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レビュー

人生の節目ごとに大切となる「心得」を教えてくれる本――パウロ・コエーリョ『弓を引く人』レビュー

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弓を引く人
著者 パウロ・コエーリョ



 ▼パウロ・コエーリョ特別インタビューはこちら 
 ▼『弓を引く人』試し読みはこちら 

人生の節目ごとに大切となる「心得」を教えてくれる本

評者 北野唯我(作家・実業家)

 読むたびに感じるものが変わる本――というものがある。それは単なるわかりやすいハウツーではなく、「人生で大切な心得」を問うてくる本だ。
 そして、人生で大切な心得を問う本とは、「私たちは何のために生きて、どう生きたいのか?」「他者にとっての自分とはどうあるのか?」という存在論を扱うものであり、「この瞬間の時間の使い方」を扱っていることが多い。

 さて、少し話はずれるが、私は普段から思っていることがある。それは「全てのビジネスパーソンは必ず『禅』の世界にたどり着く。ただし、それが死ぬまでに間に合うかどうか――だけが人による」ということだ。いや、正確にいうと「道」と呼ばれる世界である。
 たとえば、スティーブ・ジョブズが禅を好んでいたのは有名な話であるし、Amazonの創設者ジェフ・ベゾスの考えも実は極めて「道」的である。なぜか? ビジネスに限らず、何かを突き詰めれば突き詰めるほど、人生は必ず「よくわからなくなるもの」だからだ。それがゆえに突き詰めた人ほど禅的にならざるを得ないのだ。
 なぜ生きるのか、なぜ働くのか、なぜ愛する人も必ず死ぬのか。考えれば考えるほど答えが見えない。
 言うなれば、たどり着く先には必ず「無」の世界がある。そこに答えを出せるのは、哲学や宗教、あるいは、この本に書かれている「道」と言われる世界しかない。より具体的には、本書ではこれを「弓」を使って説明している。つまり「弓道」を使って、私たちにこの真実を優しく教えてくれている。だからわかりやすく面白い。

 弓は人生である、と、この本は説く。その真意は、次のようなことである。
 矢はある日去ってしまうし、的はずっと遠くにあるものだ。つまり消えていくあやふやな存在だ。しかし、弓は違う。弓はこれからも私と共にある。一方で、常に戦いに備えて張り詰めている弓は強靭さを失う。だから弓に休息を与え、力強さを回復させなければならない。これはまさに私たちの身体や頭脳そのものである。張り詰めて働きすぎた身体や鍛えすぎた身体にはしなやかさがなく、実は脆いからだ――。
 では、その弓は何を放つのか? 矢である。矢もまた人生の摂理を表している。
 というのも、弓から放たれる矢は、同じ的を狙っていたとしても、まったく同じ軌道を描くものは二つとしてないからだ。つまり、矢とはこの一瞬一瞬に流れる、私たちの時間そのものである。それはまさに、全てのものは生滅に向かって変化し続ける、と説いた諸行無常の世界のあり方に近い。

 さて、最後に私はこの本がとても好きだ。それは名著と呼ばれる本の特徴である「読むたびに感じるものが変わる」からだ。しかも読みやすい。ぜひ、今人生の節目にある人や、大切なことを内省したい方は手に取ってみてほしい。

作品紹介



弓を引く人
著者 パウロ・コエーリョ 共訳 山川 紘矢 共訳 山川 亜希子
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
発売日:2021年11月20日

『アルケミスト』のパウロ・コエーリョが贈る、人生を実り豊かにする教え
この国で最高の弓の達人である哲也は、現在、小さな村の普通の大工として生きていたが、ある日、遠い国から来た別の弓の達人から挑戦を受けた。
哲也はこの挑戦を受けることによって、その弓の達人だけでなく、村の少年にも弓の真髄を教えるのであった――。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322102000108/
amazonページはこちら

パウロ・コエーリョ特別インタビュー



【著者本人への特別インタビュー!】パウロ・コエーリョ最新作『弓を引く人』――時には、学んだことが何だったのか、じっくりと理解しなければならないこともあるのです。
https://kadobun.jp/feature/interview/3ko8e0443bs4.html

『弓を引く人』試し読み



弓の名人が村の少年に教える「実りある人生」のヒント――『アルケミスト』のパウロ・コエーリョの新作『弓を引く人』試し読み#1
https://kadobun.jp/trial/yumiwohikuhito/c6py6o8zk68k.html


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