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徳島の狸伝説をハリウッド級にスケールアップ——『丹吉』松村進吉 レビュー【評者:吉田大助】

現代に蘇った卑俗な化け狸が、この世の不平と悪を斬る!? 令和版狸合戦!
『丹吉』松村進吉 

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丹吉』松村進吉 



徳島の狸伝説をハリウッド級にスケールアップ

評者:吉田大助

 怪談実話の新たな旗手として活躍してきた松村進吉が、エンタメ小説界に殴り込み。タイトル・ロールである化け狸の冒険を追いかける初長編『丹吉』は、よそではなかなかお目にかかれないタイプの“マーベルみ”がある。MCUのラインではない。『デッドプール』だ! 下ネタありバイオレンスあり、くすぐり笑いの小ネタ三昧で、第四の壁(=物語の舞台と鑑賞者の現実世界の間にある、ということにされている見えない壁)もやすやすとぶち壊す。ただしストーリー構成は花丸で、なおかつ主人公は意外なほど正義のヒーローだ。
 ときは平成から令和へと元号が変わった年の11月、ところは徳島県徳島市方上町にある弁天山。田んぼの真ん中にある標高6・1メートルの「日本一低い山」(ググると事実だと分かります)の山頂には、弁才天様を祀った神社がある。境内にあるキンタマ岩の中に封じ込められているのが、かつて人間相手に破廉恥の限りを尽くし、とっちめられた化け狸の丹吉だ。封印から百数十年経ったこの日、通称・プチ弁天から突如「世のため人のために働いてもらうことにしたけん」と、神使見習いに大抜擢。岩の中からついに抜け出し、肉体をゲットする。
 プチ弁天からは妖怪退治を申しつけられたものの、令和のこのご時世、妖怪自体なかなか見つからない。しかし、困っている人はたくさんいる。根は不良狸ではあるものの、神前にやって来る人間たちの心の声を長らく聞いてきたため、丹吉の胸には情けが宿っているのだ。第一話(「其ノ一」)では、年に300日以上も手を合わせてきた弁天山ガチ勢のとち子が、のっぴきならないセクハラを受け、手込めにされかけている救難信号を丹吉がキャッチ。お目付役である先輩神使の黒蛇をウロボロス状にして首に巻き、ジブリ映画名物「主人公+小動物」という黄金律を完成させた状態で現場に急行する。が、葉っぱを載せた化け術でやっていいのは、人間を脅かすくらい……という神使見習いとしてのOKラインをやすやすと踏み越えてしまい……。
 とにもかくにも第一話が、読み物としてパーフェクトと言える仕上がりだ。筋立ては王道の勧善懲悪なのだが、自己顕示と言い訳と媚びへつらいと屁理屈に満ちた丹吉の語り(一人称は「ワイ」)が、いい意味で「ヒーローとはなんたるか?」を見失わせてくれる。丹吉が繰り出す「バブみ」といった非文学的な現代語の連打も、その印象を支えている。著者が怪談作家としてのキャリアの中で身につけてきたであろう「耳の良さ」が遺憾なく発揮された情景描写や、徳島弁を操るキャラクターたちのセリフの掛け合いもいちいち楽しい。なおかつ、語られていることと本当に起きていることは違うかもしれない、語られていないからといって現実で起きていないとは言えないのかもしれない……という落とし穴が所々でぽっかり口を開けているのだ。キャラクターたちが動きに動く映像的な文章の中に、小説的なたくらみが満ちている。
 第二話以降は、第一話で示された勧善懲悪の型に、丹吉の仲間(≒宿敵)登場という要素が加わり物語の吸引力が増していく。なるほど各話のメインとなるモチーフは、非人間の側に視点を置くことで逆照射される、現代人特有の悪意や寂しさなのかと安心しかけていたところで、物語の絵図が大きく動き出す。そのエンジンとなるのは、ジブリ映画『平成狸合戦ぽんぽこ』でも元ネタにされていた「阿波の狸の物語」のエピソードだ。かつて阿波国で起きた(とされる)狸二大派閥の血で血を洗う戦いの記憶が、現代の徳島に蘇る。アクションシーンもハリウッド級だ。
 本作においてリアルとフィクション、存在と非存在、記憶されるものと忘却されるものの境界線は、常にあいまいだ。そんな状況下にあるからこそ、「信じる」という行為の重要さが際立つ。その感情は時に戦争を引き起こすこともあるが、戦争を止めることもできる。戦争はここで止められる、と「信じる」ことによって。徳島の民間伝承を現代社会に召還し“マーベルみ”満載でスケールアップさせた物語は、『デッドプール』とはまた違ったアプローチで「鑑賞者をいかにして当事者にするか?」というテーマにも挑戦している。その挑戦が成功しているからこそ、「信じる」ことのポジティブな意義が心に残るのだ。
 基本はばっかばかしいのに、びっくりするくらい感動できる。ハリウッドで映画化してほしい。

作品紹介・あらすじ



『丹吉』松村進吉
KADOKAWA 定価: 1870円(本体1700円+税)

現代に蘇った卑俗な化け狸が、この世の不平や悪を斬る!?
化け狸・丹吉は、エッチな悪事によって徳島市方上町にある弁天山の卑猥な形の岩に封じられた。暇をもてあます丹吉は、参拝に来る松浦とち子を通じて現代社会の知見を得る。ある日、プチ弁天の力で受肉した丹吉は、阿波の平和を守るため妖怪退治を命じられるが……。ひとまず破けた殿中を縫ってもらうため、とち子のもとに向かった丹吉はSOS を察知。セクハラ親父から彼女を救うべく田舎道を疾走する。令和版狸合戦がここに開幕!

詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000660/
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