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レビュー

赤煉瓦の製糸工場に息を吹き込む女子校ノリの青春小説

 二〇一四年にユネスコの世界文化遺産に登録され、にわかに注目を浴びることになった群馬県の旧富岡製糸場。ここが藤井清美『明治ガールズ』の舞台である。「富岡製糸場で青春を」という副題通り、本書は製糸場で働く娘たちを主役にした小説なのだ。
 脚本家としてのキャリアを積んできた藤井清美の、これははじめての長編小説だそうだけど、いやいや、この手があったか、と思いましたね。
 主人公は富岡製糸場のシンボルともマドンナともいえる横田英。信州松代の中級武士の家に生まれ、明治六(一八七三)年、設立されたばかりの工場に入り、後に当時を回想した『富岡日記』(大正二=一九一三年)を残したことで知られる女性だ。
 ってことは歴史小説?
 たしかにそういう面もあり、基本的な設計は史実に基づいているけれど、本書はむしろ、英とその仲間たちを描いたハラハラドキドキの青春小説といったほうがいいだろう。なにせここには全国から集まった十代、二十代の女の子が五〇〇人以上もいて、寄宿生活を送っていたんだから、往年の少女小説の舞台そのものじゃないの!
 というわけで、物語は英が故郷の松代を旅立つ前の話からはじまる。
 発端は一五歳の英のもとに舞い込んだ縁談だった。相手は同じ松代の旧家・和田家の長男盛治。「今は、まだ、困る」と英は思った。彼女は使用人の幸次郎に密かに思いを寄せていたのである。一方、英の父・横田数馬も悩んでいた。区長を務める数馬のもとには、富岡の官営工場に一五人の少女を送り込めとの指令が県から来ていたが、「人さらい!」「娘を異人の人身御供にする気か」などと罵られ、少女はいっこうに集まらない。
 ある日、家族が集まる夕餉の席で父の話を聞いた英は、自分でも思いがけない言葉を口にした。「わたし、富岡製糸場に参ろうと思います」
 ひえー、富岡行きが結婚を避ける手段だったとは! しかし、結婚を延期してもらってまで富岡行きを望んだ英の決断は、風向きを変えた。
 結果的に、婚約者盛治の姉である和田初(最年長の二四歳)から、旧松代藩の家老の娘・河原鶴(最年少の一一歳)まで、英を含めて一六人の少女が富岡行きを志願。工場での悲喜こもごもやそれぞれの人生模様も織り込んで、この後、女子校ノリ(?)の物語が展開していくことになる。
 横田英の一代記ではなく、文字通り「富岡製糸場の青春」に的をしぼったのが成功の要因でしょうね。富岡への道中で、早くも起きるトラブル。来る日も来る日も「繭選り」しかさせてもらえない悔しさ。英ら松代チームと、旧長州藩であることをいちいち鼻にかける山口チームとの対立。
『富岡日記』では優等生っぽいイメージだった英は、ここではちょっと頼りない不器用な少女であり、行きがかり上リーダー格になってしまったものの、「英ちゃんが富岡に行くと言ったから、わたしたちも来たのよ」と迫られて、ほとほと困り果てる。
 加えてフィクションとして付け足された、富岡にいる英と、故郷の幸次郎とのまどろっこしくも純情な恋模様がヤキモキさせるのよ。当初、富岡の物語に恋バナはいらんだろうと思ったが、どうしてどうして、これが物語に思いがけない情感と緊張感をもたらすのだ。英の親友で故郷に残った晶子、副取締の万壽子、優等工女のせん、山口チームの代表格である量など、登場人物のキャラクターも抜群。英たちが人力車を連ねて故郷に凱旋するラストなど、涙なしには読めません。
 富岡で最先端の糸繰り技術を学んだ英たちは、いずれ故郷に建設予定の製糸工場で教えるという使命を負っていた。歴史は人が動いてはじめて血肉を与えられる。建物だけが残った赤煉瓦の富岡製糸場に、新しい息を吹き込む物語。これならすぐにでも映像化できそうだ。蚕の繭が生糸になるまでのプロセスも学べる意義も大きい。中学生から大人まで楽しめること請け合いのエンターテインメント小説である。


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