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連載

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。 vol.1

【『角川新字源』連載第1回】「新字源」全面改訂! ~でも「改訂」ってなに?

10年かかりました。『角川新字源』大改訂。

突然ですが、みなさんは漢和辞典を使ったことがありますか?
「家にない」
「引き方がわからない」
「国語辞典はおもしろいけれど、漢和辞典は難しくてつまんない」
……というのが、おおよそのご意見ではないでしょうか。

『舟を編む』や『新解さんの謎』のヒットによって、メジャーの地位を獲得した国語辞典。その一方で、漢和辞典はいまいちマイナーかもしれません。
しかーし! 近年世界では漢字がブームとなり、誰もがスマートフォンやパソコンを使うようになった結果、歴史上、日本人がいま一番漢字に触れているということに、お気づきでしょうか?

いやいや、触れてはいるけど意味はわからない? なんとなく使っているけれど、正しい選び方がわからない? 漢字に対して、とっつきにくいという印象をもつあなたの強い味方が、実は漢和辞典なのです。

この秋、『角川新字源』※01の改訂新版を刊行することとなりました。
『新字源』は初版刊行からおよそ半世紀、累計570万部と、日本でもっとも使われている漢和辞典。今回の場合は約10年をかけた全面改訂の一大プロジェクトです。

せっかくですから、奥の深い漢和辞典の世界について、いろいろお話ししたいと思います。

[話し手]坂倉 『新字源』に関わる編集者。辞書編集部のなかでは未だに一番の若手。趣味はロードバイクだが、体重増加で、一番お気に入りの自転車には乗れない今日この頃。好きな言葉は「禽困覆車」。

[聞き手]松谷 書籍をPRするパブリシスト。普段は隠しているがバリバリの大阪人で、気がゆるむと大阪のおばちゃんの顔をのぞかせる。もちろん自宅にはタコ焼き器を標準装備。好きな言葉は「食欲旺盛」。

【Q,漢和辞典の改訂ってなぜ必要なの? 何が変わるの?】

松谷: ねえねえ、まず謝らないとあかんことが。このフロアで働いてもう5年経つけれど、うちの編集局に辞典の編集者がいるって、つい先日まで気づいてへんかったです。「自販機の前で会うあの人たち、誰やろな」って思ってました。

坂倉: ひ、ひどい!?

松谷: 坂倉くんは、そこの一員よね。いつから辞典の編集者になったの?

坂倉: うーん、7年くらい前からですね……。もともとはエンタメ系の雑誌を作っていましたけれど、学生時代に使っていた『新字源』の改訂をやっていると聞いて、関わりたくて関わりたくて、ついには辞書編集部への異動を志願しました。

松谷: で、今は『新字源』の編集に関わってる、と。

坂倉: “今は”というか、辞書の編集者になってから、“ずっと”ですけどね。

松谷: !? “ずっと”って、どういうこと?

坂倉: つまり、『新字源』の改訂は僕が辞書編集部に入る前からはじまっていて、それが今年の秋、ようやく完成するというわけで……。

松谷: え、それって何年間……?

坂倉: 約10年ですね。

松谷: えっ?

坂倉: 10年です。

松谷: ゑ??

坂倉: 10年です! って、なんで聞こえないんですか!

松谷: 内容の修正だけやのに、10年もかかるの!? というか、そもそも漢和辞典って改訂する必要ってあるの? 国語辞典とちがって、漢字は変化している印象がないんやけど。

坂倉: いやいやいや、今回の『新字源』の改訂、けっこうすごいことなんですよ。新版は23年ぶりのお目見えですが、そのあいだ、漢字の世界にはいろいろなことがありました。ワープロやパソコンやスマートフォンの普及で、みんながどんどん漢字を使うようになったり、インターネットのおかげでそれがさらに加速したり、名前に使える漢字が増えたり、2010年には常用漢字表の改定もありました。研究の世界でも新しい考えが――、

松谷: わかった、坂倉くんの想いはよくわかった! 落ち着いて!

坂倉: と、とにかく、漢字にもいろいろ変化があるんです。普段、それほど実感はないかもしれませんが、コンピューターのおかげで使える漢字の数が増えたのは好例です。

松谷: そうなんだ……。

【Q,改訂新版でどこが進化したの?】

松谷: で、今回の改訂では、どこが変わるの?

坂倉: たくさんあります! たとえば、収録されている漢字が大きく増えました。情報化時代にふさわしい漢和辞典になったと言えるでしょうし、それに、レイアウトが大きく進化して、とても見やすく&調べやすくなりました。※02

松谷: 変わらない(変えない)ところもあるの?

坂倉: もちろんありますよ。『新字源』のもともとの良さです。うーん、そうですね。辞書には、実はひとつひとつ個性があるんです。例として、ふたつの国語辞典で「自由」という言葉を引いてみました。

人間として自分で責任をもって考えたり味わったりする思想と精神の働き。他から何らかの条件をつけられることがないこと。社会的には、契約を結び、財産をもち、企業をおこし、集会や結社をもつことに何の条件もないこと。ただし、人間には絶対的な自由はない。「言論の―」「―闊達」「―奔放」

〔必携国語辞典〕

①心のままにすること。束縛や障害がなく、思うとおりにできること。②わがまま。気まま。③〔法〕法律の範囲内での随意の行為。

〔新国語辞典〕

松谷: あれ、同じ言葉なのに、意外と解説がちがうものだね。

坂倉: どちらもKADOKAWAの国語辞典ですが、方針によって、解説の仕方や掲載されている言葉自体がちがっていたりするんです。漢和辞典も同じで、編者※03の方針(編集方針)によっていろんな個性があります。 『新字源』の場合は、 「漢文で書かれた中国の歴史的な資料をきちんと調べて解説する」 「その字の“なりたち”をきちんと説明する」 「親字と異体字をわかりやすく整理する」 「その字を使った熟語をたくさん載せる」 ……などなどの方針がありました。

松谷: あ! そのおかげでこんなに大ヒットしたんだ。

坂倉: そうなんです! だから今回の『新字源』でも、その良さをできるだけ受け継ぎつつ、今の時代に合わせて作りなおそうということになりました。

松谷: なるほどね! だからこその「改訂新版」なんやね。



>>第2回「漢和辞典は漢字辞典とどうちがう?」




【注釈】

※01
 漢和辞典の名著『角川新字源』のこと。小川環樹、西田太一郎、赤塚忠という当時一流の研究者によって編まれた小型辞書。初版発行は1968年。



※02
 詳しくは今後の連載で。



※03
 ふつう、本を書いた人のことを「著者」といいますが、辞書の場合は執筆以外にも、方針を立てて、その方針どおりに言葉を集めたり、整理したりするため、「編者(編纂者)」とも呼ばれます。


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