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連載

わたしの読書記録術 vol.2

『元カレごはん埋葬委員会』の川代紗生が教える「わたしの読書記録術」——万城目学『鴨川ホルモー』を読んだあとに。

わたしの読書記録術

新しい本を1冊読む度、過去に読んだ本の記憶は少しずつ薄れてゆくものです。
あんなに心を揺さぶられたはずなのに、気が付けばさっぱり思い出せない——。

そんな経験がある方におすすめなのが「読書記録」。
いつどんな本を読んで、何を感じたのか。それらを整理しておくことで、1冊1冊から得た感動をいつでも思い返すことができます。

このコーナーでは、毎回特別なゲストをお招きして、とっておきの「読書記録術」を教えていただきます。
記録の仕方もこだわりも各人各様。思わずまねしたくなるアイデアに出会えるかもしれません。

本を閉じたあとに始まる、「読書時間のつづき」を一緒に味わい尽くしましょう。

川代紗生が教える「わたしの読書記録術」

ゲストのご紹介



川代紗生(かわしろ・さき)
東京都生まれ。早稲田大学国際教養学部卒。新卒でCCC株式会社に入社、代官山蔦屋書店を皮切りに書店員として経験を積み、執筆活動をはじめる。ブックカフェ店長時代にレシピを考案したカフェメニュー「元彼が好きだったバターチキンカレー」のメニュー告知用に書いた記事がバズり、テレビ朝日系『激レアさんを連れてきた。』に出演し話題となる。著書に『私の居場所が見つからない。』(ダイヤモンド社)、新刊小説『元カレごはん埋葬委員会』(サンマーク出版)がある。


川代紗生『元カレごはん埋葬委員会』(サンマーク出版)



「本屋教」の私が出会った一冊



 我々の戦いは書店の入り口を抜け、ずいと一歩を踏み出したその瞬間からはじまっている。そう、読書とは戦なのだッ! この世に無限に存在する大量の本たちの中から、運命の一冊を探り当てなくてはならない。さあさあさあいざゆかん、ずらりと立ち並ぶ書棚の前で、どの本を買うべきか、何時間も悩み続けるがいい——。
 えー、なんつって、かなり気合いの入った冒頭になってしまったが、まあ無理もない。なぜならわたくし、今しがた、万城目学先生の『鴨川ホルモー』を読み終えたばかりなのです。いやあ、面白かった。小躍りしたくなるくらい面白くて、なんだか文体までうきうきしてしまう。

 はい、というわけで、今回の企画では、『鴨川ホルモー』を読むことにしました。選んだ理由は簡単である、書店の文庫本コーナーから、私を呼ぶ声が聞こえたからだ。
 20代後半まで書店で働いていたこともあり、私は、読みたい本を探すときは、もっぱら本屋さんに行くことにしている。SNSなどのレビューを参考にすることももちろんあるが、それよりは、ずらりと並んだ背表紙のタイトルを眺め、美しい装丁にそっと手をのせ、そして、ぱらぱらと立ち読みしつつ、「私を読んで!」という声が聞こえてくるのを待つのが好きだ。
 私はいわば「本屋教」とでもいうべき一種の信仰を持っており、本屋の神様が、そのとき読むべき本を教えてくれるはずと心から信じているのだが、『鴨川ホルモー』はまさに、今年イチと言っても過言ではないくらいの天啓があった。「ビビッ!」と来たのだ。これは絶対に読まなきゃとそう思わされた最大の理由は、タイトルや装丁ももちろんだが、ぺらりと最初のページをめくったときぱっと目に入った、「出だしの4行」にあった。

 みなさんは「ホルモー」という言葉をご存じか。
 そう、ホルモー。
 いえいえ、ホルモンではなくホルモー。「ン」はいらない。そこはぜひ「ー」と伸ばして、素直な感じで発音してもらいたい。(本書4ページ)

 なんだなんだなんだ!? と、ぎょっとした、という表現が一番近いだろうか。語りかけるような言葉たちがリズミカルに並び、心地よく私の耳をくすぐった。ぐいと一気にページの中へと引っ張られる。どんどん先を読みたくなるのに、一方で、ずっと同じページに止まっていたい。一つひとつの言葉を噛み締めながら読みたい。そんな、不思議な引力が、冒頭数ページの段階ですでにあり、私はもうその瞬間、「これぞ運命の一冊だ」と実感したのだった。

「読書記録術」を大公開!

 そんなこんなで、『鴨川ホルモー』は読み終わるのがいやで駄々をこねたくなるほど面白く、読書期間中は、登場人物たちのみならず私までもが「ホルモー」の魔力に取り憑かれ(さっきからホルモーってなんだよと気になってる方、ぜひ本を読んで! ネタバレしないほうが絶対面白いから言えないの!)、仕事をしている最中にも「ホルモオオオォォォーッッ」と叫び出したくなる始末だったのだが、さて、読み終わったあとにもまだ仕事は残っている。そう、「読書記録」をどうやって残すか問題だ。

 正直なことを言うと、私はかなり大雑把な性格で、まめに読書ノートをつけたり、インスタグラムに感想を書いたり……ということがあまり得意ではなく、読んだら読みっぱなしにしてしまっていることがほとんどだ(手書きでびっしりと書き込まれた読書ノートなど、どれだけ憧れ、どれだけ三日坊主になり、そのせいで何冊のノートが犠牲になったことか)。
 結局、めんどくさがりな自分でも続けられることとして、2つの習慣だけが残った。

 1つめは、知らなかった語彙をiPhoneの「Safari」に残すこと。



 iPhoneに備え付けのインターネットアプリ「Safari」に、「タブグループ」という機能があるのをご存知だろうか。自分の好きなカテゴリごとにインターネットのページをまとめることができ、私は「語彙」というグループを作っている。

 たとえば、『鴨川ホルモー』を読んでいたときに「陥穽」という言葉が出てきたのだが、このような、「どういう意味?」と引っかかった言葉があったら、まず「語彙」のタブで調べるわけだ。そして調べ終わったら、そのままそれを「Safari」に残しておく。調べたページがそのまま、ボキャブラリーの単語帳がわりになるのだ。
 私は忘れっぽいので、知らない単語は一度調べたくらいじゃとてもじゃないが覚えられない。なので、検索したページごと残しておき、暇なときにまた眺めたりするようにしている。



 そして2つめは、とくに素晴らしいと思った言葉を、iPhoneのメモアプリに残しておくことだ。
『鴨川ホルモー』の場合は、くすっと笑ってしまった箇所を記録に残すことが多かったように思う。よくこんな表現思いつくなあと、拍手をしたくなるページばかりだった。
 たとえば、主人公の安倍は人並外れた鼻フェチなのだが、その鼻フェチぐあいがよく伝わってくる、私の大好きなフレーズがこれだ。

これまで、早良京子の人格に敬意を払って接してきたように、俺は早良京子の「鼻格」にも、十分な敬意を表してきた。(本書175ページ)

「鼻格って!」と思わず吹き出しそうになってしまった。とかく、この本には主人公による偏見だらけの造語や比喩が多く、それがまた、読んでいて楽しい。
 文章を書き写していると、目で文字を追っているだけでは気づかなかった表現の工夫を見つけることも多く、私は最後まで読み終えたあと、付箋を辿りながらこの作業をすることが多い。


 こういう、本をがばあっと開けるタイプのブックスタンドもおすすめです。書き写すときに、重宝している。

「読書記録」のこだわり・ポイント

 ところで私には、読書をするときに決めていることが1つある。
 それは、「容赦なく本を汚す」ということだ。
 私は、味わうように、まるで吸い尽くすように、徹底的に読み潰され、ぼろぼろになった本がとても好きだ。古本屋なんかに行くと、おそらく30年は下らないだろう、平成、昭和の読書家たちの遺産に、運よく出くわすことがある。傷んで薄茶色になったページの上に、鉛筆で丸く囲まれた比喩表現や、ちょっとした走り書きなんかを見ると、そういう読み方をした人がいたのかと、驚かされることがある。
 読み手のフィルターを通され、まるで別の本みたいに生まれ変わった本を手に取り、読む時間がたまらなく愛おしく、だからこそ私も、気に入ったページの角を折ってドッグイヤーをたくさんつくり、グサッときた箇所にはボールペンで赤線を引き、また、何度も読み返したいと思ったページには付箋も貼るようにしている。


注:現在は書籍紹介で掲載しているカバーで展開中

 こうして、本と対話しながら、自分の言葉を書き込んでいくことで、いい具合にくたびれた本は、読み終わった頃にはいっそう、愛おしい存在になっているものだ。

 自分が書店で働いていたからそう思うのかもしれないが、私は、できるだけ本が、日常に溶け込んだ存在でありますように、と願っている。
 本とは、「知的で教養のある人だけが読むもの」ではなく、気軽に触れられるエンタメの一つだ。それも、寝転がりながらでも、お風呂に入りながらでも、Wi-Fiが繋がらない場所でも読める、器がとんでもなくでかいエンタメだ。もちろん、ものを乱暴に扱うのはよくないが、寝落ちしてよだれがついたり、特定のページにだけ涙のあとがあったり、あるいは共感しすぎて波線を引きまくった箇所があったり——。そんな「とっておきの一冊」を、作家と読者がともに手を取り合って作り上げ、新しい世界を創造することこそ、読書の醍醐味ではないかと、私は思う。

 そうしてぼろぼろになった一冊が、本棚の中でひっそりと、次に「私を読んで!」と叫ぶ瞬間が来るかもしれない。
 昔の自分、こんなこと悩んでたっけなんて、ボロボロになった本のページをめくりながら、懐かしむこともあるだろう。
 本とはいわば、未来の自分への「申し送り書」なのだと、私は思っている。

 ここには載せられないが、『鴨川ホルモー』にも、申し送り事項をあれこれ書いた。未来の自分に託すつもりで、本棚に並べる。
 さて、忘れっぽい私が、何年後かにふと『鴨川ホルモー』を手に取り、私が書き込んだ赤線を見て何を思うか、今から楽しみである。

書籍紹介



鴨川ホルモー
著者 万城目 学
発売日:2009年02月25日

謎の競技「ホルモー」にかける大学生たちの青春!!
このごろ都にはやるもの、勧誘、貧乏、一目ぼれ。葵祭の帰り道、ふと渡されたビラ一枚。腹を空かせた新入生、文句に誘われノコノコと、出向いた先で見たものは、世にも華麗なひと(鼻)でした。このごろ都にはやるもの、協定、合戦、片思い。祇園祭の宵山に、待ち構えるは、いざ「ホルモー」。「ホルモン」ではない、是れ「ホルモー」。戦いのときは訪れて、大路小路にときの声。恋に、いくさに、チョンマゲに、若者たちは闊歩して、魑魅魍魎は跋扈する。京都の街に巻き起こる、疾風怒濤の狂乱絵巻。都大路に鳴り響く、伝説誕生のファンファーレ。前代未聞の娯楽大作、碁盤の目をした夢芝居。「鴨川ホルモー」ここにあり!!

詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/200809000377/
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