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連載

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」 vol.27

【連載小説】〈Kビデオ〉から逃げ出した男を追う村上刑事。村上が駆けて行った方から、銃声が聞こえてきて――赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#7-3

赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。
>>前話を読む

「村上さん!」
 道に倒れている男──。思わず息を吞んだが、駆け寄ると、あの逃げた男だと分った。
 撃たれたのか? うずくまるように倒れて動かない。
「村上さん……」
 周囲を見回していると、通りかかった人がチラチラと見て行く。
「有里君」
 村上が息を弾ませて戻って来た。
「良かった! 無事だったのね!」
「撃たれたんだ、逃げようとして。──口をふさごうとしたんだろう」
 村上は男の手首を取って、「──死んでる」
 と言った。
「撃った人間は見た?」
「追いかけたが、見失った。──畜生!」
 悔しげに言って、村上は汗を拭った。
「でも──村上さんが無事で良かった」
 と、有里は言った。
「ただのビデオ会社の事件じゃない。人殺しもする連中なんだ」
「吉川マナって人のこと、宮里さんたちが何か知ってるかも」
「そうだな。──応援を呼んで、あのアパートへ行ってみよう」
 そう言ってから、村上は、「この男、撃たれて倒れるときに言ったんだ。『宗方さん』って。そう聞こえた」
「宗方が撃ったの?」
「おそらくそうだろう。──吉川さんは?」
「大丈夫。でも救急車が必要かもしれない」
「分った。君はこれ以上かかわらないでくれ。それこそ弾丸が君をよけてくれるとは限らないよ」
「そんなの、分ってる!」
 有里は腹を立てて言った。「今さら、私に家に帰ってTVでも見てろ、なんて言ってもむだだよ」
 村上もすぐに納得したようだった。
「分った。幸代さんに叱られたときは、弁護してくれよ」
「任せて。おちゃんは私のこと、よく分ってる」
 もちろん──だからって、弾丸が有里の方へ飛んでこないわけじゃないのだが……。

 吉川真一を救急車で病院へ送ってから、村上と有里は太田充代と宮里のアパートへと向った。
 もう夜になっていたので、途中で簡単に食事をしたが、
「お母さんに文句言われた」
 と、有里がケータイを切って、ちらっと舌を出した。「帰ってから、もう一度、ちゃんと夕ご飯食べなきゃ」
「気がとがめるね」
「村上さんのせいじゃないよ」
 と、有里は言った。「早く宮里さんのアパートに行こう」
 有里にせっつかれて、村上も腰を上げた。
 そこから歩いて数分の宮里たちのアパート。
「──留守かな」
 チャイムを鳴らしても返事がなく、村上はドアを軽くたたいた。
 すると、中で物音がして、
「どなた?」
 と、少し間のびした声がした。
「村上です」
「ああ……」
 ドアが開くと、充代が大欠伸あくびして、「すみません……。今まで眠ってて」
「疲れてるところ、申し訳ない」
 と、村上は言った。
「いいえ。どうぞ。──宮里さん、どこに行ったんだろ?」
 充代は洗面所で思い切り顔を洗ってくると、ケータイを見て、
「メールが入ってる。──まあ!」
 と、目を見開いた。
「どうかしたんですか?」
 と、有里が訊く。
「宮里さん、奥さんの具合が……。緊急手術ですって。──それきり何も言って来てない」
「あなたに訊きたいことがあってね」
 と、村上は言って、〈Kビデオ制作〉での出来事を話してやった。
「え? 〈Kビデオ〉が倒産?」
 充代はぜんとして、「まあ……珍しくはないですけど、この業界」
「夜逃げ同然だったようだ。知らなかった?」
「全然」
 と、充代は首を振って、「私は一本ごとの契約なので。宮里さんもそうです」
「そうか。それで──吉川マナって子のことは……」
「聞いたことないです。というか──ああいうビデオに出る女の子は、まず本名じゃ出ないですから」
「そうか。そうだろうな」
「村上さん、写真を」
 と、有里が言った。
「うん。──この子なんだが」
 と、村上が、吉川真一から渡されたマナの写真を取り出す。
 そのとき、玄関のチャイムが鳴った。

▶#7-4へつづく
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「カドブンノベル」2020年12月号

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