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連載

矢月秀作「プラチナゴールド」 vol.4

【連載小説】武闘派女刑事と合コン大好き美女警官。 はみだしコンビが巨悪に挑む‼ 矢月秀作「プラチナゴールド」#1-4

矢月秀作「プラチナゴールド」

※本記事は連載小説です。

>>前話を読む

「そういえば、先輩はなんで、警察官になったんですか?」
 顔を手鏡に向けたまま、能天気な声でいてきた。
「私は……正義のためよ」
 つばきが答える。
「かっこいいですね。憧れます」
 りおは適当に返した。
 つばきは込み上がってくるいらちを飲み込んだ。
 正義のため、と答えたが、本当は違う。
 つばきは高校生の時、二つ年上の大学生と付き合っていた。
 有名大学の理系の学生で、背が高く、目鼻立ちの整ったせいかんな顔をしているイケメンだった。
 長身で彫りの深い顔立ちのつばきと並んで歩くと、モデルのカップルが歩いていると間違えられることもあった。
 付き合い始めて、半年経った頃、つばきは大学受験に備えるため、デートの頻度を減らしたいと男に伝えた。
 男はいつも優しく、つばきの申し出は常に受けてくれていた。
 その時も、男が受け入れてくれると思っていた。
 が、その申し出をきっかけに、男はひようへんした。
 一日のLINEやメッセージは二百通を超える勢いで届くようになり、返事をしないと電話がかかってきた。
 たまに会うと、男のマンションにほぼ監禁され、少しでも逆らうと暴力を振るわれるようにもなった。
 男は、受験のためという理由は虚偽で、他に男ができたと勘違いしたようだった。
 つばきは必死に、男の誤解を解こうとしたが、説得しようとすればするほど男は疑念を深め、暴走した。
 嫌気がさしたつばきは、男との連絡を絶った。
 その一週間後、男はつばきの家の近くで待ち伏せ、つばきを刺した。
 つばきは抵抗し、逃げながらも、死を覚悟した。
 と、通りかかった女性が、つばきと男の前に立ちふさがった。
 女性は、向かってくる男とたいしても身じろぎもせず、男を見据えた。
 そして、男が刃物を振り上げた瞬間、男の懐に踏み込み、腕をつかんで一本背負いを決めた。
 まるで、アクション映画のワンシーンを観るような、見事な投げ技だった。
 女性は背中を打ちつけて息を詰めた男をうつぶせに返して腕をねじ上げ、背中に膝頭を落とした。
 押さえつけられた男はわめき暴れるが、起き上がることはできない。
「一一〇番して!」
 女性が声を張った。
 通行人が携帯で警察に連絡を入れた。まもなく、パトカーが到着し、制服警官が降りてくる。
 女性は制服警官に身分証を見せた。制服警官が敬礼をした。
 男が手錠をかけられ、パトカーに乗せられたのを認め、つばきはホッと息をついた。とたん、腹部の痛みに気づき、脇腹を押さえて両膝を落とした。
 女性は救急車を要請し、つばきに駆け寄ってきた。
「大丈夫? すぐに救急車が来るから」
「ありがとうございます」
 つばきの目からはあんで涙があふれ、そのまま気を失った。
 その女性が警視庁の刑事だと知ったのは、入院中だった。
 女性は何度も見舞いに来てくれて、つばきを励ましてくれた。
 一方、退院したつばきに対し、両親や友人は冷たかった。
 両親は男女トラブルを起こした娘を嫌忌し、友人は傷害事件に巻き込まれたつばきを異質な目で見るようになって離れていった。
 つばきは恐怖症に近い人間不信に陥り、部屋に引きこもった。
 女性刑事は、そんなつばきを心配して、何度も訪ねて来てくれた。
 そして、女性たちをつばきと同じような目に遭わせないために、警察官にならないかと誘ってくれた。
 唯一、信頼できる人からの提案──。
 つばきは受け入れ、高校を卒業してすぐ公務員試験に合格し、警察学校へ入った。
 当時、つばきを救ってくれた女性刑事は、五年前に定年を迎え、退職した。
 辞める際、つばきは、自分のあとをよろしくと、その女性刑事に託された。
 以来、その人に近づこうと精進している。自分の生きる道は、ここしかないと思っていた。
 りおは化粧を終え、スマートフォンを取り出した。
「先輩、これから合コンがあるんですけど、一緒に行きます?」
「行かないよ」
「残念。先輩、見た目は映えるから、ゲストとしては最高なんだけどなー」
「知らねえよ」
 思わず、言葉尻がきつくなる。
 が、りおはしらっとして、スマホをいじろうとした。
「あれ?」
 りおの指が止まる。
 スマホの画面を何度も叩く。
「やだ。また、通信障害?」
 りおは画面を指でつついた。
 つばきはりおの手元を覗き込んだ。アンテナのシグナルが消え、×が付いている。
「貸して!」
 つばきはりおからスマホをひったくった。
 三課の番号を叩き、通話ボタンを押す。ノイズが走った。
 渋谷の時と同じだ。
 つばきはりおにスマホを返し、運転席へ移動した。無線をつかみ、本庁に連絡を入れる。
「こちら、三課の椎名。吉祥寺周辺の携帯基地局のデータを転送して。車両ナンバー、さし36──」
 連絡を入れると、すぐに基地局のデータがセンターコンソール正面に付けたタブレットに送られてきた。
 それを見て、一番近い場所にある基地局が設置されたビルを特定する。
 カーナビにそのビルの位置を入れ、案内を開始し、エンジンをかける。そして、いきなり発進させた。
 りおが、キャッと悲鳴を漏らし、シートにもたれた。
「どこ行くんですか、先輩!」
 りおが訊くが、つばきは返事もせず、運転する。
「ちょっと、これから合コンなんですけど!」
「その前に仕事だよ!」
 つばきは怒鳴り、アクセルを踏み込んだ。

▶#2-1へつづく
◎第 1 回の全文は「カドブンノベル」2020年7月号でお楽しみいただけます!


「カドブンノベル」2020年7月号

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