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転落死した女性とその息子。殺したのは夫なのか? 亡くなった日に女性が出版社へ送っていた手記。孫から祖母へのメール、被告人本人による陳述書……。一人語りという括りで、様々な告白が連なる。序盤は固い書き口・語り口で、それが徐々に解れていき、告白者本人も気づかない“ナマの心理”が、うっかり見えてくる様子が興味深い。
警察での事情聴取や対弁護士との会話など、慣れない場では殆どの人が緊張し、自分は信用に足る人間であると演じるはずだ。その仮面の隙間から漏れる素肌の発言。弁護士業を60歳まで務め上げた作者の経歴が、リアルな陰影を強める。
どの人物の告白にも真実味があり、自分の役割を懸命に生きてきた人物と見える。その整然とした流れに逆行して募った言い知れぬ不安が、結末で一気に腑に落ちる。
弁護士という職業の矜持に盛られた、人生の苦味と幸福の甘みの複雑な余韻が、本作のデザートである。
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