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【評者:佐藤可士和】人の目と心を瞬間的に捉えられる、絶妙なコミュニケーションセンスに感動!大人気シリーズ、新章開幕!『新 怖い絵』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説者:とう / クリエイティブディレクター)

「怖い絵」。このタイトルを初めて目にした時の衝撃は、今も鮮明に記憶している。タイトルだけで読んでみたいと思うようなすごいインパクトで、素晴らしいと思った。人の目と心を瞬間的にとらえられる、絶妙なコミュニケーションセンスに感動して、思わず本を手に取ったのが、僕と中野京子先生との最初の出会いだった。

 紹介されているのは、一見怖そうに見えない名画の数々。ところが中野先生の文章を読む前と後では、絵の見え方がまるっきり変わる。「表層と深層」、「真実とは何か?」ということを考えざるを得ない読書体験だ。絵の背後に流れる文脈とストーリーの圧倒的なパワーを知ってこそ楽しめる名画の鑑賞。小難しくてちょっと退屈……という従来の美術の解説のイメージを覆し、多くの方々の興味と驚きを喚起するようなプレゼンテーションはいつも楽しみで、「怖い絵」シリーズを読んだ後の絵画鑑賞は面白味が倍増する。

 クリエイティブディレクターとして、企業のブランド戦略に携わっている僕は、日々の仕事においてブランド、商品、サービス、施設、地域など、さまざまな対象を読み解いている。対象となるクライアントの本質をつかみ、余計なものをぎ落として、なるべくシンプルに明快に、その価値を社会に伝えられるようなストーリーや文脈を構築しているのだ。中野先生の対象が絵画なのに対して、僕はビジネスというフィールド、そして「怖い絵」はテキストという手段なのに対してブランディングはビジュアライズという手法を用いているが、対象を読み解いてストーリーや文脈を作るという意味では共通するところがあり、とても共感できるのだと思う。



新 怖い絵』には、『折れた背骨』のフリーダ・カーロ、『あなたの息子を受け取ってください、旦那さま』のフォード・マドックス・ブラウンなど、これまでのシリーズでは取り上げられていなかった作家も登場。ジョン・ウェイン・ゲイシーという作家ではなく連続殺人鬼の『自画像』も掲載されており、紹介される絵画の時代もジャンルも新たな広がりを見せている。一方でティツィアーノの『パウルス三世と孫たち』のような肖像画にちりばめられた作家の秘めた意図を知ったり、レーピンの『思いがけなく』のように画面に描き込まれた別の絵から登場人物の境遇を推測するなど、これぞ「怖い絵」シリーズの真骨頂! と感じるような読み解きもあって、中野先生と巡る絵画の世界の旅がますます楽しくなる一冊だ。モネの『死の床のカミーユ』で紹介されるエピソードを知ってから観る『ラ・ジャポネーズ』や『すいれん』など、本書に掲載されている絵画以外のモネの代表作にも、また違った視点を提供してくれている。「怖い絵」展の記憶も新しいが、本作の実物を目の前にして、画家のその思いをたっぷり鑑賞したい誘惑にかられるし、次回の「怖い絵」展では、ぜひその作家の関連作も存分に味わいたいと夢が膨らむ。

 情報がインターネットで取り放題、目の前を素通りしていく情報量がすさまじい現代。ひとつのものをじっくりと考察して読み解く時間がない時代に生きる僕たちにとって、専門家もうなる解説を、専門知識がなくても楽しくわかりやすく紹介する中野先生のアプローチは、美術評論をエンターテインメントにした。そして多くの人々に絵画鑑賞を楽しむという機会をプレゼントしてくれた。それは本当に素晴らしいことだと、心から尊敬している。「美」という概念を持っていること、それこそが人間であり、「美しいとは何か」を考えることが、人間や人間社会を見つめることの原点だと思う。「怖い絵」シリーズで紹介される名画の解説を読んでもわかるように、「美」には夢や理想、欲望などいろいろな要素が複雑に入り込んでいる。「美」を考えることは人間らしさを考察する上で、非常に重要なことだ。今、このグローバル化、情報化社会をAIと共に生きる僕たちにとって、「美」を通して人間の本質を考察していくことは、とても必要なことだと感じている。そのきっかけを、「怖い絵」シリーズが作ってくれている。

中野京子『新 怖い絵』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321909000205/


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