北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」 第4回 山本幸久『ヤングアダルト パパ』
北上次郎の「勝手に!KADOKAWA」

数々の面白本を世に紹介してきた文芸評論家の北上次郎さんが、KADOKAWAの作品を毎月「勝手に!」ご紹介くださいます。
ご自身が面白い本しか紹介しない北上さんが、どんな本を紹介するのか? 新しい読書のおともに、ぜひご活用ください。
◆ ◆ ◆
その本を読んだかどうかは、パソコンのなかに入っている「過去原稿」を見れば一目瞭然。読んでも書評を書かないケースもあるけれど、書評を書いていれば原稿が「過去原稿」に入っている。
というわけで今回は、読む前に調べてみた。山本幸久『ヤングアダルト パパ』である。大丈夫だ、この書名は「過去原稿」に入ってないから間違いなく読んでいない。
しかし読み始めてすぐに「しまった」と思った。読んでなかったことが失敗だったのである。どういうことか。
実は山本幸久が2016年に上梓した『誰がために鐘を鳴らす』(これは傑作!)を当時書評したとき、「山本幸久が中高生を主人公にした小説を書いたのはこれが初めてではなかったか」と書いてしまったのだ。まったくうかつなことである。
山本幸久の作品は、2004年の『笑う招き猫』から、2020年『あたしの拳が吼えるんだ』まで、ほぼ全作読んできたと思っていたが、この『ヤングアダルト パパ』のように未読のものがいくつかあったのである。そうか、中学生を主人公にした小説も書いていたのか。
『ヤングアダルト パパ』は、中学二年生の静男が、生後5カ月の優作を一人で育てる話である。曽野綾子に『二十一歳の父』という名作があったけれど、こちらはなんと十四歳の父だ。母親がどこかに行ってしまったので、彼は一人でわが子を育てなければならない。夏休みの間はそれでもよかったが、新学期が始まるとそれも出来なくなる。かくて静男は東奔西走、学校に行っている間、優作を預けることが出来るところを探して駆けまわるのである。
『誰がために鐘を鳴らす』は高校生を主人公にした小説で、たしかに高校生小説はあれが初めてであったと思うけれど、中学生を主人公にした作品があるならば、「中高生を主人公にした小説はない」と書いたのは私の間違いである。いま心配しているのは、『誰がために鐘を鳴らす』の他に、高校生を主人公にした小説は本当にないんだろうか、ということだ。大丈夫か!
▼山本幸久『ヤングアダルト パパ』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321210000068/