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特集

【インタビュー】新たな「ひらく家」の情報公開『奇妙な家についての注意喚起』の著者&担当編集者が語る

2025年7月2日に発売され、即重版となった夢見里龍氏のホラー小説『奇妙な家についての注意喚起』。〈全ての部屋に排水口がある家〉〈ドアノブが二つ付いた家〉など、著者がWEB上で見つけた「奇妙な構造をした家の体験談」を小説の形に書きおこした本作。記事担当者であるカドブン編集部員も発売直後に読了し、あまりのリアリティにぞっとしてしまった。現在流行中のモキュメンタリーホラー作品として、非常によくできていると思っていたのだが……。この度、担当編集者の若倉氏から、編集部に届いた読者の手紙について話したいことがあるとの相談を受け、急遽インタビューを実施することに。著者の夢見里氏とともにお話を伺った。

新たな「ひらく家」の情報公開
『奇妙な家についての注意喚起』の著者&担当編集者が語る


――まずは重版おめでとうございます。

夢見里龍氏:編集部の皆様と読者様に心から御礼申しあげます。よいご縁があったようで嬉しいかぎりです。
 
担当編集若倉:念願の重版が達成できて、私も大変嬉しく思っています。原稿を預かった時にこれは絶対に重版させないと、と思ったので、ええ。


――本書は全国各地に散らばる奇妙な家について読者に注意を促すべく、刊行に踏み切ったという体裁になっていますが……。

夢見里:はい、左様でございます。私の調べによると奇妙な家は日本全国各地にあります。知らず知らずのうちに奇妙な家に暮らしてしまっている御方が大勢おられるのではないかと思い、注意喚起をさせていただきました。実際に発売から程なくして、読者様から一通のお手紙をいただいたんですよ。

若倉:そうなんです。編集部宛てにファンレターというかたちで「我が家がまさに奇妙な家かもしれない」とご相談がきて、すぐ夢見里さんに転送いたしました。


――そのお手紙の内容について伺うことは可能でしょうか?

夢見里:はい。許諾はすでにいただいておりますし、読者様からも是非とも拡散していただきたいとご要望がありましたので、この場を借りてお話しさせていただきますね。
その読者様の家は五年前に購入した中古物件なのですが、中学生になる息子さんの寝室の床部分に奇妙なものがあるそうです。


――奇妙なもの、ですか?

夢見里:床に開閉できない窓が設けられているのだとか。嵌め殺しの窓ですね。大きさは五十センチほどの正方形。


――壁のかなり低位置、床ギリギリに設けられた「地窓」ということですか?

夢見里:あ、いえ、違います。床に窓枠があって、強化ガラスがはめこまれているのだそうです。


――それは奇妙ですね。あまり想像できない設計です。

夢見里:そうですよね。水族館とかでは、床をガラス張りにしたアクアリウムとかがあって素敵なんですけど。普通の家ですから。窓の外は床下ですので、当然真っ暗で採光効果もなく、読者様も「なんでこんなものがあるんだろう」と思っていたようです。窓にかぶせるようにベッドを設置していたのもあって、すっかり忘れていたそうですが、ベッドを解体した時期に丁度本書を読み、奇妙な窓が気になってしかたがなくなったと。

若倉:確か、夢見里さんから直接手紙で返信なさったんですよね。

夢見里:奇妙な家がひらくのにはいくつか条件があります。そのひとつが家庭不和、家族という箱の破綻です。住んでいたらかならず、ひらくとはかぎりません。なのでご安心くださいとご連絡しました。そうしたら後日、編集部宛てに再度お手紙があって。

(夢見里氏は言いにくそうに言葉を詰まらせる。若倉氏が話を引き継いだ)

若倉:……息子さん、一年前に遺書を残して失踪されたそうです。雑誌などでモデルをされていたそうですが、ご両親から過度な期待を受けて、かなりのストレスを抱えられていたとか。失踪する三週間程前から明かりもつけずに寝室にひきこもっておられたそうで、遺書にも「フラッシュのない暗いところにいきたい」と。失踪から一年が経ち、使われなくなった部屋を整理するため、ベッドも解体して処分されたそうで。


――つまり「ひらく」条件はすでに満たしてしまっていたということですか?

夢見里:残念ながら、そうなります。そのあたりから、奇妙な窓に異変が起き始めていて。床の窓から音がするんだそうです。ざっ、ざっ、ざっ、と誰かが土を踏んで歩きまわっているような音が。


――え、でも、床下ですよね。

夢見里:そうなんです。変ですよね。読者様が床下にもぐってみたら、窓はあったそうなんですが……真っ暗、だったそうです。あ、もちろん、寝室の明かりはつけておられたそうですよ? なのに真っ暗って。窓の外側と内側がつながっていないってことじゃないですか。


――気持ち悪いですね。

夢見里:「どうしたらいいんでしょう」とありましたので、折をみて編集部を通じてその「奇妙な家」の話を拡散させていただきたいとご連絡しました。拡散すれば、怪異との縁は弱まるはずなので。読者様は安堵した様子でした。

若倉:ですが、それから日を置かずにまたお手紙がきて、大変乱れた筆跡で「大変なことになっている」と。実際のお手紙も持って参りました。ご確認いただけますか?


――え、実際の手紙をご持参いただいているんですか?

記事担当者が、若倉氏から手紙を渡される。


手紙の実物を撮影


――なんですか、これ。

若倉:ですから、読者からの手紙にして新たな奇妙な家の体験談です。ほんとうに異常ですよね。床下の高さは大抵が四十五センチ前後ですから、人が歩けるはずないんですよ。

夢見里:これはかなり危険な状況だと思いまして。お手紙にお電話番号が添えてありましたので、編集部からご連絡していただくことになりました……。
若倉様、その後ご連絡はついたんでしょうか?

若倉:それなんですが……お電話したところ、本人と思しき女性とつながったのですが、ノイズが酷くて。ざっ、ざっ、ざっという音に遮られて、まともに会話もできない状態でした。彼女は電話しているあいだもずっと、窓に張りついておられるみたいで、「通った」「通った」と連呼されていて、ひっきりなしに人が通過している様子でした。そしたら急に「□□」と男性の名前をつぶやかれて。

夢見里:それって、もしかして、息子さんが通ったんじゃないですか?

若倉:わかりません。「大丈夫ですか?」と声をかけたら、しばらく黙ってから、異常に落ちついた声で、「大丈夫ですよ」「もうひらきましたので」と。それが最後でした。気づいたら通話終了になっていました。

夢見里:そう、でしたか。

若倉:こうして公開することで、収束すればいいんですが。是非とも直筆のお手紙もサイトに掲載していただければと思います。


――了解しました。あの、これって、モキュメンタリーですよね? 実話ではなく……。

夢見里:ご想像におまかせいたします。……ただ、そうですね、実際読書中に音を聴いたというご報告が読者様から結構寄せられているんですよね……。思ったとおり、拡散されているんだと思います、……ご縁が。

若倉:こちらを読んでくださった皆様にも良いご縁がありますように。


――釈然としないといいますか、納得できないところがいくつかあるのですが……。夢見里龍さん、若倉さん、インタビューにご回答いただきましてありがとうございました。

夢見里:こちらこそ、ありがとうございました。今後とも《奇妙な家についての注意喚起》をよろしくお願いいたします。

後日報告。インタビュー収録後、記事担当者の自宅で、誰かが土を踏んで歩きまわっているような異音が聴こえるようになる。うちに奇妙な窓なんかないのに、何処からと思ったらパソコンからだった。そういえば、ウィンドウも窓だ。何処にもつながっていないが、何処にでもつながる窓。
本書はモキュメンタリー。
体験談も含め、作家による創作ではなかったのか……?
わからない。ただあの手紙に書かれた「ざっ、ざっ、ざっ」という文字が頭から離れない。

皆様も窓から聴こえる奇妙な音にはくれぐれもご注意ください。


編集部は引き続き、「奇妙な家」についての警戒を呼びかけつつ、
各地に散らばる「奇妙な家」の情報を募集しております。

このインタビューはフィクションです。

作品紹介



書 名:奇妙な家についての注意喚起
著 者:夢見里 龍
発売日:2025年07月02日

■注意■ご家族の様子に異常を感じたら、読書をやめてください。
この本は、作家である私、夢見里龍が収集した「奇妙な構造をした家の体験談」を小説の形に書きおこしたものです。発端は小説投稿サイト上のエッセイでした。「生活をするのに不便はない。欠陥住宅というわけでもない。でも、明らかに奇妙な家なんです」それは〈排水口がすべての部屋にある家〉に住む主婦の投稿でした。以来、私はネットで見つけた奇妙な家群を「ひらく家」と名づけ、親交の深かった読者のヤモリさんと考察を語らうようになりました。ネット上の記述なので、全てはフィクション。そう考えていたんです。でも、ある体験をして気づきました。これらの家は本当に存在すると。私は本書を通じてみなさんに警戒を促します。あなたは今、「ひらく家」に住んでいませんか?

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