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試し読み

【新連載 辻村深月「闇祓」試し読み】ぬるりと染み出す悪意に戦慄する、渾身のサスペンス・ミステリ!

2月12日(火)発売の「小説 野性時代」2019年3月号では、辻村深月「闇祓やみはら」の連載がスタート!
カドブンでは、この新連載の試し読みを公開します!

県内有数の進学校に編入してきた転校生は、クラス一の優等生、澪をじっと見つめている。
まるで、何かを狙っているかのように。

ぬるりと染み出す悪意に戦慄する。
著者渾身のサスペンス・ミステリ、ここに開幕!




ヤミ-ハラ【闇ハラ】闇ハラスメントの略。
ヤミ-ハラスメント【闇ハラスメント】精神・心が不健全な状態(闇)にあることから生ずる、自分の事情や思いなどを一方的に相手に押し付け、不快にさせる言動・行為。本人が意図する、しないにかかわらず、相手が不快に思い、自身の尊厳を傷つけられたり、脅威を感じた場合はこれにあたる。やみハラスメント。闇ハラ。ヤミハラ。

 第一章 「転校生」


 転校生を紹介します――。
 そう言われて、顔を上げた途端、目が合った。そのあまりの唐突さに一瞬、ドキリとする。
 担任の南野みなみのの横に立っていたのは、詰襟姿の男子だった。ひょろっとして、手足が長く、痩せている。取り立てて美形ということはないけれど、かといって不細工だというわけでもない。目つきが少し、落ち着きなさそうにおどおどしているように見えるけれど、転校生で、初めての教室に来たのだから、そうなっても当然かもしれない。
 背は、高い方だった。小柄でずんぐりした体型の南野先生と並んでいると、若手の漫才コンビか何かみたいに見える。髪の毛がぼさぼさなのが、少しだけ気になった。今日は転校初日だというのに、あまり身なりに気を遣わないタイプなのかもしれない。
 制服が間に合わなかったのだろう。彼の詰襟姿が、この教室の中では新鮮だ。うちの高校の制服は、男子も女子もカーキ色のブレザーだ。男子はネクタイ、女子はリボン。
 目が合ってしまった気まずさで、みおは不自然に思われない程度に視線をそらす。南野が、転校生の方を振り返った。
「じゃ、高杉たかすぎ
「はい」
 挨拶するように促された彼が、聞こえるか聞こえないかの、か細い声で答えた。
「父親の関係で、転校してきました。これから、よろしくお願いします」
「名前」
「え?」
「名前は? 言わないのか?」
 からかうような口調で南野に促され、転校生が「あ」と短い声を出した。それからまたかすれたような不明瞭な声で、「たかすぎ、かなめ」と続けた。「です」という、語尾がない。名前だけだった。
 横で、南野が黒板に「高杉要」と書き入れる。
「ちょっとうっかりさんみたいだけど、みんなよろしくな」
 南野が場を和ませるように朗らかな声で言うが、笑いは起きなかった。
 そんなやり取りを眺めながら――、あれ? と思う。
 彼の目が、また澪を見ていた。さっき目が合ってしまったから、なんとなくまたこっちを見たのだろうか。それとも、澪の気のせいで、後ろの何かを見ているのか――。
「席は、二列目の後ろな」
 教室の後方に、いつの間にか新しい机と椅子が運び込まれていた。転校生が「はい」と返事をする。その間も、目は、案内された自分の席とは全然別の、こちらの方を見ていた。
 転校生・高杉が、自分のカバンを手にふらりと、席に向かう。その時になって、ようやく、澪から視線をそらした。

 気のせいかと思ったが、転校生の視線に気づいていたのは、澪だけではなかった。
 その日、いつものメンバーでお弁当を開いてすぐ、親友の花果はなかが声を潜めながら「ねねね」と、内緒話でもするように澪の方に額を寄せて来た。
「あの暗そうな転校生さ、澪のことずっと見てたよね」
「え、うっそ。ほんと?」
 親友三人での昼休み。教室の窓際で、澪は窓を背に、残りの二人は窓の方を向いて、互いに向き合う形でいつも一緒にお弁当を食べる。
 おもしろがるような花果の声に、もう一人の親友・沙穂さほがとっさに転校生の席を振り返ろうとする。それを花果が「ちょっ! 見ちゃダメだって」と制した。
「こっちで噂してるのバレるじゃん。振り向いちゃダメ」
「ええー、でもそれってさ、澪を好きになったってことじゃない?」
「……たまたまじゃないかな」
 二人の声に苦笑を返しつつ、澪が答える。単に少しこっちを見ていた、というだけだ。あまり大げさにされたくない。
「まだ一言も話してないんだし、好きとかおかしいでしょ」
「いやいやいやいや」
 花果と沙穂の声がそろった。二人して大仰な仕草で顔の前で手を振り動かす。
「一目惚れってこともあるかもよ? でもさ、ヤバくない? 漫画とか映画の中だったら、一目惚れって胸キュン要素だけど、実際は話したこともないのに好きになられるのとかドン引くよね。ストーカーっていうか」
「ちょっと。そんな言い方やめて」
 沙穂がもともと恋話コイバナの類が好きで、悪乗りが過ぎるところがある子なのは長い付き合いの中でよく知ってる。けれど、出会って間もない相手に対してそんなふうに騒ぎ立てるのはどうだろう。澪が眉をひそめると、花果の方がようやく「ごめんごめん」と謝った。
「でもさ、高杉くんってきっと頭いいんだね。うちの転入試験、結構難しいって話なのに。去年転入してきた先輩だって、いきなり学年一位の秀才だったわけだし」
 澪たちの通う三峯みつみね学園は私立高校だ。千葉県内では歴史は古い方の、いわゆる進学校。私立のせいか転校生は滅多にいないが、それでもごく稀に転入を受け付ける代がある。そして、転入試験は入学試験より難しいという噂が確かにある。
「転入受け付ける以上は、大学進学の実績を稼いでくれそうな子に学校側だってしたいってことでしょ? 高杉くんも、相当頭いいんじゃない?」
 私立の進学校だけあって、三峯学園はそのあたりはシビアだ。学校案内や校舎の壁に、まるで大手の塾ばりに、前年の大学合格者数の実績が張り出される。
「そうだね。でも転校してきたばかりだし、あんまり決めつけた目で見るのはかわいそうだよ。頭いいかも、とかもだけど、さっきみたいに暗そうとか」
「ええ~、でもさぁ」
 沙穂がまだ何か言いたげにすると、そこに、「原野はらの」と声をかけられた。いつの間に来たのか、南野先生がすぐ近くに立っていた。花果と沙穂が、ばつが悪そうに黙り込む。澪は至って平然と「はい」と返事をした。
 かけていた眼鏡を押し上げながら、南野が言った。
「悪いけど、高杉のこと、よろしくな。できたら放課後、何人かで学校を案内してやってくれないか? 本当は宮井みやいがいたら頼んだんだけど、今日は休みだから」

(このつづきは「小説 野性時代」2019年3月号でお楽しみください)
※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。


カドブンノベル

最新号 2019年10月号

9月9日 配信

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