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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.28

【連載小説】村上刑事と有里は充代のもとに、AVに出演した少女の話を聞きに来ていたが――赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#7-4

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。
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「誰かしら。──はい」
 充代が声をかけると、
「ルイですけど……」
「ああ、ルイちゃん。待って」
 充代はドアを開けた。
「あの──お願いがあって」
 と、やすルイはどこか思い詰めた表情で言った。
「何かしら? 今、宮里さん、留守なのよ」
「そうですか……。いつお帰りに……」
「さあ。──奥さんが今、手術を受けられててね。それで病院の方に」
「まあ……」
「こっちから連絡できないの。分るでしょ?」
「ええ。──すみません」
「いえ、いいのよ。宮里さんに何か伝えることがあれば聞いておくけど」
「あの……私の出たビデオのことで……」
 と言いかけて、「あ、お客様でした? 失礼しました」
 有里たちに気付いて、ルイはあわてて、
「それじゃ、私、また──」
「待ってくれ」
 と、村上がやって来ると、「もしかして、この写真の女の子を知らないか?」
 と、吉川マナの写真をルイの方へ差し出した。
「え……」
 ルイは戸惑ったように、「充代さん、この写真の子って……」
「私は知らない子だわ」
 と、充代が言うと、ルイは写真を手に取って、じっと見ていた。
「ルイちゃん、知ってるの?」
「もしかして──マナちゃんですか?」
「そう! 吉川マナって子だ。知ってるのか?」
「何だかポーズ作ってるから、別人みたいですけど、よく見れば……。充代さん、〈Kビデオ〉で、私の前に撮ってたのが、この子の出演してた作品でした」
「本当に? 私や宮里さんは係ってなかったけど」
「私、〈Kビデオ〉に出るって決ったとき、あの事務所に呼ばれて行ったんですけど、そこに、マナちゃんも来ていて。──ビデオの内容についての説明を聞いて帰るとき、一緒だったんで、二人でハンバーガー食べたんです」
「この子が今どこにいるか、知ってるかい?」
「いいえ。ただ……心配でした」
「心配というと?」
「マナちゃんのビデオは、ちょっと大変そうだったんです。話を聞くと、もう何本か他の事務所でも撮っていて、〈Kビデオ〉では何か変ったことをやらされるらしい、って言ってました」
「マナって子と連絡取れるかね?」
「それが……。何度かメールのやり取りしてたんですけど、突然つながらなくなって」
「ルイちゃん、ともかく上って」
 部屋へ上ると、ルイはケータイを取り出して、マナのケータイ番号とアドレスに連絡してみたが、全くつながらなかった。
「──マナちゃんのおじいさんが? そうですか」
 ルイは思い出したように、「一緒にハンバーガー食べたときに、言ってました。田舎のおじいちゃんのお店が潰れそうなんだ、って。何とかして助けてあげたいから、どんなビデオだって断らないんだって」
「しかし、連絡が取れないのは心配だな」
 と、村上が言った。
「そういえば……うわさが……」
 と、充代は言った。「何か事故があったとか……。もしかしてその子のこと?」
「あ、私も聞きました。あのアパートですよね」
 事故があった? そしてそのアパートは焼けてしまった……。
「もしかすると」
 と、村上が言った。「あの真田って男が殺されたこととも関係があるのかもしれない」
 しばらく、沈黙があった。
 そして、ルイがポツリと、
「私……好きな人ができたんです」
 と言った。

つづく 

※本作の続きは「小説 野性時代1月号」より掲載予定です
◎第 7 回全文は「カドブンノベル」2020年12月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年12月号

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