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特集

「主人公の少年・想に、自分がシンクロしてしまったような」綾辻行人『Another 2001』インタビュー

撮影:迫田 真実 撮影協力:ウェスティン都ホテル京都  取材・文:朝宮 運河 

学園ホラー&ミステリの金字塔『Another』から約11年、シリーズ待望の新作『Another 2001』がついに姿を現す。前2作とはまったく異なるベクトルから未知の恐怖と驚きを描き出した、原稿用紙換算1200枚超の大作にして傑作だ。刊行を記念し、著者・綾辻行人さんにお話をうかがった。


――Another エピソードS』から七年、シリーズ三作目となる『Another 2001』がついに刊行されます。前作に登場した少年・比良塚ひらつかそうが主人公の新作は、どのように生まれたのでしょうか。


綾辻:二〇〇九年に上梓した〝無印〟の『Another』は当初、単発作品のつもりだったんですが、ありがたいことに刊行直後から意外なほどの反響がありました。漫画化、TVアニメ化、実写映画化と複数のメディア展開も実現して、それまで僕の作品を読んだことがなかった人たちにも手に取ってもらえたようです。僕自身『Another』には手応えを感じて、特に見崎みさきめいというキャラクターをもう少し書きたいなという気持ちになったんですね。そこで、サイドストーリー的な位置づけの『エピソードS』を執筆しました。ここまでがワンセットの流れです。

 ところが『エピソードS』を書いているうちに、この想という男の子を主人公にして一作、長編が書けそうな気がしてきたわけです。『エピソードS』のラストで、想が夜見山に引っ越してきたことが判明しますが、あの結末を思いついたのがきっかけだったのかな。「Another」シリーズにはもう一作、続編の構想があるんですが、それよりも先に想の物語を書きたくなってしまった。確かそんな経緯だったと思うんですけど……七年も前のことだからすでに記憶は曖昧ですね(笑)。


エピソードS書影

『Another エピソードS』
角川文庫 定価(本体640円+税)
1998年の夏休み、両親とともに湖畔の別荘にやってきた見崎鳴が出会ったのは、記憶を失い、自らの死体を探す青年の幽霊だった。謎めいた屋敷を舞台に、鳴と幽霊の冒険が始まる。その先に待つ残酷な真実――。『Another』と『Another 2001』の橋渡しとなる、異色の長編。


――想は居心地の悪い実家を離れ、祖父などの暮らす夜見山よみやま市に越してきた中学三年生。三年前、鳴とともにある事件に遭遇した彼は、同世代の少年少女に比べてやや大人びた印象があります。


綾辻:達観しているというのかな、想は〝死〟に対して安易な幻想を抱いていないんです。幽霊や死後の世界なんて存在しない、人間は死んだらそれっきりなんだ、ということを体験的に知ってしまっている。だからこそ、死者を正しく弔うことの大切さを痛感してもいます。『エピソードS』を未読の方は「三年前のあの異様な体験」と言われてもぴんとこないと思いますが、想のキャラクターを描くうえで、あの〈湖畔の屋敷〉での事件の影響は無視できなかった。これはシリーズものの宿命ですね。


――想が春から在籍しているのが、夜見山北中学校の三年三組。約三十年前に起こったある悲劇をきっかけに、たびたび不可思議な〈現象〉に見舞われている呪われたクラスです。


綾辻:このシリーズで描かれている〈現象〉は、何者かの意思によるものではありません。二十九年前に死亡したミサキという男子生徒からして、誰も怨んだり呪ったりはしていない。ただ、クラスメイトたちが死者の送り方を間違えてしまったがために、〈現象〉が呼び寄せられてしまった。ホラーや怪談で描かれる「呪い」はたいてい、人間のネガティヴな想念が背景にあるけれども、夜見山の〈現象〉にはそれがない。「自然現象」に近いものなんですね。人の怨念や悪意が原因だったり介在したりはしない「呪い的なもの」のアイデアを思いついたのは、〝無印〟の大きな収穫でした。


Another書影

『Another』(上・下)
角川文庫 定価(本体各680円+税)
夜見山北中学三年三組に転校してきた榊原恒一は、不思議な雰囲気を放つ同級生・ミサキに惹かれ、接触を試みる。しかし恒一以外の生徒には、ミサキの姿が見えていないらしい。三年三組では一体何が起こっているのか。未体験の恐怖と驚きに包まれる、ホラー&ミステリの傑作。 ※画像リンクは上巻


――新学期初日、教室の席が一つ足りなくなっており、三年ぶりに〈現象〉が始まったと判明。来たるべき〈災厄〉を防ぐため、想たちは様々な思いを胸にある〈対策〉 を講じます。


綾辻:三年三組で何が起こっているのか、中盤まで主人公には分からない〝無印〟と、最初から事情を知っている主人公がそれにどう対処するかが焦点になる本作とでは、物語のベクトルがずいぶん違ってきます。ここまで〝謎〟を前面に押し出さないタイプの長編を書くのは初めてだったので執筆には苦労しました。正直、この試みがうまくいっているかどうか、今でもあまり自信がないんです。大きな〝謎〟で引っ張っていくわけではない前半を〝無印〟のように面白く読んでもらえるだろうかと。──どうでしたか?


――序盤から夢中になって読みました。何かが起こりそう、という不穏な緊張感がたまりません。


綾辻:だったら嬉しいんですが。三年三組にまぎれこんだ〈死者〉が彼女であることは、シリーズを読んできた方ならすぐ分かってしまう。ある意味「出オチ」に近い構成でしょう。この作品で一番書きたかったのは三部構成の最終パートなんですが、そこに至るまでをどのように面白く書けるか。色々と工夫はしたつもりですけど……いや、かなり大変でした。


綾辻行人さん

綾辻行人さん


――叔母を〈災厄〉で亡くしている矢木沢やぎさわ暢之のぶゆき、生物部部長の幸田こうだ俊介しゅんすけ、想に思いを寄せる葉住はずみ結香ゆいかなど、想を取りまく面々も個性豊かで、極限状況における青春小説としても読み応えがあります。


綾辻:中学生を主人公にしたことで、結果的に青春小説の色合いが濃くなった、という順番だと思います。そもそもこのシリーズで中学三年生を描いているのは、十四、五歳の頃の〝不自由さ〟が物語によく合うと考えたからです。高校生だったら、〈災厄〉に巻き込まれる前に街から逃げ出しちゃうでしょう。中学生には心理的にも社会的にも、そこまでの自由がない。二〇〇一年を舞台にしてはいますが、この時代の中学生はこうだった、と限定的な描き方はしていません。〝無印〟のときからそうでした。いろんな世代が共通して抱く〝中学生像〟をうまく書ければいいな、という考えがあったので。


――高校三年生になった鳴が、姉のようなポジションで想に助言を与える、というファンには嬉しい展開もあります。


綾辻:僕自身、見崎鳴というキャラクターは大好きですから。〝無印〟から数えると十年以上も付き合っているわけで、自然と愛着も湧いてきますしね。今回は想の一人称語りということもあって、鳴に憧れと信頼を抱く彼の心に、自分がシンクロしてしまったような感じだったかも(笑)。前二作から作中時間で三年が経って、ちょっと大人びた鳴を書くのも、なかなか楽しい経験でした。



――これまで試みられたことのない〈対策〉を講じた三年三組。しかし彼らの願いもむなしく、ついにクラスの関係者が一人、また一人と理不尽な死に吞みこまれてゆきます。


綾辻:〈対策〉がうまくいってしまうとホラーにはならないので(笑)、結果として失敗することになります。阻止できたかに見えた〈災厄〉が実は……という前半の流れをじっくりと書くのも、思い返すと結構しんどかったですね。連載が長引いてくると、「館もののミステリのほうが書きやすいなあ」などと泣き言を言ってました。ホラーを書いていると本格ミステリが書きたくなるし、本格を書いていると……って、要は目前にある難題からの逃避ですが(笑)。〈災厄〉による様々な〝死に方〟は、このシリーズのひとつの見せ場でもあります。使えそうな〝死に方〟をあれこれ考えてストックしておいて、盛り上がる順番を計算しながら後半に配置していきました。


――鳴や〈現象〉を観察する千曳ちびき先生の助言を得ながら、想は〈災厄〉を止める手がかりを求めて奮闘します。その凜とした姿に胸を打たれました。


綾辻:強がりなんですよね、想は。前作での経験があるので年齢よりは大人びていますが、まだぜんぜん成長しきってはいない。なのに、「ぼくなら、やれる。ちゃんとやれる」と何度も自分に言い聞かせるでしょう。彼のそういう面は、書いていてとても愛おしかったです。孤独で、さらには孤高の少年少女、というのが僕は好きなのかな。ゲスト出演的に榊原さかきばら恒一こういち(『Another』の主人公)が登場して想にヒントを示す、というエピソードがありますが、恒一も好きなキャラだから、書いていて気分が盛り上がりました。このあたりはシリーズものの妙味ですね。


――いくつもの手がかりから、想はついに悲劇を止める方法に辿り着く。凄絶にして哀切、生と死が交錯するクライマックスは圧巻です。こんな真相が隠されていたとは……。驚きました。


綾辻:〈現象〉によって記憶や記録が改変・改竄されてしまうような〝世界〟では本来、フェアな謎解きなんてやりようがないんです。それをなんとか成立させるために、ぎりぎりの綱渡りを試みたという感じですね。いま「驚きました」という感想をお聞きして、少しホッとしました。〝無印〟では〈死の色〉を見ることができる鳴の存在が重要な役割を果たしましたが、今回はまず想自身が謎を解かなければいけない。本格ミステリが成立不能な〝世界〟の中で、どうやって解決までの道筋をつけるのか。これが一番の難題でした。



――『最後の記憶』をはじめ、綾辻さんのホラーでは記憶が重要なモチーフになることが多いですね。今回もまさに、失われた記憶が恐怖や驚きと結びついています。


綾辻:ああ、なぜでしょうかね。〝恐怖〟について考えていると、おのずとそうなってしまうんです。世界は人間の認識によって成り立っていて、記憶はその前提となるもの。世界の揺らぎやひずみの象徴として、記憶の不確かさを描いている──のかなあ。自分ではよく分かりませんね。ただ、「Another」で人々の記憶が失われたりするのは、あくまでも〈現象〉を成立させるためです。ネタありきで執筆した結果、記憶をめぐる物語になったという感じ……というか、そういった作例が多い気がしますね、僕が書くものには。


――ところで想は、通院している総合病院で、主治医の娘である希羽きはという少女に出会います。不思議な力をもっているらしい希羽は、ひょっとして次回作に繫がるキャラクターでしょうか。


綾辻:かもしれませんね。先に言ったとおり「Another」にはもう一本、続編の構想があります。おそらく二〇〇九年が舞台になるその物語への布石として、希羽は登場させておこうかなと。いつの日かその続編が書かれることがあれば、彼女の役割もはっきりするでしょう。


――それは楽しみです。では『Another 2001』を待ちわびていた読者に、メッセージをお願いします。


綾辻:さらなる続編については版元と読者の要望次第、というところがありますから、まずは『2001』を盛り上げていただければと。これまで書いたことのないタイプの作品でもあったので、完成までにはとても苦労しましたが、仕上がりは悪くないように思います。少しでも楽しんでいただければ、と願っています。もしも可能なら、シリーズ既刊二作を読んでから手に取っていただければ、とも。既読だけれども内容を忘れているという方は、発売までにおさらいをしておいてもらえると、たぶん三倍くらいは楽しめるはずです。


Another 2001書影

『Another 2001』
KADOKAWA 定価(本体2,400円+税) 
多くの命が失われた1998年の〈災厄〉から3年。しばらくなりを潜めていた〈現象〉が、またしても夜見山北中学三年三組に降りかかる。生徒たちは〈災厄〉を防ぐために新たな〈対策〉を講じるが、ある想定外の出来事をきっかけに歯車が狂いはじめ、ついに惨劇の幕が開く。『エピソードS』で見崎鳴と出会った少年・比良塚想の視点から描かれる、新たなる「Another」。理不尽に襲いかかる死の連鎖を、想と鳴は止めることができるのか――?

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綾辻 行人

1960年京都市生まれ。京都大学教育学部卒業、同大学院博士後期課程修了。87年、大学院在学中に『十角館の殺人』でデビュー、新本格ミステリ・ムーヴメントの契機となる。92年、『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。2018年度、第22回日本ミステリー文学大賞を受賞。近著に対談集『シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都』。

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