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レビュー

ポスト平成のための『資本論』入門 『マルクス 資本論 シリーズ世界の思想』

 角川ソフィア文庫には、「ビギナーズ・クラシックス」という古典入門のシリーズがある。日本の古典中国の古典近代文学日本の思想というカテゴリがあり、多くは、原文の抜粋とその現代語訳や解説から構成されている。原文を味わいながら、古典に入門できるのがこのシリーズの魅力となっている。
 二年前の二〇一六年の夏、懇意にしている編集者のAさんとその上司であるTさんと打ち合わせをした折、このビギナーズ・クラシックスのような体裁で、西洋思想のシリーズを刊行したいという相談を持ちかけられた。聞けば、これまでも何度か、企画が持ち上がったことはあるものの、本格始動には至らなかったそうだ。
 話を聞いて、ぜひとも実現したいと思った。僕は、人文系界隈で仕事をしているフリーランスのライター・編集者にすぎないけれども、西洋哲学の入門書と原著とのあいだにある溝がつねづね気になっていたからだ。
 入門書はじつに丁寧に、哲学の古典について解説をしている。でも、それでわかったつもりになって原著に手を伸ばすと、たいてい面食らうことになる。その歯ごたえがあまりに違いすぎるのだ。
 その点、ビギナーズ・クラシックスのように、原著からの抜粋と解説という構成ならば、適度な歯ごたえがあるので、原著を読みこなすための入門にはうってつけだ。いままで難解だと敬遠されてきたカントの『純粋理性批判』やヘーゲルの『精神現象学』に挑戦する人も増えるかもしれない。
 打ち合わせ後、とりあげる古典の選定や著者への執筆依頼を経て、ようやくこの七月から、角川選書の「シリーズ世界の思想」の刊行が開始するはこびとなった。
 その第一弾が、マルクスの『資本論』である。編集として関わっている人間が褒めたところで、内輪びいきと思われてしまうかもしれないが、それでもあえて言いたい。佐々木隆治さんの『資本論』入門はすごいぞ、と。
『資本論』第一巻の第一篇「商品と貨幣」から第七篇「資本の蓄積過程」までの全二五章にわたり、読解のキモとなる箇所を抜粋し、難解な部分は徹底的に噛み砕き、随所に解釈の勘所まで指し示してくれる。さながら名物講義を聴講しているかのような感覚で、挫折率がきわめて高いといわれる『資本論』が解説されていく。
 あわせて、「物象化」や「物質代謝」など、これまで佐々木さんが力を入れて研究されてきたマルクスの重要概念を説明するくだりにも注目してほしい。そこには、佐々木さんならではの読みの筋がしっかりと刻まれている。私も佐々木さんの読みから、マルクスが「現代」の思想家であることをあらためて思い知らされた。
 本書終盤の解説で、佐々木さんは次のように述べている。

現代の資本主義システムは、マルクスの時代とは比べものにならないような規模まで拡大し、生産力の発展もすさまじい水準に到達しています。にもかかわらず、というよりむしろ、そのように発展したからこそ、マルクスがここで描き出した資本主義と生産力の矛盾、資本主義と科学との矛盾、資本主義と人間との矛盾、資本主義と物質代謝の矛盾が、世界レベルでの極端な格差の拡大、貧困の拡大、世界中で周期的に発生する金融危機、地球規模での気候変動などとして、未曾有の規模で私たちの眼前に現れてきているのです

 ここに描かれている矛盾や危機の数々は、東西冷戦の終結とともに始まった平成の時代に入って次々と顕在化していった。これは、ソ連崩壊と一緒くたに『資本論』を捨ててしまったツケが回ってきたせいじゃなかろうか。奇しくも、平成の終幕が近い二〇一八年は、マルクス生誕二〇〇年にあたる。そろそろマルクス『資本論』を呼び戻す頃合いだろう。


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