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レビュー

物語を貫く「外国人から見た日本」という視点。『猟犬の旗』

【カドブンレビュー9月号】

カドブンを訪れて下さってる皆さま、こんにちは。
夏休みも終わり九月になってしまいましたが、皆さまいかがお過ごしでしょうか?
自分は久しぶりに行ったヨーロッパの思い出にひたりながら、湯河原で文章を書いたり、カドブンのイチオシ本を楽しく読んだりしていました。
今回、紹介するのは芝村裕吏著『猟犬の旗』。
さあ、どんな話なのでしょうか、楽しみ楽しみ!

さてさて。
主人公はペルー系の外国人。
日本国内の平和を保つため、政府の情報機関に仕える猟犬スパイです。
物語は、そんな主人公が休暇中に電車内の爆弾テロを防ぐところから始まります。
なんと、爆弾を仕掛けた犯人を湯河原駅の階段から突き落とし、殺してしまうのです。
信じられますか?! うちの近くの、あの湯河原駅ですよ!
と興奮して思わず話がそれましたが、その爆弾テロは未曾有の大規模テロの始まりに過ぎず、その全容を解明すべく主人公が調査を進めていくと、首謀者は日本に不満を抱く外国人グループであることが明らかになっていく……
みたいなお話です。

一人称、ドライな描写、主人公は影のあるタフな男。
そんな小説は数多く存在しますが、この小説をありがちなハードボイルド・アクション小説から隔てる要素の一つは、各所に散りばめられたディテールでしょう。
「野菜」「網屋」などの符丁、乗り換えていく車の情報、即席の防弾チョッキや武器の作り方、「仕事柄禁止されているカレー」、「新宿を追われたロシアンマフィアは錦糸町に移動した」など、どこまでが現実でどこからが創作なのか分からない細かい描写がリアルで、かつ愉快です。
そしてもう一つは、この物語を貫く「外国人から見た日本」という視点でしょう。

冒頭に書いたように、久しぶりにヨーロッパに行って来たんですが、そこで感じたのは、「日本ほど外国人の存在が特異ではない」ということでした。
排外的な人間はもちろんいますが、全体的には「異なる文化的背景を持った人達がそれぞれの違いや生き方を(好き嫌いは別として)容認しながら、ともあれ一つの社会を作っている」という印象を受けます。
一方日本はどうでしょう?
恐ろしく少ない難民の受け入れ人数、作品内にも出てきますが「技能実習制度の名のもとに労働法の外にいる外国人労働者」、そして同じ国に住みながら暗然と存在する「ガイジン」という名の国境。
もし日本が「人情に厚い、優しい国」だなんて思うなら大間違いで、外国人に対しては非常に冷淡な国だと思います。
日本の旗に忠誠を誓う猟犬スパイでありながら、テロを首謀した外国人グループの気持ちも分かる。
主人公はそんな相反する思いを抱きながら、どう自分に折り合いをつけて、この国を守ってくれるのでしょうか?

この国に住む人々にとって──国籍や文化的背景がどこであれ──日本が愛するに値する国であって欲しい。
そんなことを思った一冊でした。

余談ですが、この小説は一人称で書かれています。
とても映像的な作品なので映画化されるかもしれませんねえ。
でも一人称ということは、主人公はほぼ全てのシーンに登場するので、撮影スケジュールは本当にきついだろうな……
なんてどうでもいい心配をしてしまいましたw

ちなみにこの作品は『猟犬の國』の続編となるのですが、『猟犬の國』には同著者によるシリーズ『マージナル・オペレーション』の、あのキャラか?という人物も登場しているので、気になる方はそちらの方もチェックしてみて下さい!!

★池内さんの朗読レビューも併せてお楽しみください。


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