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レビュー

【レビュアー:山里亮太】一軍との戦いが見せてくれたもの『青くて痛くて脆い』

 住野よるさんの作品との出会いは、『君の膵臓をたべたい』を加藤浩次さんに薦められたことだった。ボロボロ泣いたし、言葉の選び方や並べ方に惹かれて、その後出た本は全部読んだ。だから新刊は、冴えない男の子と活発な女の子の物語で、ひょっとして大きな別れが来るのかな、『膵臓』のテイストかな、なんて思いながらページをめくった。

 主人公の楓が大学入学直後に出会った秋好は、空気の読めない痛い女の子。楓も最初はバカにしていたのに、だんだん「僕もこうありたかった」という、異彩を放てる秋好への憧れが見えてくる。二人がモアイを結成するころには、異才・奇才を受け入れた自分も天才になれたような、隠しきれない高揚が感じとれた。そんなところが、僕とシンクロした。

 でも二人の日々は長く続かなかった。ここでまず驚いた。秋好がいなくなって、いつの間にかイケてる奴らの大サークルになってしまったモアイを、友達や後輩とぶっ潰すことが楓の目標になる。敵は侵略者でも悪徳銀行でもなく、キラキラした〝一軍〟の人たち。楓と一緒になってどう潰すかを考えたり怒ったりしながら、僕が一番見たかった戦いはこれだったんだ! と、引き込まれていった。チャラチャラしたバーベキューに行って内心バカにして、一軍のやることを否定することで自分の存在を確認する楓が、また僕とシンクロした。

 そんな大学生の日常が、ある瞬間、たった数行の文章で、がらっと景色を変える。そこで物語が加速する。

 驚いた。住野さんは、また新しい表情の本を見せてくれるんだ。

 そこからは胸が苦しくなって、自分に重なるものを見つけては辛くなるし、走り続ける楓と同じ方向の苦悩をする。僕たちが一番戦っている相手は、こんな自分をどう処理したらいいんだろうってことなんじゃないか。自分にレッテルを貼って相手を敵とみなし、戦うことで逃げていたんじゃないか。人を傷つけていたことにも周りが手を差し伸べてくれていたことにも無自覚だった自分にじんわりと気づいて、シンクロ率がとんでもないことになっていく。これはただの青春モノじゃない。大学生の話として読んでいるはずなのに、あの頃を振り返るようにじゃなく、自分の今の状況や周りの人をうっすら重ねて読んでしまう。こんなに本の中に入って、感情を動かされ続けたのは初めてだった。

 そして僕は、楓だけでなくどの登場人物にも自分を重ねられた。イケイケ軍団側の視点で、自分は楓にこう立ち向かうと考えたり、他人にはこう映っていたのかと気づいたりもした。それぞれの立場でそれぞれの気持ちを知ることができるから、全世代の全員が、この小説の中に入り込める。

 人と関わる上で、一番簡単なやり方は関わらないことだ。僕たちはいろんな言い訳を作って、その甘えた選択肢を取ろうとする。住野さんは楓の姿を通して、違う物事の捉え方にやさしく気づかせてくれた。「自分なんか」という言葉でいろんなことを躊躇している人や、「自分の周りは敵ばっかりだ」と悩んでいる人に、この本を薦めたい。きっと自分で作ってしまった心のブレーキをぶっ壊してくれるだろう。

 ラストをどう捉えるか、読んだ人が住野さんの投げたボールをどう扱うかで、これからの生き方が変わるかもしれない。これは、最後まで物語に付き合ってくれた読者へのご褒美だ。僕は、人生の選択肢が増えたように感じる。綺麗に輝いているけれど、まだ怖くて選ぶことができないその選択肢を、もしいつか選ぶことができたら、もう一度この本を読みたい。

 本を読んでいると、自分の心の割れ目のようなところに、ストンと入る時がある。『青くて痛くて脆い』もそんな一冊だった。最後の一文は、今僕にもっとも必要な言葉だったと思う。


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