角川文庫の巻末に収録されている「解説」を特別公開!
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梶 よう子『お茶壺道中』
梶 よう子『お茶壺道中』文庫巻末解説
解説
近年、一作ごとに充実の度合いが増している
作品は、天下を揺るがす日本地図の海外流出、すなわち、シーボルト事件を新たな趣向で描いた時代サスペンス小説である。
主人公は、
作品のテーマは、情報を制する者は天下を制するという極めて現代的なものだが、いい加減な風聞によって父を失った由蔵が自らに課しているのは真実を見極める事。
時にハードボイルドタッチで描かれる由蔵の闘いには、思わずページを
『お茶壺道中』は「小説 野性時代」一五八号から一七一号まで連載された『茶壺に追われて』を加筆修正したものを改題し、二〇一九年三月、KADOKAWAから刊行された作品である。
作者は第一章「葉茶屋奉公」冒頭で、
が、時は幕末、物語は仁吉のそうした変わる事のない思いと、変わっていく時代の有様を対比的に
そして仁吉は、
仁吉は、森山園の
ここからは、森山園の人間関係や多彩な登場人物について触れなければならないので、解説の方を先に読んでいる方は、是非とも本文に移って頂きたい。
さて、森山園には婿の菓子屋の三男
そんな折、仁太郎は、太兵衛につれられて得意先である旗本・
この外国奉行から老中までを歴任する阿部と仁太郎との出会いは、
この他にも、仁太郎が面倒をみている
次なる第二章「湊の葉茶屋」は、軽く済んだが、太兵衛が卒中で倒れ、以後、婿の恭三に名を譲り、一切合財店の事には口を出さないと決める話から始まる。
隠居となった太兵衛、改名して
また、横浜を目指す仁太郎一行は、当時、神奈川奉行の阿部の体調が優れず、ためにおきよを横浜まで同道させる事になる。
歴史的事件としては、
そして利吉は横浜へやられ、父親の
第三章「変わりゆく茶葉」から第四章「将軍の茶葉」では、まず仁太郎の良きライバルとも言える
この章では、阿部正外が、今度は北町奉行から
そして仁太郎が仮祝言の礼に、白河藩上屋敷を訪ね、
「将軍家の威光が保てなければ、御茶壺道中が消えます。それはすなわち、茶処宇治の誇りも失われることになります。この泰平の世さえも。私はそれが悔しくてなりません」
と言った時、阿部は、
「誇りを捨ててはどうかな。宇治の茶は天下一だとお前はいった。それはなにも上さまのお口に入るからだけではなかろう。お前は宇治の茶を多くの者に味わってもらいたいと思っていたはずだ。自身の茶を信じてやれ」
と答えた。
そして
幕末の動乱──決して長くはないはずだが、人々にとって、その先の見え無さと共に、これほど長く感じられた時も無かったのではあるまいか。
その中を、己の茶を信じ、まっすぐに歩いていった仁太郎の姿は、妻おきよをはじめとするその同伴者達とともに深い感銘を与えずにはいないだろう。
我が国の歴史・時代小説史上、御茶壺道中をテーマとした作品は、本書が初めてである。さらに個人と歴史をダイナミックに交差させる作者の手法は、一方で、一軒の葉茶屋から見た歴史という繊細さをもって、その歴史の日常すらをもあぶり出している。こんなはなれわざが出来るのは梶よう子ならではであろう。
作品紹介
お茶壺道中
著者 梶 よう子
定価: 946円(本体860円+税)
発売日:2021年11月20日
お茶を愛する少年の成長と挑戦を描く、天下一の絶品時代長編!
優れた味覚を持つ仁吉少年は、〈森山園〉で日本一の葉茶屋を目指して奉公に励んでいた。ある日、大旦那の太兵衛に命じられ上得意である阿部正外の屋敷を訪ねると、そこには思いがけない出会いが待っていた。
詳細:https://www.kadokawa.co.jp/product/322104000327/
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