話題沸騰のファンタジーシリーズ「火狩りの王」の過去と未来を描いたシリーズ外伝!
『火狩りの王 〈外伝〉野ノ日々』 日向理恵子
角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。
『火狩りの王 〈外伝〉野ノ日々』著者: 日向理恵子
『火狩りの王 〈外伝〉野ノ日々』文庫巻末解説
解説
息を詰めるようにして、4冊読み切った。
『火狩りの王』、春ノ火、影ノ火、牙ノ火、星ノ火。登場人物の誰もが痛みを抱え、大きな力に
そこには魔法のような解決策も、ピンチで見いだす逆転の力も、天から降ってくる助けもなかった。全てを牛耳る悪の親玉などいない。世界がドラスティックに良くなるような解決策などない。救世主もヒーローも天才もいない。
そう、びっくりするほど、何もなかった。
そこにいたのは、普通の人たちだった。
一つの噓も、ごまかしも、ご都合主義もない、
きっと登場人物たちの痛みと苦しみを作者の
そうして大きな波のようにあらゆる人を
あの
本編を振り返りながら、一つ一つの短編について触れていこうと思う。
「第一話 光る虫」。家族を亡くし、唯一残された祖父も失った天涯孤独の少年
ほたるは旅のはじめで、
ほたるの他者を慈しみ、癒やそうとする姿勢、おっとりとしなやかで、でも
もう一つ、この短編で描かれる重要なことの一つが、世界は必ずしも良くなってはいない、ということだ。これはのちの「第六話 渦の祭り」でより詳しく書かれるが、ここでは事態を知らない村人たちの目線でより生々しく、生活に根付いたものとして明かされる。
「第二話 入らずの庭」の舞台は物語が始まる前に
ラストに
火狩りになる前の
「第五話 ほのほ」。混乱の中でなんとか立ち上がろうとしている首都、そこに残った火穂や
個人的に読んでいて楽しかったのは、猫が出てきたこと。犬派なので、本編でさまざまな犬の勇姿(と、もふもふっぷり)が
全六編のうち、時系列的に最も後の話となるのが「渦の祭り」。流れ者の火狩りとして灯子たちを支え、最後まで導いた明楽と思わぬ人物の娘との出会いの話。
世界の王に選ばれたけれど、今まで通りの生き方を選んだ灯子。灯子の代わりに実質的な王となったが、最後に自分らしい生き方に戻った明楽。それぞれが半生を経て再会したとき、どんなことを話すのだろう。もういない人、会えない人、一人一人の顔や声を思い出していくのだろうか。その時、明楽の
全ての話を
今、わたしたちがいる世界はどうだろう。戻りようのない破滅に向かっていないだろうか。人を燃やすのは、火だけではない。憎しみや偏見、
日向さんはエッセイの中でこう書いている。
「『火狩りの王』では、絶対悪がいない世界を描きたいという思いがありますが、
それと同時に〝善〟のみのキャラクタもいないように気をつけました。
主人公たちにもそれぞれ、無意識の差別感情があったり、
周りの人が頭を抱えるだろう短所があったり……。
そういう人たちが、一生懸命に大事な人のことを考えながら
ごちゃごちゃと生きている世界を書きたいと念じながら綴 りました。」(日向理恵子〈狩りの日記〉④)
わたしたちも灯子たちと同じように、絶対悪も絶対善もいない、誰もが一生懸命に大事な人のことを考えながらごちゃごちゃと生きている世界にいる。この世界の
そう思いながら、本を閉じた。
作品紹介・あらすじ
火狩りの王 〈外伝〉野ノ日々
著者 日向理恵子 イラスト 山田章博
定価: 770円(本体700円+税)
発売日:2023年03月22日
「火狩りの王」シリーズ本編で活躍した「彼ら」の過去と未来を描く短編集。
黒い森に覆われ天然の火が扱えない世界は、ある少女たちの戦いを経て、大きな変化を迎えようとしていた――。森の中の機織りの村では、ある日守り神が突如姿を消し騒然となる。村人は厄払いで嫁いできた娘のせいだと噂するが、村の少年・七朱が偶然手にした手紙には思いがけない事実が記されていて……(「第一話 光る虫」)。話題沸騰のファンタジーシリーズ「火狩りの王」で活躍した「彼ら」の過去と未来を描いた短編に、本編では語られなかった「旧世界」の物語も収録したシリーズ外伝。
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