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レビュー

大沢在昌の近未来冒険エンターテインメント! 〈新東京〉の人工島を巡る欲望と謎を鮮烈に描く『影絵の騎士』

文庫巻末に収録されている「解説」を特別公開!
本選びにお役立てください。

(解説者:きたがみ ろう / 文芸評論家)

 いやあ、面白い。本書を読むのは三度目だが、なんと今回がいちばん面白かった。
 最初に読んだのは、本書が発売になった2007年だ。二度目に読んだのは2018年の暮れ。三度目は今回この原稿を書くために読んだ。これで三読である。二度目に読んだのは、初読のときから10年以上が過ぎているのだから、内容を忘れていても不思議ではない。記憶力の悪い私はすっかり内容を忘れていたので、まるで初読のときのように面白かったが、問題は、今回である。三読目の今回はそれから7カ月しかたってない。いくらなんでも覚えているし、もう飽きただろうと思っていたのだが、ページを繰る手が止まらなかった。もちろんだいたいのストーリーは覚えている。ムービー・アイランドを舞台にした長編で、その夢の島で我等がヨヨギ・ケンが大活躍するという大筋も十分にわかっている。ところが覚えていたのは大枠だけで、細部を忘れているのだ。だから、そのディテールに触れるたびに面白いのだ。たとえば物語の後半に、ヨヨギ・ケンが、ムービー・アイランドの帝王ワン・コングと会うシーンがある。おお、どうしてこんなに鮮烈な場面を覚えていないのか。ぞくぞくするシーンといっていい。
 話は突然飛んでしまうが、てつを思い出した。私、阿佐田哲也の短編群をもう何度読んだかわからない。だいたいの内容はもちろん十分に知っている。ところが何度読んでも面白いのだ。そうなんである。小説のジャンルはまったく異なるが、おおさわありまさはいまや私にとって阿佐田哲也なのだ。
 7カ月前に本書を読んだのは、大沢在昌の『帰去来』が2019年1月にじようされると知ったからだ。この機会に大沢在昌の「SF的シチュエーションを導入した現代エンターテインメント」を全部再読しようと思ったのである。その再読本の中に本書があったということだが、そのときWEB本の雑誌に書いた原稿から、本書に関するくだりを少し長くなるが、引いておく。

『影絵の騎士』は『B・D・T[掟の街]』の続編である。『B・D・T』から10年後、オガサワラで隠遁(いんとん)生活を送っているヨヨギ・ケンのもとにヨシオ・石丸(いしまる)が訪ねてきて、この『影絵の騎士』の幕が開く。今度は東京湾の人工島を舞台に、個性豊かな人物が入り乱れ、謎狩りとアクションの物語が展開する。前作を上回る傑作といっていい。
 この『B・D・T』『影絵の騎士』連作に匹敵するのは、『天使の牙』とその続編『天使の爪』だろう。こちらも素晴らしい。まず『天使の牙』は男勝りの女刑事明日香(あすか)が死に、その脳が絶世の美女に移植されて幕が開く。アスカとして蘇(よみがえ)ったヒロインは、新型麻薬アフター・バーナーの元締め君国(きみくに)に接近するが、それを援護するのが元恋人の古芳(ふるよし)。ところが古芳はアスカの中にいるのが明日香とは知らず、さらにアスカにも古芳が組織の内通者かもという疑いがあるので、ぎくしゃくしているとの設定がいい。これが続編の『天使の爪』になると、アスカの中にいる明日香が好きなのか、それとも絶世の美女として生まれ変わったアスカが好きなのか混乱してくる(アスカも同様だ)という展開が素晴らしい。こちらも物語は複雑に絡み合い、脇役にいたるまでの人物造形もよく、さらに壮絶なアクションも特筆もの。この『天使の牙』『天使の爪』は、『B・D・T』『影絵の騎士』連作に匹敵する傑作で、この二つの連作が面白さと迫力では飛び抜けている。

 長い引用ですみません。本書が『B・D・T』の続編であることを引いてしまったので、若干の補足を急いで付け加えておく。もしも『B・D・T』を未読の人が、いま書店で本書を手にして「なんだよ、だったら前作を読んでいなかったらダメか」と平台に戻そうとするかもしれないが、なあに、大丈夫だ。たしかに本書は『B・D・T』の続編だが、その前作の内容を知らずに読んでも十分に面白い。本書が面白ければ、そのあとで『B・D・T』をお読みになればいい。
 あるいは、本書読了後に大沢在昌の他の作品も読みたくなるかもしれない。そのときは前記の『天使の牙』『天使の爪』連作をおすすめするが、もっと他にないのかという声のために、大沢在昌がこれまでに書いた「SF的シチュエーションを導入した現代エンターテインメント」のリストも掲げておく。

①『ウォームハートコールドボディ』1992年
②『B・D・T[掟の街]』1993年
③『悪夢狩り』1994年
④『天使の牙』1995年
⑤『撃つ薔薇 AD2023涼子』1999年
⑥『天使の爪』2003年
⑦『影絵の騎士』2007年
⑧『帰去来』2019年

 これ以外に、角川文庫『冬の保安官』に、「小人がわらった夜」「黄金の龍」「リガラルウの夢」というローズ・シリーズ3編が収録されている。これが、大沢在昌の「SF的シチュエーションを導入した現代エンターテインメント」のすべてである。本書が面白ければ、まず『B・D・T』にさかのぼり、次に『天使の牙』『天使の爪』連作を読み、さらに他の本を読むときの参考にしていただきたい。
 先に書いたように、本書は、オガサワラで死んだように生きていたヨヨギ・ケンが、ホープレス出身の作家ヨシオ・石丸の依頼にこたえて、ふたたび東京に戻ってくる話である。久々の東京は噓のようにれいになっていたが、どこか噓くさい。その典型が東京湾の人工島ムービー・アイランド。原発のある島だが、同時に映画の撮影スタジオが12もあり、スターたちがかつする島でもある。原発を守る原警と、映画関連施設を守るスタジオ・セキュリティ(SS)が、この夢の島の警備にあたっている。テロと犯罪を完全排除するために銃は持ち込めない治安優先の島でもあるのだ。
 この島でいったいどんな物語が始まっていくのか、その詳細はここに書かない。書くことが出来るのは、血湧き肉躍る物語が始まる、ということだけだ。秀逸な人物造形を積み重ね、先の読めないプロットをたたみかけ、疾走感あふれる物語が展開する、ということだけだ。『新宿鮫』しか知らない読者に、あるいはその『新宿鮫』が気になっているんだけど、もう何巻も続いているシリーズだし、いまから読むのはちょっとなあ、でも他に何を読んでいいのかわからない──という読者に、この一言を添えて本書をすすめたい。大沢在昌の世界にようこそ。

大沢在昌影絵の騎士』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321811000155/


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