読むといい。その息苦しさが、ちょっとは軽くなるかも知れないから。

1,『六人の噓つきな大学生』(KADOKAWA)


書影

六人の噓つきな大学生


就活では企業が求める人物像に合わせるため、時に学生たちは必要以上に自分を大きく見せたり、大げさに個性をアピールしてみせたりする。そうした「偽りの自己」が生まれやすい場であることに着目し、就活を本格謎解きミステリの舞台に仕立て上げたのが『六人の噓つきな大学生』だ。
急成長を遂げるIT企業「スピラリンクス」の新卒採用に最終選考まで残った六人の大学生たち。最後の課題は「グループディスカッションを行い、最高のチームを作り上げる」というもので、その出来によっては六人全員に内定を出す可能性もあるという。六人は結束して課題に取り組み、内定を競い合うライバルの関係を超えて交流を深めていった。
だが、状況は一変する。急きょ採用枠が「一つ」になり、課題の内容が「六人の中で誰が最も内定に相応しいかを議論する」ことに変更されたのだ。さらに議論の当日、六人に宛てた差出人不明の告発文が見つかったことで、最高のチームを作り上げるはずだったグループディスカッションは、地獄のような椅子取りゲームへと変貌する。
和やかなムードから一転、疑心暗鬼に陥った若者たちが腹の探り合いを始める場面は、もはや心理戦の様相を呈している。就活を題材にした小説は数あれど、これほどサスペンスフルな密室劇として描いたものは今まで無かっただろう。
物語の後半では至るところにちりばめられた伏線が回収され、ドミノ倒しの如く鮮やかに謎が解かれていく。その過程で浮かび上がるのは、新卒採用がはらむ奇妙なねじれである。たかだか数分の面接やディスカッションで、本当に他人の本質を見抜くことなど可能なのか。
日本中の若者を悩ませる就活。その根っこにある問題を、浅倉秋成は謎解きを通じて俎上に載せるのだ。

書誌情報:https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000377/

2,『教室が、ひとりになるまで』(角川文庫)


書影

教室が、ひとりになるまで


日本推理作家協会賞と本格ミステリ大賞の候補作に選ばれた『教室が、ひとりになるまで』は、浅倉秋成が青春ミステリの書き手として注目を集めるきっかけになった。
私立北楓高校でわずか一か月のあいだに、三人もの生徒が立て続けに自殺を図った。奇妙なことに三人とも同じ文面の遺書を残して死んでいるのだ。二年A組の垣内友弘は、幼馴染の白瀬美月から驚くべきことを聞く。三人が死んだのは自殺ではなく、“死神”が何らかの特殊能力を使って殺害したのだ、と。
その後、友弘の元に謎の手紙が届く。そこには彼に噓を見破る能力が備わったこと、同じように特殊能力を持った生徒が校内にあと三名いることが書かれていた。自殺にみせかけて生徒たちを死に至らしめた人物は誰なのか。もし犯人が能力者であるとしたら、どのような能力を使ったのか。
非現実的な要素を謎解きのルールに絡めた「特殊設定ミステリ」が隆盛を極めているが、本書もその一つだ。特殊能力を授かった主人公が、その能力を駆使して相手の力を見破ろうとする、という展開は山田風太郎の〈忍法帖〉シリーズや漫画〈ジョジョの奇妙な冒険〉シリーズなどでお馴染みの異能バトルに近い。また、友弘の持つ噓を見破る力には発動するための条件が細かく決められており、そのルールに則った緻密な謎解きが描かれていくことも特徴だ。
そうした特異な「フーダニット」「ハウダニット」を描いた小説であると同時に、本書は「ホワイダニット」、つまり動機の解明においても鮮烈な印象を残す作品である。クライマックスにおける登場人物たちのやり取りは、暗い青春を経験した人間ならば深く心を抉られるに違いない。

書誌情報:https://www.kadokawa.co.jp/product/322003000403/

3,『九度目の十八歳を迎えた君と』(創元推理文庫)


書影

九度目の十八歳を迎えた君と


『教室が、ひとりになるまで』が暗いトーンで描かれていたのに対し、『九度目の十八歳を迎えた君と』は比較的明るく、どこかチャーミングな雰囲気もたたえた青春謎解きミステリになっている。
印刷会社に勤める間瀬は通勤途中、駅のプラットホームで高校時代の同級生である二和美咲を見かける。驚くべきことに美咲の姿は高校三年生の姿のままだった。卒業からもう何年も経っているにもかかわらず、なぜ美咲は十八歳の姿に留まっているのか。謎を解くために、間瀬は高校の同級生や恩師を訪ねることにした。
『教室が、~』とは一味違う、摩訶不思議なホワイダニットを描いた小説だ。主人公の間瀬はかつて美咲に恋心を抱いており、彼女との関係を軸にした高校生活の回想が現在のパートと交互に綴られていく。
大人になった本人が“青春の空回り”と称するように、彼女への思いをこじらせ続ける高校生の間瀬は、端からみると痛々しい。けれど、あの時に抱いた感情を「痛い」の一言で片づけて良いものなのか。謎解きを通して読者も自身の過去を振り返り、見つめ直したくなるはずだ。自分の青春は本当に冴えないものだったのか、と。

書誌情報:http://www.tsogen.co.jp/np/isbn/9784488435219

奇抜な謎の設定と、巧妙な伏線。今回紹介した三冊は謎解きミステリとして抜群の完成度を誇りつつ、現代の若者を縛り上げる呪いのようなものをあぶり出す、優れた青春小説でもある。息苦しさの正体を知りたければ、浅倉秋成の小説を読むのだ。


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