北海道の東、海辺の町で羊を飼いながら小説を書く河﨑秋子さん。そのワイルドでラブリーな日々をご自身で撮られた写真と共にお届けします!
>>【第17回】「羊は産まれた、桜はまだかいな」
近くにはソ〇トバンクの電波塔が建っている(しかし筆者のスマホはド〇モなのであまり恩恵がない)

近くにはソ〇トバンクの電波塔が建っている(しかし筆者のスマホはド〇モなのであまり恩恵がない)

 桜が咲いたと思ったらすぐに散り、すでに気配は初夏だ。牧草も青々と生えそろったところを見計らって、今年も牛羊の放牧が始まった。彼らは敷地内の放牧地で、秋の終盤まで昼夜好きなように草を食べて過ごす。 
 観光客がイメージする北海道の風景そのものだ。まさに『なつぞら』の世界。草刈正雄氏のようなナイスじじいの不在が惜しまれるところだ。
 しかし実は、畜産の現場ではこうした放牧飼育は少なくなってきている。酪農地帯をドライブしてみると分かるが、青い空、緑の牧草地、整った畜舎施設があるにもかかわらず、牧草地に牛の姿が見えない、ということがままある。
 そういう牧場は、家畜はみな大きな畜舎の中で過ごしている。彼らは成分等を調整された牧草・飼料を決まった分だけ食べて過ごしているのだ。牧草地があるんならそこに放せばいいじゃないか、と思われるかもしれないが、実はこの方が放牧飼育よりも乳量・乳質は安定する。また、草地を踏み荒らされることがないため乾草の収量が増えるというメリットもある。
 また、乳牛ではなく肉牛・肉羊で肥育をかけているのであれば、そもそも青草は与えず、乾草と濃厚飼料を食べ、畜舎でできるだけ大人しく過ごさせて運動量を減らし、脂を増やしている。
 放牧と畜舎飼い、どちらが正しいのか、生産物が美味しいのか、というのはケースバイケースだ。うちは青草で育った牛の乳から作ったチーズや、牧草地でよく動いて筋肉をつけた羊の肉を売りにしているから放牧飼育を選択している。一方、畜舎飼いで安定した乳質の牛乳を安定した量で確保できることのメリットは現代の農家にとっては大事なことだ。ようは農業者の信念と消費者の需要によって決まる。
 とはいえ、あくまで個人的に、私は牛や羊が牧草を食べるのを見ているのが好きだ。毎年、初の放牧に出せるこの時期はいつもほっとする。願わくは、消費者の側にこれからも放牧酪農や放牧羊のニーズがあり続けてくれることを。


河﨑秋子(かわさき・あきこ)
羊飼い。1979年北海道別海町生まれ。北海学園大学経済学部卒。大学卒業後、ニュージーランドにて緬羊飼育技術を1年間学んだ後、自宅で酪農従業員をしつつ緬羊めんようを飼育・出荷。
颶風ぐふうの王』で三浦綾子文学賞、2015年度JRA賞馬事文化賞、『肉弾』では第21回大藪春彦賞を受賞。

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書籍

『颶風の王』

河﨑 秋子

定価 605円(本体560円+税)

発売日:2018年08月24日

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    書籍

    『肉弾』

    河﨑 秋子

    定価 1728円(本体1600円+税)

    発売日:2017年10月06日

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