大ヒット『鬼の花嫁』のクレハが贈る、新たな和風恋愛ファンタジー!
2021年12月21日発売の、注目の和風恋愛ファンタジー『結界師の一輪華』。
物語の舞台は、遥か昔から5つの柱石によって密かに外敵から守られてきた島国・日本。代々柱石を結界で護ってきた術者の家の分家筋に生まれた娘・
見捨てられた少女が本当の自分を取り戻していく、ときめきのシンデレラ・ストーリー。今年最後に絶対読んでほしいイチオシ新作、特別試し読みをお送りします。
『結界師の一輪華』試し読み#1
プロローグ
日本にはごく一部の者だけが知ることを許された国家機密があった。
この島国は
もし、五つの内一つでも失われたら、日本は災厄に見舞われてしまうだろう。
そんな命綱とも言える柱石は、それぞれ五つの家によって護られていた。
この五つの家は不思議な力により、その柱石に結界を張り、遥か昔よりこの国を外敵から護ってきた。
外敵には様々なものがいる。
まずは人間。しかし人間ならば普通の人間にも対処は可能だ。
けれど、柱石を狙ってくる者には人間ではない、人ならざる者達も含まれていた。
それらの者達を、術者は
妖魔は柱石の持つ、国すら支える大きな力を得んとし、常に柱石を狙っているのだ。
そんな者達から護るために柱石に結界を張り、人ならざる悪意ある者を封じ、または滅ぼすのが、五家とその分家に課せられた使命である。
これはほんのひと握りの者しか知らない世のお話。
そして、これはそんな術者の家系に生まれてしまったとある少女のお話。
一 章
柱石を護る一ノ宮の分家の一つである
そこでは縁者を呼んでそれは盛大なパーティーが行われていた。
その日は双子である
それが華の転機となった日だった。
華も葉月の隣に座ってはいたが、両親や招待客が華ではなく双子の姉の葉月の誕生日を祝いに来ていることはちゃんと理解している。
ちょっとあからさますぎやしないかと思ったが、華も今日で十五歳、幼い頃からこの扱いの差は慣れっこだ。
家族への見切りをつけたあの日から、華の心はこれ以上ないほどに穏やかだ。
それでも両親からは葉月との力の差について、ちょくちょく嫌みのような言葉の攻撃を受けるが、殊勝な顔をしつつ内心ではあっかんべーと舌を出してやりすごしていた。
この数年でかなり性格が悪くなったことを自覚している。
葉月ともほぼ会話のない状態が続いていた。
今日とて顔を合わせるのは数日ぶり。
ましてやこんなに近くに座ることすらいつ以来だろうか。
少し寂しく思う気持ちと、もう昔とは違うというひどく冷淡な気持ちが混在していた。
葉月に目を向けると、相変わらずの人気者で、太陽のような明るい笑顔を皆に振りまいていたが、その一方で葉月の残りカスの評価を受ける華は、よくやるなぁと冷めた目で感心しつつジュースを飲んでいた。
周囲の期待を受ける葉月の評価は華とは正反対で、明るく優秀で人当たりのいい完璧な人。
そんな葉月に昔は憧れていたが、最近になって分かってきた。
あれは見せかけだけのものだと。
双子だからこそ気付いたのかもしれない。
あの葉月の表情は嘘に
人に好かれる笑顔。どうすれば人によく見られ、どんな言葉をかければ優秀ないい子と評されるか、葉月は計算して演じている。
昔はもっと自然な笑顔だったはずなのに……。
変わってしまったのは華だけではなく葉月もということなのかもしれない。
さっさとこの葉月のご機嫌伺いのための誕生日パーティーが終わらないかなと思っていた華に、それは唐突に起こった。
華は自分を透明人間のように扱う周囲を気にすることなく、皿の上のケーキでなんの感動もない誕生日を実感していた。
特別なにかをしたわけではない。本当にただケーキを食べていただけなのだ。ケーキの前にから揚げを食べ過ぎた気はするが、体調も良好で普段から丈夫だけが取り柄である。
それなのに急に体が熱を帯びたようにカッと熱くなる。前触れもない突然のことに華の手が止まった。
内にあった熱が外に放出されていくような感覚の後、まるで卵の殻が剥けるように、パリパリと華の中のなにかが
***
柱石を護る五つの術者の家の一つ、一ノ宮。
その一ノ宮の分家の一瀬家は昔こそ分家内での発言力も強く、一ノ宮の当主からも一目置かれた存在だったが、強い術者が生まれなくなって久しい。
それに従い分家内での発言力も地位も下がっていった。
そんな一瀬家には女児の双子がいた。
その妹である華は、常に優秀な姉の葉月と比べられる毎日だった。
双子であり、容姿はよく似た二人だが、術者としての能力は天と地ほどの差があるぐらい葉月が突出していたので、華が比べられるのはどうしようもないことであった。
葉月は本家である一ノ宮の術者に匹敵するほどの能力を早くから開花させており、両親や周囲の期待は自然と高まる。
特に父親は今の一瀬家の立ち位置に不満を持っており、いつか返り咲いて見せると強い野心を抱いていた。
それにより葉月へ異常なまでに大きな期待を寄せていったのだ。
そして、葉月とは違い、いつまでも術者としての能力が低い自分を見ては両親が溜息を吐くことに、華は小さな頃から胸を痛めていた。
双子なのだから、自分も葉月のようになれると信じて華は必死で勉強した。
術者としての修行だってした。
けれど現実は残酷で、華の力が強まることはなく、いつも葉月の添え物、姉の残りカスと言われ続けた。
葉月はその
能力も高く、性格も明るく人
双子なのだから容姿は似ており、華も美しいことは間違いないのだが、葉月と比べられると見劣りしてしまう地味で幼げな顔立ち。
葉月のふんわりと色素の薄い髪と、華の真っ黒な直毛が与える印象でも違うだろう。
性格もあまり社交的な方ではなく、目立つのが好きではない。
だから人々に囲まれている葉月を遠くから見ては、華は
周囲から比べられることが多い故に、華自身も葉月と自分を比べてしまい、一人勝手に落ち込んでしまう。
だが姉妹仲は決して悪くはなかったと思っている。小学校低学年ぐらいの年の頃は……。
葉月へ一心に期待を寄せる両親はおのずと華への関心が低かったが、葉月は落ち込む華をよく慰めてくれていた。
そんな優しい片割れは華にとっても自慢の姉だったのだ。
まだこの頃は二人もよく話をしていた。
学校のことや友人のこと、そしてお互いの不平不満なんかを。
葉月は、周囲からの期待が嬉しいと同時に大変だとよくもらしていた。
それは期待されない華からしたらなんと
普通ならこんなにも優遇される葉月になにかしらの負の感情が芽生えそうなものだったが、不思議と姉への
だからこそ、双子は仲よくやれていたのかもしれない。
だが、決定的な差が生まれてしまう。
それは十歳の時、初めて式神を作り出す日のこと。
式神を作り出すことは術者となるための最初の試験と言ってもいい。それができた者が、術者の見習いとして一族に迎え入れられるのだ。
それ故に術者の家にとって十歳のこの日は特別な日として、大々的に親族を呼んで祝うのだ。
家の広い庭には地面に
その前で緊張した面持ちでいる華と葉月。そしてそんな二人をたくさんの大人達が眺めている。
式神とは、術者の力を注ぎ込み生み出す、術者の手足となる存在で自分の分身とも言える。
術者の能力の高さにより生み出される式神の姿や力の強さも変わってくる。
強い式神は人の言葉を話し意思疎通を図ることができる。
華は、味方と言える存在の少ないこの家で、自分の、自分だけの裏切らない友人を得られることをことのほか喜んでいた。
そして、そんな華が作り出した式神は、
虹色の羽を持ったとても美しい蝶だったが、虫は最下位の弱い式神と言われていた。
華は初めての式神に喜んだものの、最も位の低い弱い式神しか作れなかった華を見て、最後に残っていた一
華は今度も両親の期待には応えられなかったのだ。
落ち込む華の横では、葉月が式神を作り出していた。
それは式神の中では最高位とされる人型の式神。
周囲はにわかに沸き立った。
華や葉月と同じ十歳ぐらいの男の子の姿をした式神であったが、人型の式神を生み出すなどということは、本家の術者でも難しいことなのだ。
二人には兄の
だから両親や兄が葉月のことを褒め
けれど……。
忘れ去られたようにぽつんと取り残された華は寂しげで、そんな華にひらひらと虹色の蝶が寄り添う。
「慰めてくれてるの?」
葉月の作ったものとは違い言葉も話せない華の式神。
会話なんてものはできないけれど、この蝶は華を心配してくれているとなんとなく感じた。
「ありがとう。あなたは私の側にいてくれるのね」
そうだと返事をするように、蝶は華の肩に止まった。
両親にすら見限られてしまった自分なんかの側にいてくれる。
それが泣きそうなほど嬉しかった。
(つづく)
作品紹介・あらすじ
結界師の一輪華
著者 クレハ
定価: 704円(本体640円+税)
発売日:2021年12月21日
落ちこぼれ術者がカリスマ当主と契約結婚!? 大逆転和風恋愛ファンタジー
「俺の嫁になれ」
見捨てられた落ちこぼれ術者は、傲岸不遜な若き当主に愛される。
契約結婚から始まる、大逆転劇。
遥か昔から、5つの柱石により外敵から護られてきた日本。
18歳の一瀬華(いちせ・はな)は、柱石を護る術者の分家に生まれたが、幼いころから優秀な双子の姉・葉月(はづき)と比べられ、虐げられ続けてきた。
ある日突然、強大な力に目覚めるも、華は静かな暮らしを望んで力を隠し、自らが作り出した式神たちと平和な高校生活を送っていた。
だが新たに本家の当主となった、傲岸不遜だが術者として強い力を持つ男・一ノ宮朔(いちのみや・さく)に見初められ、強引に結婚を迫られてしまう。
期限付きの契約嫁となった華は、様々な試練に見舞われながらも、朔の庇護下で本当の自分の姿を解放し始めて――?
「お前が幸せであるよう夫としてできるだけのことをする。だから俺のそばにいろ」
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