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連載

杉江松恋の新鋭作家ハンティング vol.1

ちゃんと真面目にふざけた小説。『同じクラスに何かの主人公がいる』 杉江松恋の新鋭作家ハンティング

杉江松恋の新鋭作家ハンティング

書評家・杉江松恋が新鋭作家の注目作をピックアップ。
今読むべき小説は、これだ!


昆布山葵『同じクラスに何かの主人公がいる』(KADOKAWA)


 どこで話がそっちの方向に行くのかな、と思いながら最後まで読んでしまった。
 そっちの方向、というのは、大人展開とでも呼ぶべきか。いつまでもふざけてないでちゃんとしなさい、と言われた大人が、はあい、と照れ笑いをしながら荷物をまとめ始める感じ。
 そもそも昆布山葵『同じクラスに何かの主人公がいる』(KADOKAWA)は、とてもふざけた小説なのである。
 作者が真面目にふざけていて、非常に好感が持てる。ふざけるのも体力がいる。ご飯をしっかり食べて、ちゃんとふざけているようだ。
 これは「ヒーローものの穴」小説である。「穴」ってなんだ、と言われるかもしれないが、落語にはそういうネタが昔からあるのですね。「歌舞伎の穴」とか「歌謡曲の穴」とか。流行歌の文句なんかをとりあげて茶化す。いわゆるツッコミを入れるというやつだ。「瞳を閉じて」なんて歌詞があったら、閉じるのは瞳じゃなくてまぶただろ、と横から一言。漫談・漫才で多用されている手なので、あるある、と思い出す人も多いはずである。
『同じクラスに何かの主人公がいる』のツッコミ役は「僕はこの世界の主人公ではない」と断言する高校生、二宮蒼汰だ。
 なぜそんなことを言い切れるのか。「答えは単純。なぜなら僕は、この世界の主人公を知っているからだ」。なるほど。
 同じクラスの神宮寺流星こそがその人物である。授業中に素っ頓狂な声を発したかと思うと、教室を飛び出して行ってしまう。戻ってくるとぼろぼろに大怪我をしている。何かの主人公としか思えない行動ではないか。
 その神宮寺に興味を惹かれた二宮がひそかに彼の観察を始める、というのが話の始まりだ。そんな行動に出るのも二宮が「普通で平凡で尋常なこの毎日を愛している」からで、「これといって劇的なことが起こらない一生を劇的に楽しんで生き抜いて」やろうと心に決めているのである。だから「触らぬ主人公に祟りなし」なのに、神宮寺は頼みもしないのに重大な秘密を口走り、二宮との間の距離を詰めてくる。

「ん? いくら俺が“炎の属性記録”に選ばれし戦士だと言っても風邪くらいは……」
「いや、シンプルに馬鹿だからって話なんだけど」
「二宮のなかの俺の評価って『シンプルに馬鹿』なのか? “惨劇の夜”に匹敵するほどショックなんだが」
「そういうとこだぞ」

 あれこれあって二宮が神宮寺と友達になるのが第1章で、第2章では待望のヒロインが登場する。それも食パンをくわえて脇道から神宮寺めがけて突進してくるという、あからさまなやり方で。こういう場面をつなぎ合わせる形で本作は成立していて、怪人と神宮寺が戦闘中に台詞で「めっちゃ説明してくれる」とか、ヒロインの胸の谷間が「四次元ポケットみたいになって」いてピッキングツールだろうが二本刀だろうが何でも出てくるとかのいわゆるお約束に客観的な視点から変さを指摘する、というのが二宮の役割なのである。
 漫才で言えばボケとツッコミの応酬量が並大抵ではないので、息切れせずによく続けられるな、と感心させられてしまう。美点のその一はそこだ。この作者、肺活量が多い。
 第二章でヒロインが出てくると、薄々そうじゃないかな、と思っていた問題が浮上してくる。あくまでも客観的に神宮寺周辺の出来事に言及する二宮にヒロインが「どうやって“作者の意向”に逆らっているのか」聞いてくるのだ。
 こういう話だから、いつかはメタ視点の話題が出てくるよね。
 主人公補正という言い方はもうかなり一般化していると思うが、ヒーローをヒーローたらしめるために作者は世界の法則をねじ曲げ、時にはご都合主義といってもいいやり方で矛盾を正当化する。どうやら自分のいる世界にそれが働いているのではないか、言い換えれば自分のいるのはそういうフィクションの中ではないのか、という疑念をごく初期から二宮は抱いているのだが、ヒロインの言葉で顕在化するわけである。そこからは作者という神とどう折り合いをつけていくかという話になっていく。
 どこかで大人展開になるのかな、と思い始めたのはこのあたりで、「モブキャラである僕は自分の感情を表に出さず、ただ『ざわざわ』という音だけ立てていれば十分なのだ」と悟りの境地にいる二宮が、果たして自分がまったく主人公ではない、それどころか神宮寺のために作られたと思しい世界と折り合いをつけられるのかな、というような考えがちらっと頭をかすめるわけである。目の前ではまさに世界から選ばれた二人がイチャイチャしたりしているわけだし。
 結論から言えば、世界の真ん中には絶対にいないという疎外感を二宮はどう処理するんだろうか、と心配する私をよそに、彼のモブキャラとしての自意識は揺れないのである。このへんの割り切り方はとてもいい。本書の美点、二つ目。それでいてちゃんと、笑わせる展開の中にヒーロードラマ的な山場も導入している。傍観者の立場を崩さずに、神宮寺を助けるようなことを二宮はちらっとやるのだ。モグラ獣人的な働き方がいいね。作者は読者の喜ばせ方をよくわかっていらっしゃる。美点の三つ目。
 まとめて言うと、いわゆるベタな笑いを提供しながら、自分でそれに照れてしまわず、最後までやり抜いている、いい滑稽小説だということだ。少しだけ熱くなるような場面を入れる緩急のつけ方もよくて、娯楽作品の基本を守っている。本書は「小説家になろう」連載をまとめたものだというが、いいデビュー作である。次の作品も思い切りふざけて読者を楽しませてください。

昆布山葵同じクラスに何かの主人公がいる』の詳細はこちら(KADOKAWAオフィシャルページ)
https://www.kadokawa.co.jp/product/321911000189/


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