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レビュー

女の子たちの怒りと悲しみとよろこび――『日本のヤバい女の子 覚醒編』はらだ有彩 文庫巻末解説

角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開! 
本選びにお役立てください。

日本のヤバい女の子 覚醒編』はらだ有彩



『日本のヤバい女の子 覚醒編』はらだ有彩 文庫巻末解説

解説 女の子たちの怒りと悲しみとよろこび

なかじま きよう(小説家)

 はらだ有彩さんとはじめてお会いしたのは、二〇一八年の暮れか、二〇一九年の初めくらい、わたしがとある雑誌で対談ページを担当していたころのことで、はらださんにはその企画のゲストとして来てもらって、お話をうかがったのだった。まさに、『日本のヤバい女の子』についてだ。この本は、はらださんのデビュー作にあたる。
 はらださんは、フェミニストのお母さんと、老舗のおせんべい屋さんを継いだ楽しいお父さんのもとで育ったそうだ。テレビで女性差別的なCMが流れたりすると、きっちり怒り出すお母さんだそうで、お父さんや弟さんがうっかり女性を軽視する発言をすると、厳しく問い詰められるらしい。でも、そんなお母さんに鍛えられつつ、人生を共にしているおせんべい屋のお父さんは、とても柔軟な思考の方のような気がする。はらださんの中には、芯のしっかりしたフェミニズムと、いろんなことをユーモアセンスたっぷりに眺めるおおらかさが同居している。
 その後、お食事する機会などもあって、はらださんと話すといつも、とても楽しかったのだけれど、コロナもあったから、ずいぶんご無沙汰している。楽しいのは、お話がふわふわといろんな方向にふくらんでいって、とても気分が解放されるからだと思う。なにかについて怒ったり、あるいはよろこんだり、笑ったりする感情が、のびのび居場所を見つけられるのだ。それは、本書を読んでいるうちに、読者の方にも共有されてくる感覚だろうと思う。
 昔話の女の子たちの行動を、現代を生きるはらださんが解釈していく、というエッセイなのだが、読み手は、そうだよ、そうだよ、まさにそのとおりだよ! と思えるものもあれば、そ、そうかなあ、そうなのかなあ、わたしはまた、別の解釈があるような気もするけど、と思うこともあるのではないかと思う。でも、いずれにしても、昔話の主人公たちが、なんだか友だちのように思えてくるのだ。それは、はらださんが彼女たちをそのように遇しているからなのだけれども、はらだ目線で彼女たちの行動をいっしょに分析しているうちに、まさに、はらださんとの会話を楽しむようにして、自分ならどう考えるか、自分が昔話の主人公だったらどんな行動をするか、そんな思考に、読者は自然にうながされることになる。それが、本書のユニークさであり、特別な魅力なのだとわたしは思う。

 昔話とか、たとえば歌舞伎の筋書きとか、そういうものに接すると、昔の女の人はたいへんだなあとか、とっても理解できないな、と思うことにぶつかる。女だからって、そこまで我慢するかなあとか、古臭くって耐えられないわ、とか。
 ふつうの人は、そこでもう、その古いお話からは離れて、理解できないもの、というカテゴリーに入れっぱなしにしてしまうものだが、はらださんはそれらを敢えて、どうにか理解してみようとする。
 はらださんが最初に書いたという「変身とヤバい女の子──清姫(安珍・清姫伝説)」を例にとってみよう。
 旅の僧・安珍が一夜の宿を借りた家の娘・清姫に猛烈に好かれてしまい、「熊野三山への参詣を終えたら戻ってきて夫婦になる」と、出まかせの口約束をしてバックレた。噓を信じた清姫は、安珍を追って、追って、追いかけて、騙されたと知ると、とうとう蛇になり、安珍が隠れていた道成寺の鐘に巻きついて火を吐き、安珍とともに焼き尽くし、自分は海に身を投げる──。
 恋をした女の一念はこわいとか、清姫ストーカーか、とか、まあ、いろんなことを言われつつ、千年以上前から語り伝えられている恋の物語だ。
 でも、はらださんは、この二人の物語の最後に、オープンカーを運転して海を見に行く一人の女の子の絵を添えているのだ。そう、この子が清姫だ。安珍への執着も、鐘を焼く業火もない。「体が軽い。夏の水田がざっと広がりとても眩しい。山が青い。風が気持ちいい。もうすぐ、海が見えるよ。」という文章が添えられている。え? なに? 安珍・清姫の話が、どうなるとここに到達するわけ?
 もちろん、いま、わたしは、間をすっぽかして書いたから、わけがわからなくなっているのだけれども、道成寺の鐘炎上から、「海が見えるよ」に持っていく、はらださんの想像が、とてもいい。とてもいいのだ。
 清姫は、安珍に騙された。それで怒って蛇になる。そこではらださんは考えるのだ。「蛇は女の子よりも魅力的でないものなのだろうか。蛇になるのは哀れなことなのだろうか」と。
 清姫は失恋してわれを忘れ、しかし、いままで知らなかった自分に気づいたのだと。「過去の清姫には川を渡る力も火を噴く力もなかったのに、今はできる。彼女は確かに挫折したが、同時に予想もしていなかった成長を遂げた」と。
 ああ、そうだ。そういうことはある。失恋というのは、ほんとにつらい、痛い、経験である。でも、その痛みの中で、自分にはなにか、それまで知らなかったパワーがあることを知るというような体験に、覚えのある人は多いんじゃないだろうか。月並みだけれども、長い髪をばっさり切る決意をするとか、腐れ縁の男と別れるために海外留学を決めるとか。あるいは、たんに、自分を騙していた男に強烈な怒りをぶつける行為そのものが、それまでしずしずと男に都合よくおとなしくしていた自分からの解放であるというようなことを、わたしたちは体験的に知っていないだろうか。
 もしも、「蛇に変わる」というのが、ある種の「成長」であるならば、清姫は安珍に執着して受け入れられなかった痛みを超えていけるのではないかと、はらださんは言うのだ。髪を切り、一人でスポーツカーを運転して海を見に行く強さを、清姫は身につける。それは、一度、強い怒りと悲しみをくぐらなければ得られないものだ。人は、いつまでも「女の子」ではいられない。
 そんな、はらだ目線で見ると、昔話の女の子たちの奇妙で不可解な行動は、理由のあることに思えてくる。友だちのような気がしてくる。
 そして、自分が壁にぶち当たったときに、「いまだよ。蛇になっちゃいなよ」なんて、助言をくれる存在にすら思えてくるのだ。
 ヤバい女の子たちは、こうして、あなたの味方になるのである。

作品紹介



日本のヤバい女の子 覚醒編
著者・イラスト はらだ 有彩
定価: 792円(本体720円+税)
発売日:2021年09月18日

ヤバい、つまり、最高。人生の波を乗り切るため“ヤバい”女子の声を聞け!
日本の”昔話”には、過激な女の子が登場する。説明もなく危険な玉手箱を手渡す「乙姫」。夫と喧嘩して現世の人の命を奪う「イザナミ」。男装して宮廷で働き、女性を妻とした「女右大将」――彼女たちは”ヤバい”変わり者だったのだろうか? 物語が女の子に貼りつけたレッテルを丁寧に剥ぎ取り、一人の人間としての姿を文章とイラストで描き出す。現代に生きる私たちが固定観念から自由になり、たくましく生きるための覚醒の書!
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000330/
amazonページはこちら


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