待って! もう12月とか、そんな悲しい言葉は聞きたくないの、もっと自分を大事にして……みんなで願えば世界はきっと変わるはず……さあ、ご一緒に「11月は40日まで」!
とかいう寝言はともかく。
KADOKAWA文芸編集部では今年たくさんの話題作を送り出しており、全点くまなくおすすめしてはおりますが、今激烈に忙しくて時間がないあなたのために「何がどうなってもこれだけは今年中に読んでおかないと年明け本好きフレンズと盛り上がること不可能」(長いよ)な5冊をご紹介しておきます。
『四畳半タイムマシンブルース』
著者 森見 登美彦 原案 上田 誠
「宇宙のみなさま、ごめんなさい」
突然そんな雄大に謝られても、と思うわけですが、謝られるだけの事態はすでに起きてしまったのです。
死ぬほど暑い8月の京都、無為に無為を重ねる青春、そこへ突然現れたタイムマシン。
渡りに船と水没したクーラーのリモコンを求めて大学生たちは昨日へGO! しかしメンバーの何人かが勝手に過去を改変して世界は消滅の危機を迎えてしまいます。そして、主人公がひそかに想いを寄せる彼女がひた隠しにする秘密とは!?
宇宙規模の破滅あり、青春の光と影と屈託とうっとおしい友情あり、ラブでコメな展開あり、盟友・ヨーロッパ企画の上田誠とのコラボレーションにより、森見登美彦作品最大のスペクタクルが爆誕。コロナも年末進行も吹き飛ばす面白さと、期待を超えるラストを是非味わってください。
『盤上に君はもういない』
著者 綾崎 隼
全員号泣! というオビに偽りなし。編集長も編集者も校正者もデザイナーも書店員さんも読んでくださった方々もみんなを泣かせた、綾崎さんは本当に悪い人です。
かくいう私もこの小説のあのシーンで、みなさん同様泣きまくった者ですが、しかし敢えて書く。この小説の凄さはそれだけじゃないんだ!
「負けたくない敵がいる。誰よりも理解してくれる敵がいる」
そう、目の前にいつも立ちはだかるあいつが、あいつだけが、あいつこそが、自分の理解者で宝物で存在証明。そんな相手、あなたにはいますか?
将棋界初の女性プロ棋士を目指す二人の天才、千桜夕妃と諏訪飛鳥。どんな運命よりも固く結ばれた二人、お互いとの闘いと、それぞれの人生で闘い取ってゆくもの、そして失うもの――彼女たちの闘志はいつしか読み手の魂に着火して、いつまでも燃え続ける。流されやすくくじけやすい我々の背中を、大切なときに支えてくれる一冊です。涙の後は再読して燃え上がれ!
▼『盤上に君はもういない』詳細はこちら
https://www.kadokawa.co.jp/product/322002000999/
『この本を盗む者は』
著者 深緑 野分
言わずと知れた年内最大の話題作。本嫌いの少女が本の世界を冒険する、んもう『モモ』とか『はてしない物語』とかがお好きな方にはたまらない小説です。
そもそも著者・深緑さんの描く人物は、いつも自分という存在の小ささ、世界(=戦時下、=家族、=身分や環境)を前にした無力感をリアルに「痛み」として抱いていると思うのです(本作の主人公・深冬の「本なんか大嫌い」という言葉は、その痛みを実感するものの精いっぱいの叫びかもしれません)。そんな彼らが、それでも立ち上がり、なにかを為そうとするとき世界は手ごわく、時に残酷で、巨大です。巨大なものと対峙する主人公をふるい立たせるのは常に、横にいる誰かとの連帯と、人間を人間につなぎとめる、ささやかで大切な日常のあれこれです。
また、ここに描かれているのは本についての呪いと祝福の物語でもあります。本がいかにひとを支配し、ときに拘束し、そしてこの世で最も強い「自由」をもたらすのか。
なぜ自分は本が好きなのか。ひょっとしたら本なんて読まないほうが物事はシンプルで、友達とも話が合って、囚われるものもなくて、幸せなんじゃないだろうか? 「本好き」の誰もが、一度は抱いたことのあるそんな疑問に、本作はそれぞれの答えを出してくれるのです。
本に没入した「あのとき、あのころ」の話であり、小説であると同時に、我々すべての中で起こったときめきのノンフィクションです。
『Another 2001』
著者 綾辻 行人
どうしよう。何も書けない。
わたくし無印『Another』からの読者ですし、そういう者にはあまりといえば胸熱な展開(そして恐怖)のオンパレードなのですが、この本から読んでもめちゃくちゃ面白いんですよ! そしてむしろ今初めて読もうとしている人がうらやましくてたまらんのですよ! そういうあなたに何を情報として渡すか、何がネタバレで何がネタバレじゃないのか。ええいいっそ真っさらのまんま向かい合ってくれ、そしてワクワクしてときめいて震えて慄いて驚愕につぐ驚愕を味わってくれ、その後語り合おうぞ! と思うわけですが、そうもいかないのでちょびっとだけあらすじを。
山に囲まれた静かな地方都市の中学校、夜見北中三年三組にはある秘密があります。
〈死者〉がクラスにまぎれこむ〈現象〉と、それによってクラスの生徒と家族が理不尽な死を遂げる〈災厄〉が起こる年があるのです。かつて〈災厄〉からサバイバルした「死の色が見える少女」見崎鳴と、彼女と不思議な縁で結ばれた少年・想。彼らを襲う死の連鎖、そしてこの年、夜見山史上最凶の〈災厄〉が始まってしまい――。
日本のホラー&ミステリの巨匠が満を持して放つ、渾身の1200枚! 人呼んで「鈍器」(著者公認呼称)。この厚さで、年末ランキング締め切りギリギリの9月末に出たにも関わらず、ほぼすべてにランクインしているモンスター級の面白さです。
『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯』上下
著者 伊集院 静
年末、成人した日本人の97%は忠臣蔵のことを考えているという統計があります(まわりの人たちに突然のアンケートを敢行)。
武士(騎士)道、傷つけられた誇りと喪った故郷、愛と別離、権力の暴虐、それでも折れぬ志、そして決起――と、日本のみならず全世界共通な王道のエピソードが満載、そりゃ魂に刻まれもするでしょう。しかし実のところ「忠臣蔵」をきちんと読んだことがある人は意外にも少ない。本当はどんな物語なんだろう――?
と興味を持たれたあなたはなんてラッキーなのだろう。21世紀も20年目の今、決定版の「忠臣蔵」が登場したのです。著者は直木賞作家にして選考委員、というとめちゃくちゃハードルが高い存在に思えるかもしれませんが、実は『いねむり先生』はじめ数々のコミックの原作者でもあり、かの「ギンギラギンにさりげなく」の作詞家でもあります。そんな人が書く日本最大の復讐劇、面白くないはずがない!
幼少期、「弱虫竹太郎」と呼ばれた大石良雄=内蔵助は、師・山鹿素行の教えを受け、二十一歳(江戸の男はとても早く大人になる)で赤穂藩の家老となりました。藩主・浅野内匠頭の清らかな心に惹かれながらも、危うさを感じ取る良雄。やがてその危惧は的中し、元禄一四年「松の廊下」の事件が起こってしまいます。
仇討ちとお家再興の間で揺れ動く武士たち。双方の志と痛みを受け止めた良雄は全てを擲つ覚悟で、ある計画を抱き始めます。自分は、このときのためにこそ生まれたのかもしれない――そして彼の計画を影で支える四十八番目の志士の正体とは?
これを読まなきゃ年を越せない小説ナンバーワン、徹夜してでも読むべし!(いや、読み始めるとやめられなくてどのみち徹夜します)
▼『いとまの雪 新説忠臣蔵・ひとりの家老の生涯 上』(12月18日発売)書誌情報はこちら
https://www.kadokawa.co.jp/product/321903000378/
KADOKAWA刊・文芸単行本一覧(2019年12月~2020年11月)
(文・カドブン季節労働者K)