尋常じゃない血と汗と涙で大反響を呼んだ青春小説の金字塔『七帝柔道記』。その11年ぶりとなる続編『七帝柔道記Ⅱ 立てる我が部ぞ力あり』が3月18日(月)に発売されます! これを記念して、『七帝柔道記』の超ボリューム試し読みを実施!
15人の団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、締めは落ちるまで、関節技は折れるまで。旧七帝国大学のみで戦われる、寝技中心の異形の柔道「七帝柔道」。
その壮絶な世界に飛び込んだ主人公の青春を描いた本作は、柔道の話でありながら誰もが共感する普遍的な人間ドラマとして、各界で大絶賛されました。
とにかく面白過ぎて、読み始めたら徹夜必至! 至高の青春小説を是非お楽しみください!
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『七帝柔道記』超ボリューム試し読み【2/8】
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柔道部を辞めたことを告白してすっきりしたようで、一升が空くと、鷹山はそのまま床の上で眠ってしまった。鷹山に毛布をかけてやりながら、私は三年前の
私が高校二年から三年になる春休みのことだ。名古屋大学柔道部が、近隣の進学校を集めて初めて大会を開いた。
旭丘高校は三位に終わったが、そのことは当時愛知県で敵なしだった強豪の
問題はそのあとの合同練習だ。
私は名大生との
名大生たちの耳は一様に汚く
試合後のレセプションで、名大の主将が立ち上がり、私たち高校生たちを前に長い熱弁を振るった。
「試合後の合同乱取りで気づいたと思いますが、実は名大は君たちがやっている普通の柔道とはまったく違うルールで柔道をやっています。寝技中心の七帝柔道というものです。いま普通に行われている柔道は、柔道の総本山『
なぜここまで熱くなれるのかというほどのストレートな情熱だった。はじめのうちざわついていた百人以上の高校生たちは静まりかえった。
「井上
主将が紹介すると、隣に座っていた肩幅の広い老人が立ち上がって頭を下げた。
主将はさらに説明を続けた。
君たちは、今日、名大生に寝技に持ち込まれて歯が立たなかったでしょう。何もできなかったでしょう。でも実はうちの部員の何割かは大学から柔道を始めた選手です。君たちも数年間この道場で寝技の猛練習に耐えれば、ああいった寝技を身に付けることができます。それが七帝柔道です──。
名大杯のあの日、私はみんなと別れてから本屋へ行き、『北の海』を買った。
そしてそのかなり分厚い文庫本を、地下鉄の中で読み、電車の中で読み、食事中も入浴中も読み、そのまま午前四時半までかけて読み切ってしまった。
主人公の
小柄なその
洪作を、蓮実はこうかき
「金沢へ来ませんか。毎日、昼は道場で僕らと一緒に練習し、朝と夜は受験準備をする。僕らもはいって貰いたいから応援しますよ。そして、あわてないで、三、四年がかりで合格することを考える。三、四年勉強すれば必ずはいれますよ。それでだめなら、五、六年がかりにする。はいると、すぐ選手として使える」
そういう浪人生が金沢にはたくさんいるという。あまりに
蓮実は、自分たちの柔道に対する考えをこう話した。
「練習量がすべてを決定する柔道というのを、僕たちは造ろうとしている。そういう柔道があると思うんです。そういう柔道があるかどうかは、僕たちが自分でやってみないことには判らない。それをやろうと思っている。僕などは体は小さいし、力はないし、素質は全くない。四高へはいって、初めて柔道着というものを着た。練習量にものを言わせる以外、いかなるすべもないわけです」
蓮実はどうしても自分たちは宿敵六高(現在の岡山大学)に勝って高専柔道大会の覇権を取り戻したいのだと言った。
洪作は浪人生の身でありながら誘われて金沢に赴き、そこで四高の夏合宿に参加する。四高はその年も六高に勝てずに連覇を許したため、練習は壮絶を極めた──。
私が『北の海』に
その答を持つ名大生たちに私は実際に会ってしまったのだ。戦前の高専柔道を受け継いで特殊なルールで世間に知られずやっている七帝柔道という存在を知ってしまったのだ。
名大杯ではキャプテンの全高校生を前にした熱弁だけではなく、帰り際、私は何人もの名大の上級生たちに直接声をかけられた。
「待ってるから。必ず入ってくれ。力を貸してほしいんだ」
彼らの眼はみな自信に満ちていた。それは寝技が強いからという単純な理由とは明らかに違った。自分たちがやっていることそのものに対する自信に満ちていた。私がそれまでの人生で一度も会ったことがない種類の魅力的な男たちだった。
いったい、彼らのこの自信はどこから来るのか。
私はこの名大杯の二カ月後、五月にインターハイの愛知県予選に出て、なんとなく勝てるだろうと思っていたらなんとなく負けてしまった。
旭丘からは
家を離れて暮らしたかった。どこか遠くへ行ってみたかった。だから北大か東北大か九大を目指そうと思った。それまで私は柔道ばかりやっていて受験勉強どころか勉強そのものをまったくしていなかったが、のんびり二、三年浪人していればそのうちどこかに受かるだろうと思った。とりあえず一年目は観光気分で一番遠い北大を受けた。
しかしその受験時に、なにもかも純白の雪で塗り固められた札幌の街の
鷹山の寝顔を見ながら、私もこれで前に進めると思った。友達の鷹山が言いにくいこと──柔道部を辞めたことを、自分の口で言ってくれたのだ。
次の日、私は鷹山の部屋を出て西村アパートに移った。
作品紹介
七帝柔道記
著者 増田 俊也
発売日:2017年02月25日
青春小説の金字塔!
○「尋常ではないスポーツバカたちの異界。大笑いしながらよんでいたのに、いつの間にか泣かされてました」(森絵都/作家)
○「熱いものがこみ上げてきて止まらなくなる。私たちの知らなかった青春がここにある」(北上次郎/文芸評論家/日刊ゲンダイ2013年3月22日付)
このミス大賞出身の小説家、増田俊也が大宅賞と新潮ドキュメント賞W受賞作「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」に続いて出したこの自伝的青春小説は、
各界から絶賛され、第4回山田風太郎賞候補にもノミネートされた。
主人公は、七帝柔道という寝技だけの特異な柔道が旧帝大にあることを知り、それに憧れて2浪して遠く北海道大学柔道部に入部する。
そこにあったのは、15人の団体戦、一本勝ちのみ、場外なし、参ったなし、という壮絶な世界だった。
しかし、かつて超弩級をそろえ、圧倒的な強さを誇った北大柔道部は七帝戦で連続最下位を続けるどん底の状態だった。
そこから脱出するために「練習量が必ず結果に出る」という言葉を信じて極限の練習量をこなす。
東北大学、東京大学、名古屋大学、京都大学、大阪大学、九州大学、ライバルの他の6校も、それぞれ全国各地で厳しい練習をこなし七帝戦優勝を目指している。
そこで北大は浮上することができるのか――。
偏差値だけで生きてきた頭でっかちの7大学の青年たちが、それが通じない世界に飛び込み、
今までのプライドをずたずたに破壊され、「強さ」「腕力」という新たなる世界で己の限界に挑んでいく。
個性あふれる先輩や同期たちに囲まれ、日本一広い北海道大学キャンパスで、吹雪の吹きすさぶなか、
練習だけではなく、獣医学部に進むのか文学部に進むのかなどと悩みながら、大学祭や恋愛、部の伝統行事などで、
悩み、苦しみ、笑い、悲しみ、また泣き、笑う。唯一の支えは、共に闘う仲間たちだった。そしてラストは――。
性別や年齢を超えてあらゆる人間が共有し共感できる青春そのものが、北の果て札幌を舞台に描かれる。
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/321601000167/
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