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レビュー

解説は、読書エッセイ 有栖川有栖×杉江松恋 対談――『論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』著 有栖川有栖 文庫巻末解説

一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
『論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』著 有栖川有栖



解説は、読書エッセイ ありがわあり×すぎまつこい対談


―― 本文から読むか、解説から読むか──文庫を手にする楽しみのひとつに、解説がある。解説を書くときは、どのように作品を選び、どんなことを大切にして書くのだろうか。そんな舞台裏を、有栖川さんと、たくさんのミステリー作品に解説を寄せている書評家の杉江松恋さんに語っていただいた。

杉江松恋(以下、杉江):『論理仕掛けの奇談』の文庫化おめでとうございます。『迷宮逍遥』に続く二冊目の解説集ですが、有栖川さんご自身は「前口上」で「対象とした作品を私がどのように読み、楽しんだかをつづったエッセイ」という表現をしておられますね。どの文章も、その有栖川さんの観点が興味深かったです。特に感心した文章の一つが、坂木司『仔羊の巣』についてのものです。有栖川さんは、この小説の主人公が共感できない人物だということを正直に明かしている。え、と思うんだけど、その共感ができないということが小説にとって不可欠な要素なんだという論旨になる。アクロバティックで、非常に納得するものがありました。

有栖川有栖(以下、有栖川):ありがとうございます。でも問題解説ですよね、それは(笑)。

杉江:こういう着想がどの時点で存在するかに私は興味がありますね。最初からあるのか、それとも書いているうちに浮かんでくるものなのか。

有栖川:はっきりしないんですけどね。解説を引き受けて書きだしてから、自分はこういうことを思っていたのか、と気付くこともあります。はたから見ていると、なるほど、そういうことが言いたくて解説を引き受けたのか、と思われるかもしれませんけど毎回そうではない。依頼があって、適任かどうかわからないけど、自分が書いてもいい気がする、くらいのあやふやさでお引き受けすることもありますよ。なんかニコニコしながら着地している自分の姿が浮かぶときと、どこかで何かおもしろいことは言えるかも、ぐらいの見込みのときと、両方です。

杉江:解説は、自分から名乗りを上げて書くものではないですからね。では、構想がまとまってから書き始められているわけでもないんですか。

有栖川:それぞれ違うんですよ。登り始めてみたら明らかに裏道で「こんなところからこの本について語り出す人はいないだろうな」と思うときがあれば、「この本はこういう評価を受けてきて私も賛成なんですけど、ちょっと違う意見もあったりして」と割と正面から行く場合もあります。

杉江:最初の構想が途中で使えなくて放棄されたことはありますか。

有栖川:書きながら変えることはよくありますよ。ぼんやりと思っていた線が予想以上に強くて、周りを固めていくようなときとか。たとえばクロフツの『樽』とあゆかわてつの『黒いトランク』には非常に似た謎がある。二つを並べて語るのは想定内ですよね。でも実際に取りかかってみたら、なんでこんなにれいな対称形を描くんだろうか、と書きながら興奮してきたんです。本当に奇跡的な組み合わせでした。解説からみ取れた人は少ないでしょうけど、あれは第三の作品に出てきてもらいたいという呼びかけでもあるんですよね。樽、トランクに続く、容器に入って動くものが出てきたら、どんなに素敵だろうって。

杉江:なるほど。最初の直観を書きながら確認していかれることがあるんですね。

有栖川:うん、そうですよ。評論家ではないので確固とした方法論はなくて、自分に引っかかるものがあるかどうかなんです。うまい紹介、的確な解説を示すというよりも読者に「どうですか。私、ちょっと引っかかるような物言いをするでしょう」と。そこを面白がってもらえればうれしいし、いや、うまく書けてないんじゃないの、と思う人がいたら、そこはあなたの言葉にしてみてくださいと。そういう形で失礼することが多いですね。

杉江:立場は読書会の幹事ですよね。本について考える上のとっかかりを示すという。

有栖川:解説者だったら、はっきり読書会のリーダーじゃないですか。今日は●●さんのご意見を伺いましょう、という。そうではなくて、「作品のここがいいと言っているけど同感だな」とか「いやちょっと違う」とか。本を閉じる前にそんなことを思ってもらうのが役割ですね。

杉江:『論理仕掛けの奇談』が主として扱うのは謎解きを中心とした推理小説、いわゆる「本格ミステリー」です。伝統的なフォーマットの定まったジャンルには二つ考え方があって、新しいものを作らないと衰退してしまうという意見と様式が定まっていてもその中で実験をしていけばジャンルは賦活されるという意見がある。ある程度の歴史があるジャンルでは、必ず起きる議論ですね。私が関心を持っている落語や浪曲などの大衆芸能もそうです。そういう観点からこの本を読むと、いろいろ発見があっておもしろいです。たとえば、しの『原罪の庭』に触れた文章には「館」という場についての興味深い考察がある。読書会なので結論を示すことは目的としていないということはあるでしょうけど、作品の中で何が大事なのかという核は毎回それとなく示されていると思いました。

有栖川:実作者は小説を書きながら挑戦や模索を続けていくわけなんですけど、鑑賞する側も何かを創ることはできるんですよね。創作者が新しいことをした、でもやっている側にはあまり自覚がなかった、ということもあると思うんですよ。そういうときに鑑賞する側が指摘することで発見ができる。小説を書いている者としては自分が伝統的な形式をきれいに守りつつ、巧みに裏切るみたいなことができればいいと思っていますけど、読む側に回ってもそういうことは可能でしょう。文庫解説の依頼をいただいたときは、そういうことのためのヒントみたいなものを提供できたらいいな、と思っています。

杉江:有栖川さんというとエラリー・クイーンのイメージが強いですが、本書にも二作解説が入っています。創元推理文庫がクイーン名義の『ローマ帽子の謎』、角川文庫がバーナビー・ロス名義の『Xの悲劇』と、共にその名義での最初の作品ですね。

有栖川:シリーズ第一作ということもあって、このときは初心者に向けて書く意識が特に強かったですね。生まれて初めて読む海外の推理小説が『Xの悲劇』という人はいると思うんです。たとえば、クイーンがフレデリック・ダネイとマンフレッド・リーの合作だということはオールドファンなら誰でも知っていることです。でも、どんなビギナーが読んでいるかわからない。初めてお店に来た人に「ここはあなたを歓迎するお店なんです。帰らないでね」って言わなくちゃいけないから。

杉江:有栖川さんが『ローマ帽子の謎』について書かれた中にとても好きな文章があるんです。「私は推理小説という呼称に最も愛着を感じる」「クイーンのフーダニットこそ、推理小説の名にふさわしい。探偵が推理して、推理して、推理し尽くすのだから。クイーンの書いたタイプのミステリだけを推理小説と呼べば筋が通る、と言いたいほどだ」と。有栖川さんの作家としての基本姿勢みたいなものがここに表れているように思います。

有栖川:私もミステリーという言葉は使いますけど「横文字で言うなよ」とも思うんですよ。「せっかく推理小説という確立した訳語があるのに」と。推理なんて言葉、推理小説がなかったら一般の人はあんまり知らないかもしれないですよ。日常的によく使う同音異義語が無いから、紛らわしくもない。しかも中国や台湾でも「推理小説」で通じるじゃないですか。せっかく日本発でそんな言葉ができたのに、捨てるのはもったいないな、と思うんです。ただ、書き手の中には「私の書いているものは警察官のリアルな捜査が眼目で、推理小説だとあまりピンと来ない」という方もいらっしゃるかな。それなら推理小説はイコール本格ミステリーぐらいの感じにとらえなおせばいい、その頂点に立つのがエラリー・クイーンだ。あの人、すごく推理するから、と。

杉江:すごく筋が通ってますね(笑)。本書を読んで、有栖川さんはどういう論理の筋道で謎が解かれていくのかという点に着目されるんだな、と改めて感じました。私は推理作家ではないので解説を書く際もそこまで追いきれなくて、手がかりがどういう風にかれて、回収・利用されていくのか、ということまでなんですね。有栖川さんの文章は、作家が自分の探偵をどうやって動かして謎を解かせるか、その考えを同業者としてトレースしているように見えて、そこがおもしろかったです。

有栖川:私もどこまで的確なことを書けているかはわからないですけど。推理小説には、どこかでやはり意外性を期待しますよね。「犯人が意外」というのが最初の段階ですが、読者はすぐそこを卒業する。「トリックが意外」とかいろいろありますが、やはりいちばん楽しいのは「推理が意外」ということだと思うんです。たとえば「その手がかりはAと解釈するのが普通だけどBと考えないといけない。途中まではAでいいんだけど、ある時点である人物があることを知ったことによって、連鎖的に手がかりの性質が変わるから」というようなことがある。その手がかりによって組み立てられる推理が、そこまで行けるとは思わなかった地点まで到達できたときの意外性というのは、ビギナーの読者にはわかりにくいかもしれないですが、それは推理小説固有の驚きなんです。犯人が意外というような要素は、たとえば時代劇とか他のジャンルでもいくらでもあります。でも、推理を組み立てるというのはこの世界でしかできない楽しいものなんですよ。極端に言えば、犯人は誰でもいい、推理が意外なんだから。そういうことを自作で表現しているんですけど、直接的に言いたいこともある。解説を書いていると、これはいい機会だからと、そういう思いがつい出るんでしょうね。

杉江:有栖川さんは実作者なので、解説を書かれながら同業者として作品から読み取られるものもあるんじゃないかと思うんです。

有栖川:小説家って、どうやって書いているか実はよくわからないんです。あまりにも個人差が大きくて。似たタイプの五百枚の長編でも、一月で書きました、という人がいれば二年間掛かりきりだったという人もいる。どうしてそんなに時間が違うのかの説明はできない。大工さんが家を建てるのにそんなに工期が違うなんてことはありえませんよね。そこはわからなくて、もしかすると評論を書かれて、外から小説を見ている方のほうが気づきやすいことがあるかもしれません。小説家はもうわからないものと思っているところがあります。他の人がおで何しているのかわからないのと一緒ですよ。どこから洗い始めるか、実はみんな違っているかもしれない。自分でも「これ、どうやって書いたっけ」と思う時はありますよ(笑)。

杉江:どの小説だろ。いや、改めて言いますけど、とても楽しい読書ガイドでした。この本はこういう風に読めるんだな、という発見が随所にあるのがいいですよね。

有栖川:そう言っていただくのは嬉しいです。評論や書評も、この人の発見だな、ということがはっきりある文章だけではなくて、何か新しい事実があるわけじゃないけど、すごく気になるフレーズが出てきて読むと触発を受けるということもありますよね。この本で私は発見をバシバシしているわけではないですけど、読んで本格ミステリーというものがもっと好きになるというか、より気になる存在になってくれればいいな、と思うんです。

杉江:最後にもう一つだけいいですか。有栖川さんがこれまで解説を手がけていない作家で誰か一人書くとしたら、どなたを選ぶかお聞きしてみたいんです。

有栖川:ああ、改めて聞かれると難しいですねえ。普段考えたことがないですから。

杉江:そこを強いて挙げるなら。

有栖川:有栖川有栖。

杉江:あ、なるほど。それ、いいですね。

有栖川:デビュー作の『月光ゲーム』は、私としては不可解なところがあるんです。もしかすると何を書いたか自分自身がわかっていないんじゃないかと。もちろん小説家が自作を解説するなんて興ざめですから、『月光ゲーム』が他人の作品だったら解説を書いてみたい、という架空の設定です。あの小説は抜かりなく見事に書き上げた作品からは程遠いけど何か引っかかるものがあるんですよ。デビュー作を再読するなんて気恥ずかしくてまいりますが、やってみたら「こ、これは!」とびっくりするかもしれない。

杉江:おおっ。

有栖川:それとも「なんでここで駄目出ししてくれなかったんですか」と当時の編集者さんをうらむか、ですね(笑)。

作品紹介・あらすじ
『論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集』



論理仕掛けの奇談 有栖川有栖解説集
著者 有栖川 有栖
定価: 990円(本体900円+税)
発売日:2022年03月23日

一生に一度は読みたいミステリがここに。ファン必携のミステリ・ガイド!
クリスティー、クイーンなど、海外の古典的名作から、松本清張、綾辻行人、皆川博子、今村昌弘など日本のミステリまで……。新しい才能への目配りを常に忘れない、本格ミステリのプロフェッショナルが愛をこめて執筆した、国内外の名作に寄せた解説集! 優れたミステリ・ブックガイドとしても最適の1冊。単行本刊行後に新たに執筆した解説3本と、杉江松恋との読書対談も加えた文庫増補版。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322109000640/
amazonページはこちら


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