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連載

担当編集者は○○を語る vol.1

第1回『屋根をかける人』門井慶喜/担当:黒岩里奈

担当編集者は○○を語る

著者の次に、本のそばにいるのは、担当編集者。
著者の次に、本に思い入れを持っているのも、きっと担当編集者。
思いは沸騰し、溢れ、ときに暴走し、煩悩となって燃え続ける。
――そんな熱くウザい思いを、この際存分に語ってもらいましょう。

「自分も、世界を変える一歩を歩むことができるのではないか。そう思わせてくれる本です」

「この本は文芸に来て1年くらいのときから担当させていただいて、私にとっては特別な1冊です。毎回連載原稿を頂くたびにドキドキし、後半になればなるほど好きで……物語が進むにつれ、主人公のヴォーリズを通して見える景色がどんどん変わってゆくことに、大興奮しつつ読んでいました。折しも直木賞初ノミネート直後でもあり、これから門井さんの時代が来るんだ! という熱を肌で感じながら本作りに取りかかったことを憶えています。
 この物語をひとことで言うと――時代を変えた男の話です。しかし、日本にやってきた一介の伝道者で、建築家だったメレル・ヴォーリズがなぜ時代を変え得たのでしょうか。
 ご本人もよく仰るのですが、門井さんの描くヴォーリズは何よりも、ビジネスマンです。と言っても欲得に生きているわけではなく、潔癖なまでに高潔な人。その澄んだ眼で社会や他者をしっかりみつめ、自分が動くべきときには全力で動く――社会に生きる者の理想としての「商人魂」があります。そのような人こそが社会を変えてゆくのだという、静かなメッセージが感じられます。
 好きな場面は、本当にたくさんあるのですが二つだけ。まず、ヴォーリズが妻となる女性にプロポーズするシーンです。控えめを通り越して不器用で……当然結婚が目的の行為なんだけど、それよりも眼の前にいる人があまりに魅力的だから、つい心と身体が動いてしまう……読んでいるこちらが愛おしくて苦しくなってしまいますね。そして後半、天皇と面会するところ。記録では会ったという事実しか残っていなかったので、門井さんがヴォーリズの眼になり、ふわりと現実から浮き上がったような、なんともいえず美しい邂逅のひとときを描いています。
 歴史小説の枠を超えて、リアルに今を生きる我々の糧になる小説だと思っているんです。読んでいると、自分も世界を変える一歩が歩ける気がしてくる。この気持ちをひとりでも多くの方にお伝えしたい……」

(株)KADOKAWA 文芸局所属。マインスイーパ-の世界記録や調理師免許やあんまり大きな声では言えない受賞歴など、無駄に高いスペックとアンコントローラブルな文芸への熱情を持つ文芸4年生。卵かけご飯をおかずに白いご飯を食べる米崇拝者でもある。最近面白かった本は『死すべき定め 死にゆく人に何ができるか』(アトゥール・ガワンデ みすず書房)。


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