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レビュー

「延命」にとどめを刺せ! 新時代の企業組織の在り方を示す「警世の書」、必読の経済小説 『ヘルメースの審判』

書評家・作家・専門家が《今月の新刊》をご紹介!
本選びにお役立てください。

(評者:堺 憲一 / 東京経済大学前学長)

 いまや、グローバルな規模で展開されている企業間競争。過去の経験や知識は、もはやそのままの形では通用しない。多様性を認め、変化を恐れないリーダーたちの果敢な挑戦は、猛烈な勢いで未知の領域に突き進んでいる。そうした状況下におかれているにもかかわらず、多くの日本企業にあっては、依然として年功序列が幅を利かせている。立場や意見の違う人は、「自分たちの平穏」を乱す「異物」として白眼視されている。過去の成功体験にしがみつき、もはや時代遅れとなったビジネスモデルのなかで必死に延命を図ろうとしている。それでいて、それらが問題だとは感じられていない。危機意識に欠け、進取の精神に乏しいと言わざるを得ないのだ。

 そのような旧態依然の悪弊や慣行を抜本的に改革しなければ、組織はやがて危機に直面する。そのとき、どのようなことが起こるのか? それは、誰にもわからない、まさに神のみぞ知る世界だ。審判を下すのは、本書の著者が暗示するように、「ギリシャ神話に登場するゼウスの使いで、旅人、商人の守護神」であるヘルメースなのか!

 グローバルな戦いのなかで生き残り、さらに発展させていくために必要な条件とはなにか? そのプランをどのような考え方で実現させていけば良いのか? この本の魅力は、企業がグローバル化の過程で必ず通り抜けなければならない道筋をクリアに提示している点にある。積極的な新陳代謝を絶えず行うことで、真の意味で有能な人材をフルに活用し組織の再編に全力を挙げることの重要性と困難性を抉り出した「警世の書」と言えるだろう。


書影

楡周平『ヘルメースの審判』
定価: 1,980円(本体1,800円+税)
※画像タップでKADOKAWAオフィシャルページに移動します。


 舞台となっているのは、世界でも有数の巨大総合電気機器メーカー「ニシハマ」。東芝を想起する人も多いのではないだろうか。ニシハマの実情はどうか? リーダーの資質がなく、明確なビジョンを持ち合わせていないトップが、反対する者を許さない「恐怖政治」を行っている。ミスを犯せば出世の道が断たれるので、チャレンジしようとはしない体質がしみついている。「経営陣も、管理職も、いや社員のほとんどが、与えられた仕事をいかにして無難にこなし出世を遂げるか、関心はその一点にしかない」。したがって、世の中を一変させるような製品も、ビジネスも生まれていない。そのような環境のもとで、果たして世界のライバルと伍して闘っていけるのか? 実際のところ、ニシハマの屋台骨を長らく支えてきた家電やパソコンはもはや芳しい業績を上げていない。加えて、アメリカにおける原発事業が暗礁に乗り上げるなど、存亡の危機に瀕している。

 そうした事態を改善するため、新たな稼ぎ柱になる可能性があるLNG事業の立ち上げプランが浮上。構想し実行に移したのが、主人公の肥後賢太45歳だ。ハーバード大学を優秀な成績で卒業し、ニシハマ・ノース・アメリカ(NNA)の副社長を務めている。その功績が認められ、本社の取締役に抜擢される。ところが、監査法人を巻き込んだ粉飾という一大スキャンダルが発覚。長らく君臨し、「恐怖政治」を続けてきた経営陣が総辞職することに。組織改編のチャンスと見る賢太。ところが、事態は思わぬ方向に進んでいくではないか!

 最後のどんでん返しに至るまでの熾烈な展開を大いに楽しみながら、企業再生の手法がリアルに理解できる好著である。読んで考えてアクションを起こす! そうした展開が待ち望まれていることだろう!

楡周平『ヘルメースの審判』詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/322005000379/


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