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試し読み

<『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念>八雲のせいではない。でも――。『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み#7

『心霊探偵八雲11 魂の代償』文庫発売記念!!
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』全11回大ボリューム試し読み

最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』文庫発売日はいつ? 待ちきれないあなたへ!
『心霊探偵八雲11 魂の代償』で起きた事件はまだ終わっていない――。

累計700万部突破の怪物シリーズ「心霊探偵八雲」。『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)の発売を記念し、続きとなる『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の増量試し読み版を11日間連続にて配信! 
一足先に続きを味わい、12巻を楽しみにお待ちください。

「心霊探偵八雲」シリーズ最終巻『心霊探偵八雲12 魂の深淵』2022年5月角川文庫より発売予定

角川文庫にて、本編の完結である『心霊探偵八雲12 魂の深淵』の刊行が、2022年5月に迫ります。
『心霊探偵八雲12 魂の深淵』と『心霊探偵八雲 COMPLETE FILES』、2022年5月に文庫版として発売です!

『心霊探偵八雲12 魂の深淵』試し読み #7

     五

「まだ、八雲君とは連絡が取れないの?」
 後藤に、そう訊ねてきたのは、妻の敦子だった。
 花束を持った奈緒の手を引きながら歩くその顔は、いつもより疲れているように見える。
 疲れているのは、彼女だけではない。
 耳に障害を抱えながらも、いつも天真爛漫に振る舞っていた奈緒もまた、酷く落ち込んだ顔をしている。
 それほどまでに、晴香の事件は、後藤たちに大きな衝撃だった。
「ああ」
 後藤は、ため息交じりに答える。
 あの日に病院を立ち去ってから、八雲とは連絡が取れなくなっている。色々と伝えたいことがあるのだが、いくら電話しても応答がない。
 試しに、何度か〈映画研究同好会〉の部屋にも顔を出してみたのだが、空振りに終わっている。
 部屋に住んでいる痕跡はあるので、タイミングが悪かったというのもあるだろうが、これだけ会えないと、意図的に避けられているとしか思えない。
 それほどまでに、あの事件で八雲が負った傷は深い。
 それに──。
 晴香の父である一裕に浴びせられた言葉も、大きなダメージになっているはずだ。
 ──金輪際、娘の前に姿を現さないで欲しい。
 もし、一裕が怒りに任せて怒鳴ったのだとしたら、後藤も言い返すことができた。だが、あの言葉に込められていたのは、親としての切実な願いだった。
 後藤は、俯き加減に歩く奈緒に目を向けた。
 血は繋がっていないが、後藤にとって奈緒は紛れもなく娘だ。何に代えても、守りたいと思う存在だし、将来は幸せになって欲しいと願っている。
 奈緒が幸せに暮らせるなら、自分が悪者になってでも、危険なことから遠ざけたいと思うのが親心というものだ。
 おそらく、一裕も、八雲が全て悪い訳じゃないことは分かっているはずだ。
 だが、娘を危険な目に遭わせた一因が、八雲にあることも事実だ。愛する娘を、そうしたものから遠ざけたいと願うのは、当然のことだ。
 しかも、晴香の双子の姉である綾香は、交通事故ですでに他界している。娘の死を二回見るなど、想像しただけで胸が張り裂けそうになる。
 改めて、元凶となった七瀬美雪に対する怒りが、沸々と沸き上がってきた。
 警察は七瀬美雪の行方を追っているようだが、正直、望みは薄いだろう。あの女の狡猾さは後藤自身、骨身に染みている。
 七瀬美雪は、これで終わるような女ではない。警察の捜査網をかいくぐりながら、虎視眈々と次の機会を狙っているはずだ。
 だからこそ、後藤も、七瀬美雪を捕まえようと考えたが、手掛かりがゼロの状態では、どうすることもできない。
 ただ、悶々とした日々を過ごすことしかできない現状が、腹立たしい。
 病院のエントランスを潜ったところで、恵子とばったり出会した。
「お見舞いにいらしてくれたんですね」
 嬉しそうに笑みを浮かべた恵子だったが、その顔から疲労と悲壮が消えることはなかった。
「はい。会えないと言ったのですが、この子がどうしても──と聞かなくて」
 後藤は、奈緒に目を向けながら言う。
 晴香は一命を取り留めたものの、現在に至るも意識が回復せず、面会謝絶の状態だ。病院に行ったところで、顔を見ることすらできない。そのことを説明したのだが、それでも奈緒が会いたいといって聞かなかった。
 そこで、行くだけ行ってみようということになったのだ。
「確か、奈緒ちゃんでしたよね。晴香から、話は聞いています。来てくれて、ありがとうね」
 恵子は、屈んで奈緒の顔を覗き込み、頭をそっと撫でた。
 奈緒のことまで知っていることに驚いたが、それだけ晴香が自分たちのことを、家族に話していたということだろう。
「すみません。せっかくお越し頂いたんですが、まだ面会ができない状態なんです」
 恵子が、申し訳なさそうに言うと、奈緒が持っていた花を差し出した。
「これをくれるの? ありがとう。きっと晴香も喜ぶわ」
 花を受け取り、立ち上がった恵子は、改めて後藤に向かって頭を下げ、「先日は、大変失礼を致しました」と詫びの言葉を並べる。
「いえ。別に謝られるようなことは……」
「夫も、八雲君が悪いわけじゃないことは、分かっていると思うんです」
 ようやく、恵子が何について謝罪しているのかが分かった。
 後藤というより、あの夜、追い返してしまった八雲に対するもののようだ。
「大丈夫です。あいつも、分かっていると思いますから」
 後藤は、そう口にしてみたものの、自分でも嘘臭いと思ってしまった。
 おそらく八雲は、自分の責任だと思い込んでいる。一裕に言われるまでもなく、八雲自身がそう痛感しているはずだ。
 だが、そのことを告げる気にはなれなかった。
「回復したら、真っ先にあの娘を八雲君に会わせてあげたい。きっと、そう望んでいるでしょうから──」
 後藤も、恵子と同じ気持ちだった。
 だが、きっと八雲は会いに来ないだろう。この先、晴香が意識を取り戻すことができても、二度と会わない。そういう覚悟が、八雲の背中からは感じられた。
 せっかく紡いだ絆の糸を、自らの意思で断ち切ってしまったのだ。
 最後に見た八雲の顔が脳裏に蘇る。それは、次第にかたちを変え、少年のときの八雲の姿と重なった。
 あのときの八雲は、自らの母親に殺されそうになりながら、それを受容してしまっていた。
 まるで、生きることを諦めてしまったかのように。
 ──駄目だ。
「それで、晴香ちゃんの容態は?」
 後藤は気持ちを切り替えるようにして訊ねたものの、心が激しくかき乱された。
 晴香の容態は知りたいが、その結果が望むものではなかったとしたら──そう考えると、気が気ではなかった。
「まだ、意識は戻っていないんですけど、脳は正常に機能しているそうです。お医者さんの話だと、かなり快方に向かっているということです。もちろん、予断は許さない状態ではありますけど……」
「そうですか! それは良かった!」
 心の底からほっとした。
 問題は、まだまだ山積みではあるが、晴香が回復してくれたなら、幾らかは救われる。
「本当に、良かった。奈緒、晴香ちゃん、もうすぐ元気になるって」
 敦子が潤んだ笑みを浮かべながら声をかけると、奈緒が空気を察したらしく、大きく飛び跳ねた。
 恵子も、笑みは浮かべているものの、やはり目を覚まさないことには安心できないのだろう。表情に不安が張り付いている。
 そんな恵子に励ましの声をかけようとしたところで、携帯電話が鳴った。
 ──もしかしたら八雲かもしれない。
 後藤は病院のエントランスを出てから、携帯電話の通話ボタンを押す。
「おい八雲! どうして電話に出ねぇんだ!」
〈相手を確かめてから喋れ。馬鹿者が〉
 通話口から聞こえてきたのは、英心の声だった。
 一心の師匠筋にあたる僧侶で、齢八十になろうとしているにもかかわらず、がっちりした体格で、矍鑠としている。
 八雲に負けず劣らず口が立ち、厄介事を呼び寄せる、疫病神のような男だ。この男に関わると、ろくなことがない。
「うるせぇ。今、忙しいんだ。切るぞ」
〈急くな。阿呆が〉
「あん?」
〈お前さんに、少し頼みたいことがある〉
 英心がこういう言い方をするということは、また心霊事件を持ち込もうという腹なのだろう。
 冗談ではない。今、この状況で、そんなものを相手にしている時間はない。
「忙しいって言ってんだろ。もうろく爺が」
〈そんな口を利いていいのか?〉
「何?」
〈お前さんたちが捜している、七瀬美雪という女に関係することなんだがな……〉

つづく
(本試し読みは『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(四六判単行本)を底本にしました)

10/21発売!『心霊探偵八雲11 魂の代償』(角川文庫)



心霊探偵八雲11 魂の代償
著者 神永 学
定価: 880円(本体800円+税)
発売日:2021年10月21日

宿敵・七瀬美雪に晴香が拉致!?  大人気シリーズ、物語は最高潮へ!
八雲の宿敵・七瀬美雪の手により、晴香が拉致されてしまう。晴香の居場所を探す鍵は、四つの心霊現象のどこかに隠されているというのだが……タイムリミットが迫る中、八雲は重大な決断を迫られる。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322106000375/
amazonページはこちら

ついに完結!!『心霊探偵八雲12 魂の深淵』(角川書店)



心霊探偵八雲12 魂の深淵
著者 神永 学 イラスト 加藤 アカツキ
定価: 1,540円(本体1,400円+税)
発売日:2020年06月25日

大人気「心霊探偵八雲」シリーズ、ついに完結!!
シリーズ累計700万部突破、16年間に渡って読者に愛されてきた「心霊探偵八雲」。そのフィナーレを飾る、待望の完結作がついに発売!!堂々たるラストを見逃すな!!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000191/
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「心霊探偵八雲」あらすじ、シリーズ全巻はこちら!
【神永学シリーズ特設サイト】



「心霊探偵八雲」シリーズ詳細https://promo.kadokawa.co.jp/kaminagamanabu/yakumo/


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