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水木さんが還らぬ人となってから少しばかりの時間が経った。幼い頃から慣れ親しんだ彼の漫画や妖怪図鑑は、今でも僕の「中身」に大きく関わっている。
彼の「幸福論」は、ただただシンプルである。「しないでいられないことをし続けなさい」、「なまけ者になりなさい」、「目に見えない世界を信じる」など。この本を読めば、人間らしさとは何なのかがよくわかる。彼は激動の時代を生きた。戦争体験は、彼の中に大きく陰を落とす。成功や栄誉、勝ち負けと人の幸せは決して結びつかないものなのだ。
彼は自然を愛し、自分自身を愛し、生きることを楽しむことを決して諦めない。そして、ユーモアを大切にしながら、自分自身に嘯くことなく生きてこられたのだと思う。
ほんとうの「幸福」とは何なんだろう。そんなことを考えるだけで、人はついつい悩んでしまう。人は常に、やりたいようにやっているようで、何かに何かをやらされているものである。波乱に富んだその人生の中で、彼は一体何を見つけたのか……本人でないと分からない部分ばかりなのだろう。人は、それでいいのだ。
娘さん(武良悦子)によるあとがきも秀逸だ。素敵な人というのは、人の人生を大きく変えることもある。水木さんは、自分自身と向き合いよく自分自身を知ることで、幸福を取り逃がさなかったのかもしれない。