【連載小説】偽証の報酬を受け取りに来た秀子の前に、一台の車が停まって……。 赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」#6-2
赤川次郎「三世代探偵団4 春風にめざめて」

※本記事は連載小説です。
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翌日の午後、秀子はアパートを出て、約束の場所へ出かけて行った。
公園といっても、小さな遊び場という所。
午後も少し遅くなると、遊んでいる子供もいない。
雨になりそうで、秀子はベンチにかけて、空を見上げていた。──そろそろ約束の時間だけど。
秀子は、ゆうべの嬉しそうな由美の様子を思い出して、つい
そうだわ。これからだって遅くない。
何か新しい生き方を捜して、由美と二人で頑張ってみよう。あの子のためと思えば、きっとできる……。
そのとき──公園の前に、車が
そして男が一人降りてくると、秀子の方へやって来た。
「秀子さん?」
まだ若い、二十四、五かと見える男だった。
「ええ。あなたは?」
「使いの者です。車に乗って下さい」
「車に? でも……」
「そう言われて来たんで」
「そうですか」
わざわざ車で呼ばれるほどのことでもないように思ったが、「あの──
「そうです。工藤さんが事務所で待ってますんで」
「じゃあ……」
言われるまま、その車に乗った。若い男は後部座席に秀子と並んで座った。運転しているのは別の男だ。
車が走り出して、少しすると、秀子のケータイが鳴った。
「──はい」
「もう車かな?」
「工藤さん。何か私にご用ですか? 私は昨日のお約束のものだけ──」
と言いかけると、工藤は、
「
と言った。
「──え?」
「お前は一人暮しだと言った。だから
「あ……。でも、まだ子供ですよ。それに、警察じゃ、ちゃんと話をしましたよ」
「お前の話を信じてりゃいいが、噓だと分ったらどうする。お前が俺の名をしゃべる。そうなりゃ、上の方が迷惑するんだ」
淡々とした言い方が、
「すみません。借金でずっと苦しんでたんで……。つい、お話のあったときに──」
「噓をついた
と、工藤は言った。
そのとき、秀子は脇腹に固いものが押し当てられるのを感じた。
ハッとして見下ろすと、若い男が拳銃を押し当てていた。
「工藤さん……」
「本当なら、そこでお前を始末して、道端へ放り出して終りなんだぜ」
「あの……勘弁して下さい……。工藤さんのお名前は決して出しません」
声が震えた。
「俺は親切だからな。指一本つめるくらいで許してやってもいい。だけど、お前の指なんかもらってもな」
「お願いです、何とか見逃して……」
「うん。助けてやってもいいって気になったんだ。写真を見たときにな」
「写真?」
「そこにいる若いのが、お前と娘が歩いてるとこを写真に撮った。なかなか
「工藤さん……。娘には関係ないでしょ」
「そうかな? 娘に訊いてみよう」
「お願いです! 娘のことは──」
秀子は、いきなり拳銃で頭を殴られて、苦痛に
「お願いです」
と、
「それは分ってますよ」
と、
「姉として恥ずかしいです」
と、充代は目を伏せた。
「あなたが恥じることはないわよ」
と、
充代を村上刑事の所へ連れて来たのである。
「弟の名前は〈太田猛〉だね」
と、村上は言って、「わざわざその名前を言いに来た女がいる」
村上は、加東秀子のことを話して、
「話を聞いてるときから、こいつは金で言わされてるな、と思ったんですよ」
「すると、その女に言わせた人間がいるわけね」
と、幸代が言った。「そこから、充代さんの会った
「確かに」
と、村上は
太田猛が「代役」であることが分ったら、充代が心配をするように、猛にはもう価値がなくなる。
「加東秀子に会って来ましょう」
と、村上は言った。「偽証罪に問われることになることを、よく分ってないからな、きっと」
「私も行きます!」
と、充代が言った。
「私もご一緒しましょ」
と、幸代が言って、一同はほとんどハイキングのようになってしまった。
▶#6-3へつづく
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