角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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下村敦史『コープス・ハント』
下村敦史『コープス・ハント』文庫巻末解説【解説:大矢博子】
解説
全編を視覚障害者の〈視点〉で描いた
ジャンルや舞台だけではない。ミステリとしてのトリックやギミックでも、「そんな手で!」と読者を
しかし、次々と新たなことにチャレンジしているようでいて、そこには変わらぬ
本書もまたその例に漏れない。本書の芯は「自分で思う自分」と「他者から見た自分」の関係にある。
著者の十五作目の作品となる『コープス・ハント』は、ある事件の様子を描くプロローグを経て、裁判の場面から始まる。
八人もの女性を殺害したとして、
この筋とは別に、本書にはもうひとつ別の筋がある。不登校の中学生ユーチューバー、
宗太は夏休みに、尊敬する先輩ユーチューバーのにしやんに誘われ、高校生ユーチューバーのセイと三人で千葉の森に〈遺体捜し〉に出かける。にしやんによれば、遺体の隠し場所について
というふたつの筋が並行して語られるなかで、このふたつがどこでどう絡むのか、それがまず読みどころとなる。まったく予想外の方からやってくる真相には驚くこと請け合い。慣れたミステリ読者はもしかしたらある程度の見当をつけられるかもしれないが、サプライズはひとつではない。畳みかけるような展開が待つ、実にテクニカルなミステリなのである。
が、その前に。この宗太のパートに注目願いたい。このパートがすさまじくいい青春小説なのだ。そしてこの青春小説パートが本書全体の根幹を成しているのである。
四人の少年(少女)、森での遺体捜し、ひと夏の冒険──とくれば、まず思い浮かべるのは映画にもなった青春小説の金字塔、スティーヴン・キング「スタンド・バイ・ミー」(新潮文庫『スタンド・バイ・ミー 恐怖の四季 秋冬編』所収)だ。
実際、作中にも「スタンド・バイ・ミー」のタイトルに言及する場面があり、宗太のパートは「スタンド・バイ・ミー」を下敷きにしているのは明らかだ。「スタンド・バイ・ミー」で遺体捜しに出かける少年たちの動機は「死体を見つければ有名になれる」で、再生数を稼ぎたいという宗太たちに通じる。共通点はそれだけではない。冒険に興じながらも、常に心を
宗太は自分に自信が持てず、人気者のにしやんやクールなセイに
自分がどういう人間なのか、それを決めるのは誰なのだろう。自分か、それとも他者か。他者に押し付けられた価値観に
ミステリの真相にかかわるので具体的には書けないのだが、この物語が問いかけるのは、自己に対する評価を他者に
すべての真相が明らかになったとき、物語のあらゆる要素が、自己と他者の関係へと
他者を排せよというのではない。自分勝手になれというのでもない。スタンド・バイ・ミーは「そばにいて」「私の力になって」という意味だ。同一視するのではなく、押し付けるのでも押し付けられるのでもなく、それぞれが個として立ち、認め合い、支え合う。その理想に向けての闘いを、本書は描いているのだ。
〈遺体捜し〉の果てに宗太が見つけたものは何だったのか。折笠が
作品紹介・あらすじ
コープス・ハント
著者 下村 敦史
定価: 814円(本体740円+税)
発売日:2022年02月22日
事件を追う刑事と、遺体探しをする少年達。彼らが辿りつく衝撃の真実とは。
「1件は俺の犯行じゃない。“思い出の場所”に真犯人の遺体を隠した。さあ、遺体捜しのはじまりだ」8人を殺害したとして死刑判決を受けた猟奇殺人鬼・浅沼聖悟の告白は世間を震撼させた。事件に疑問を抱く刑事の折笠望美は真相解明に乗り出す。一方、引きこもりの中学生・福本宗太は動画配信仲間から誘われ「遺体捜し」に出かけるが……。2つの物語が交わる時、驚愕の真実が浮かび上がる。予測不能のサスペンス・ミステリ。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322110000634/
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